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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
third chapter 運命の歯車

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86章 下車

 ドアが完全に開くのを待ってから、二人は足早に電車の外へと足を踏み出した。カタン、という硬い床と靴が擦れ合う音が鳴り響き、左右に退けたホームドアをくぐると、規模の大きさに思わず息を呑んだ。


 「大きいな……どこまで来たんだ?」


 形としては駅にはよくあるプラットフォームだ。ホームドアが設置されているところを見ると、かなり大きな停車駅に停まったらしい。住んでいる地域が片田舎ということもあってか、ここまで広いホームを見たのは修学旅行で新幹線に乗ったきりだった。


 しばし辺りを見回していると、乗ってきた電車のドアが閉まり、耳障りな発車ベルがどこからか聞こえてきて、そのまま走り去っていった。


 乗員が消えた電車の次の目的地はどこなのかと、思いを馳せずにはいられないが、今は状況の把握を優先すべきだろう。

 

 「地下鉄……か」


 隅の柱に進行を促す張り紙があり、そこからそれほど遠くない位置に階段が見える。なるほど、暗くて窓の外が見えないと思っていたのは地下トンネルの中だったからなのか。ただ、プラットフォームにもやはり他の人影はなく、無人と化してしまっている。喧騒とした人の流れと忙しない空気が充満しているイメージの反面、無人駅というのはこれまた別世界のような不可思議な違和感がある。


 と、空気に呑まれる前に自動アナウンスを告げるベル音がスピーカーから流れた。しかし、声の持ち主は聞き慣れた機会音声ではなく、女性らしいハイトーンボイスだった。誰かと思えば、開会式に説明をしていたあのハイテンションガールだ。


 「へーい!ここまで勝ち抜けたプレイヤー諸君!朗報だぜぇ!第一ステージは今回の四戦目をもってファイナルぅ、、、、ファイッ!!お前らが生きて帰れるかはぁ…………ここからの展開にかかっているぞぉー!」


 (…………!)


 梶樹は心中、拳を固く握り締めた。日数にして約三日だが、体感はそれ以上といっていい。現実世界では同級生やお隣さんから捜査願いが出ているかもしれないが、ここは鏡のようにそっくりな別の世界。警察どころか連れて来られたプレイヤーたちと運営側の人間以外に人がいない世界なのだ。次のステップに進めると思うだけで、底知れない感情の渦が湧いてきた。


 「四戦目は特別ルール!二人ずつまとまって配置された状態からスタートし、敵側と遭遇したら戦闘開始!一時間以内後に人数の多い側の勝利となーる!味方との合流が先か、敵との遭遇が先か!スピード勝負だぞぉー!」


 聞き終えてから別に変わったところはなくないかと思ったが、なるほど時間制限がついたらしい。これまでは無制限だったことを考えると、良心的ではある。ただ、スピード勝負というのは最初からそうだったはずなのだが……。


 「それではぁ…………開始までぇー!ワン!ツー!スリーいいぃ!」


 考えがまともに噛み合わないうちに、開始のブザーが鳴り響いた。勢いで押せ押せなのは分かるが、今は念入りに説明が欲しいところだ。ただサイドウェポンの件もそうだが、運営側は詳しい解説をしない傾向にある。自分の頭で考えて動け、ということか。


 心なしか、空気の流れがピリピリとした緊張感のあるものに変わった気がする。このプレッシャー、圧力は何度味わっても慣れることはないだろう。それに、慣れたとして現実へ戻ったときどうなっているのか。完全に元の日常へは帰れなくなる気がしてならない。


 「ねぇ、おにぃ……どうするの?探しにいくの」


 そんな梶樹を引き戻すようにくいくい、と繭愛が上着の袖を引っ張る。


 スピーカーと睨めっこをして天井を見上げていた梶樹は、自らを呼びかける少女の手を取った。


 「そのつもりだ。どっちにしろ、魅緒さんのこと放っておくわけにはいかないし」


 覚羅がついているだろうが、単独が危険なことに変わりはない。運営の意図した方に向かうことになるが、やはり合流は素早く終わらせておきたいところだ。


 「ついてきてくれるか?繭」


 「うん、もちろん」


 こくん、と繭愛は頷き、ふっと微笑を浮かべた。


 そして、先ずはどこから回ったものかと地上へ登る階段へ足を向けたとき。


 ーーそのときだった。


 「ーー見つけたよ、お相手さん」


 向かった階段の先、地上方面から聞き覚えのない声が地下鉄内に反響した。コツ、コツ、と靴が床を叩く音が聞こえる。それも、次第に大きく、()()()()()()()()()()()


 「っ…………!?」


 思わず、身構えた。そしてそれと同時、向かってくる人影の()に、戦慄が走った。


 四人、だとーー!?


 あり得ない。まだブザーが鳴ってから間もないというのに。目の前に映るものが信じられず、梶樹は我が目を疑った。


 「おいおい、なに驚いてんだか。ま、いきなり人数不利つけられたら仕方ないか」


 先頭に立つ男の子がくっくと笑った。背格好からして中学生前半といったところか。灰色パーカーのポケットに手を突っ込んで、ゆっくりと降りてくる。


 背後には高校生くらいの、それぞれ同い年ほどと思われる女の子が三人。しかし、その目はどこか虚空を見つめているかの如く浮かないものだった。


 「じゃ、さっさとお片づけしちゃおうか」

 

 

 

 


 

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