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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
third chapter 運命の歯車

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87章 狂乱

 「…………!」


 少年の台詞に、二人の繋がった手に込められた力が強さを増した。


 ここからの距離は約十メートルほど。脱退するにも階段は向こうが降りてきた一箇所のみ、他はエレベーターが見えているが、下手に乗ろうとしても阻止されるだけだろう。


 (闘るしかないのか……?ここで……)


 最初から人数的不利を背負ったうえで、相手の能力が見えていない最序盤からの殴り合い(バトル)。向こうにも同じリスクはあるが、どちらにしろ逃げが取れないなら受けるしか道はない。


 繭愛もそれは承知のようで、ほんのわずかに髪から電気の流れが見えている。繭愛が帯電箇所をコントロールしなければ、梶樹はとっくに感電しているところだ。


 アイコンタクトを挟み、梶樹と繭愛は繋がっていた手を今、そっと離した。




 「じゃ、いってみようか。全力で、だよ?そのくらい理解してるよね」


 少年はくい、と眼鏡のフレームを上げて側に連れている少女のうちひとりに視線をよこした。見かけでは少年のほうが年下なのだが、その態度と周りの扱いはどこか大きいものがある。


 「ひっ……!」


 少女はあろうことか、ひどく怯えた反応を見せた。知らず知らずのうちに後ろに退こうとして、段差に足をとられかける。


 危うくつんのめって転倒するところだったが、別の少女が身体を支えて立て直した。


 「大丈夫……?」


 「い……いや…………!だって、そんなことしたら……ワタシは……ワタシは……!」


 頭を抱えてうずくまる少女に、少年は呆れたような顔になりため息をついた。対応が気に入らなかったのか、しきりに後頭部を掻いている。


 「あのさぁ、キミ。ここまで勝ち抜けてきたのは誰のおかげだと思ってるわけ?無能なキミらをぼくが上手く使()()()()()()からじゃないの?違う?」


 「そ、それは……」


 「まぁ、いいよ。そっちがその気ならこっちにも考えがあるからさ。あー、ホントはしたくないのになぁ。でも、仕方ないよね、ぼくのいうことが聞けないんだからーー」


 ギラリ、と少年の眼鏡のレンズが怪しく光ったような気がした。そのまま、少年はなぞるように空に指で書き上げ……


 「待って、ハジメくーー」


 パァン!


 言いかけた二人目の少女の頬に、平手打ちが飛んだ。小柄な少年の力はどうやっても非力としかいいようがなかったが、それでも不意打ちの分ロクな受けもできない少女の身体は宙を仰いで横に倒れた。


 少年はその少女の手を思い切り踏みつけ、グリグリと床に押し付けた。


 「いっ……!ああっ……!」


 「待ってください、の間違いだよね?それに呼び方も違う。ぼくを呼ぶときはご主人様、だったよね」


 「ひいっ……」


 残りの二人は少年の所業にすっかり怯えきって、かたかたと震えるばかり。尚も少年は倒れ伏した少女の前髪を掴み、ぐっと引き寄せ顔を上げさせた。


 「ねぇ……ぼく、何か間違ってるかな?違うんなら違うっていってよ。一応耳ついてるんだし」


 少年の眼に映るのは無論、引っ張り上げられた少女の姿なのだが、どこか別の場所を見ているのかと思わせるほどに少年の瞳には()()()()()()()()()


 (こいつ……!)


 少女は手を上げようとして、辞めた。少年の膂力はあまりに貧弱で、払いのけて仕返しに一発ビンタをかますなんてことは簡単のひとことだった。しかし、少女は逆らえない。ここまで生きて勝ち残ってこれたのは事実であるし、多少なりとも感謝の念はある。それに足るだけの力もある。


 だが、それを加味したとしてもーーあまりにも少年の態度は横暴すぎた。


 (あたしたちのことなんて、なんっにも見てないくせに…………)


悔しさで噛み締めた唇から血が流れる。けれど、唇が切れた傷の痛みさえ、少女の悔しさの慰めとはなり得ない。じわりと熱いものが奥から込み上げて、少女の目尻から涙が溢れた。ぽたり、ぽたりと床に水滴がこぼれる。


 「あーあー、なに泣いてるんだか。泣きたいのはこっちだっつうの。もういいや、無視無視。さっ、お二人さん行ってみようか」


 「……っ」


 自分たちよりもひと回り年下だというのに、少年の言葉には強い強制力がある。側から見ていれば珍妙な光景に見えたはずだご、彼女たちが身を置いているのは絵に描いたような蛇に睨まれた蛙の状態だった。


 「ほら、さん!に!いち!」


 煽動する少年の手拍子が苛立っているのかどんどん早くなっていく。彼女たちはそれを見て、もうこれ以上は危険だと判断した。逆らえば、自分が危ないからだ。


 「わ、わかったよ……」


 「ちょっと待ちなって。あんたがソレやったら……」


 「でも……でも……もう、()()()()()()()()()……!」


 少女の心は、もう既に折れていた。それも、二度と修復不能なほど完膚なきまでに。


 恐怖と忌避で怯える彼女らに、少年はにたりと笑った。それから人が変わったような爽やかな笑顔で、最後の火をつけた。


 「負けたらお仕置きだからね、頑張ってね〜」


 次の瞬間、少女の意識が途切れて爆ぜ、およそ人のものとは思えない咆哮がこだました。




 


 


 

 

 


 

 


 

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