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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
third chapter 運命の歯車

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84章 変形

 席の並び方からして環状線といったところか。ここまで開幕のステージは多様なものばかりだったが、移動している列車の中とはまた新しい。それに、真新しいものはもうひとつ。


 (前まではバラバラに分かれて始まったが……変わったのか?それとも……)


二回目の際にあった説明から、今後は仲間同士離れた位置からスタートすることになっていたはすだ。そのせいで能力に著しく差がある魅緒や、直接の攻撃力を持たない梶樹は大きなリスクを抱えることになったのだが。


 「もう、大丈夫か?」


 「……うん。ちょっと、びっくりしただけだから」


 致し方ないこととはいえ、ほとんどセクハラまがいの醜態を晒してしまったのは否めない。昔はくすぐりでも遊びで済ませられたとしても、今となってはそうもいかない。まぁ、この前の夜にあったことを考えればおあいこで片付けられたかもしれないが。


 呼吸のリズムを整え、繭愛は列車の席に背を預ける。まだ少し頬が紅潮しているが落ち着いてくれたほうだろう。


 「……あれ?おにぃ、あの球は?」


 「え?……あ、本当だ、なくなってる……」


 いわれてみれば、持っていたはずのあの球が見当たらないはずみで落としてしまったのかと思ったが、それならすぐに気づいたはずだ。つまり、ここに来たときには最初から消えていたことになる。


 持ち物の類は一緒に転送されないのか、と梶樹がため息をついたとき。


 ーーワタシを、オ呼ビデスカーー


 どこからか、声がした。ひどく角ばった、機械的な声。ついさっき聞いたものと同じものだった。


 「なんだ?どこから……」


 球体が喋っているのであれば近くにあるはずなのだが、あいにくと影も形も見えない。いったいどこへいってしまったのだろうか。


 ーーココデス、ココーー


 「ここって……だからどこにーー」


 「おにぃ、待って。それ……指輪?」


 「ん?俺は指輪なんてつけて……っていつの間に!?」


 繭愛が指摘した通り、梶樹の左手薬指にぴったりと、黒い無骨なリングが嵌まっていた。梶樹は普段からアクセサリーの類は身につけておらず、そもそも面倒だからと高価な宝石がついた両親の置き土産であるネックレスなどもほとんど物置の肥やしになってしまっているのだ。


 そんな理由もあって、自分に指輪がつけられているなどとは考えもしなかった。気を取られすぎたのもあるが、まさかこんなに近くにあるとは。灯台下暗しとはまさにこのことである。


 「まさか、さっきから喋ってるのはこいつか?」


 ーーイエス。ワタクシハ、ヨハネスホッパー自動音声デゴザイマス。持チ主デアルアナタサマニ適正ナ形ニ変化スル仕様トナッテオリマスーー


 「て、適正な形?」


 何をいっているのかさっぱりだ。外付けハードディスクのような外部メモリなのかと予想していたのに、まるっきり別物どったということにも驚きだが、そこそこ質量があった球体からここまでコンパクトな指輪に変化するとは、いったい何でできていたのか。


 ーー登録完了。コレヨリ、自動案内ヲ終了イタシマス。補足デスガ、登録サレタ方以外ノ人物ニハ今後適応サレマセン。ソレデハ、御武運ヲーー


 ぷつん、と切れるような音が聞こえ、それきり指輪からは何の音沙汰もしなくなった。叩いてみても、ゆすってみても、うんともすんともいわない。


 「なんだったんだ……?」


 サイドウェポンというのだから、不思議な力が働いてもおかしくないと踏んではいたが、予想以上に起こりすぎた。元の球体がなんだったのかさえ、今となっては確かめることすらできない。


 ただひとつ、確かなのは、この指に嵌められたリングは、決して嘘偽りではなく、現実に存在するということだ。


 (俺に合った形になる……か)


 リングに視線を落とし、じっくりと視界に収める。黒いといっても単色なわけではない。中央に僅かに淡い、藍色に近い色で小さな球が埋め込まれているように見える。それに、こうしてつけていても重さを全く感じない。カーボンか何かでできているのか、それとも金属を使わない指輪なのか。


 (はぁ…………埒が開かないな)


 考えれば考えるほど、毛糸を転がすように、思考が絡まっていく。一度気にしたらキリがなさそうだ。


 「おにぃ、ねぇ……それ、ほんとに普通の指輪じゃない……のかな」


 「あぁ、俺も聞きたいよ。説明書が欲しくなるな」


 繭愛の手前、笑って誤魔化したが、内心梶樹はかなりもどかしい思いを感じていた。気になって夜も眠れないような神経質な性ではないつもりだが、異能力ゲームであるこの舞台では常に"死"という概念が付き纏う。


 こんなチャチな道具に命を預けられるほど、梶樹は盲信家でもなければ馬鹿でもないのだ。


 





 


 


 

 

 

 


 

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