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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
third chapter 運命の歯車

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91章 生体電気

 例え向こうに響いていなくとも時間稼ぎにはなる。そういう計算だったのだが、


 「ごめん……ごめんね……」


 少女は申し訳なさそうにうつむいたあと、誰か別の人間に語るかのような様子で呟いた。心ここにあらず、といった表現が近いか。


 「もう、あたしたち……戻れないからっ……!だから、やめるわけにはいかないの!」


 「戻れない……?それはどういうーー」


 梶樹が喋らせてもらう暇もなく、少女は凄まじい速さで飛び込んで来た。さっきの全開放らしい暴走よりは少し落ちるがそれでも一般人が出せる膂力の限界を明らかに淘汰していた。


 (重っ……すぎる……!)


 拳の一発を受け止め、回し蹴りを肘でブロック。一見すると拮抗した組み合いに見えるが実際は受け手の梶樹は徐々に限界を感じていた。右腕を痛めた状態でかつロクに攻める手段を持たない梶樹は受けに回るしかないのだが、一撃一撃の攻撃がとにかく身体に響く。


 身体強化の有用性は覚羅を見ていて既に十分理解していたつもりだったが、こうしてみると想像以上に相手どったときの脅威が大きいことがわかる。しかも何故かは知らないがこの子の場合は自分ヘの負荷を完全に無視して能力を使っているのだからさらに辛い。


 瞬間移動の連続しての使用は相当の負荷。流石に命に関わるような反動はないと信じたいが気だるさは今でもかなり感じる。ズキズキと、まるで芯まで響いているかのように痛みだ。


 「流石に……聖人ってわけにはいかないよな……!」


 梶樹が限界を感じ、飛び込んできた少女の上段蹴りから投げ技に派生して反撃をしよう考え始めたまさにそのとき。


 弾ける火花のような音が足元から鳴り響き、床のタイルから青白い蛇が頭を覗かせた。それを見た瞬間、過激なまでの攻撃を繰り出していた少女の動きがぴたりと止んだ。


 その瞬間、梶樹は膝から崩れ落ちた。安堵から気が抜けてしまったらしい。


 「おにぃ、ごめんなさい……思ってたより、遅くなっちゃった……」


 繭愛が駆け寄ってくる。見ると、繭愛が歩を進めるたびになにか、波紋のような輪が広がって大きくなるのが分かった。どうやら()()()()()ようだ。


 「いや……いいタイミングだ…………っ痛ぁ……」


 「だ、大丈夫?ずっと蹴られてたから、途中から心配だったんだけど……」


 そそくさと袖を捲ろうとする繭愛を制し、梶樹は繭愛の手を握り返してゆっくりと話した。ここでいらない心配をかけてしまうと、せっかく好転した状況が悪くなるかもしれない。自分のためにも繭愛のためにも、まずは自分が落ちつきを取り戻すことが先決だった。


 「平気さ。……だいぶ無理しすぎたみたいだけどな。それより繭、これはどうやってるんだ?」


 「え、う……うん。えぇとね……」


 大分無理やりだったが納得したらしく、自分への意識を逸らせることができた。後で叱られなければならないだろうが。


 手短に繭愛の説明を聞いたところ、この現象は《電磁領域》を用いたものらしい。原理としてはいわゆるスタンガンのようなものだが、それとは違い流している電流の()()が異なる。


 人を含めた動物の筋肉は脳から発する微弱な電気による信号のやりとりで動いているのだ。思った通りに身体が動くのは、脳から手足の各器官への伝達速度がわずか一秒とかからずに素早く行われているからに他ならない。


 スタンガンの原理は太い血管に電流を流し、急な電気信号の負荷によって筋肉を収縮させるというもので、筋肉が動かないのだから身体が動くわけがない。それを応用し身体に流れる生体電気と同じ程度のごく微弱な電流を流せばどうなるかーー?


 「……つまり、彼女たちは今自分の意思で身体が動いてないってことなんだな?」


 「うん……でも、ほんとに大丈夫……?おにぃ、すごい辛そうな顔してるよ?」


 「大丈夫だって。ほら、そんな心配性だとせっかくの美人が曇っちゃうだろ。笑って笑って」


 そっと腕に触れようとする繭愛を留めて、梶樹は逆に脇腹に手を差し入れてくすぐってやった。あまりに気を病んでしまうのはよくないから、などと心の中で正当化しておく。


 「や、それ……!やだったら…………もぅ……」


 悶えて倒れそうになる繭愛を支えていた梶樹は、ふと背後に視線が集まっているような気配を感じた。それは予想通り電磁領域の範囲から離れた場所にいた少年のものだった。


 距離にして五メートルもない。何か、汚いものを見るような怒気を孕んだ眼でこちらを睨みつけていた。


 「お前っ……!何をした!!ぼくの奴隷たちが言うことを聞かないじゃないか!」


 少年からはさっきまでの余裕は微塵も感じられなかった。手足となる彼女らの動きが封じられたことでとっくに消え失せていたようだ。


 梶樹はきっと険しい表情に戻し、悪戯(くすぐり)をやめて向き直った。そして、言い放つ。


 「それはこっちが言う台詞だろ?……お坊っちゃん」


 

 


 


 


 


 

 


 

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