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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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75章 オトナ

 炎の温度は色によって異なるが、約1500度から6000度まで変化する。水の沸点が100度と考えると、火自体からの熱はそれを大きく上回る。


 しかし、この怪物カマキリはしぶとく生き続けている。あの体表は耐久性のみならず、耐火性をも兼ね備えているというのか。


 焼かれたことで頭にきたのか、鎌で周囲をやたらめったらに振り回している。その度に堅い植木の幹に傷がつき、バランスを崩したものは横倒しに倒れていく。


 「ちょ……カマキリ激おこじゃん。そりゃ火炙りされたらぶちギレてもおかしくはないと思うけどさ……」


  魅緒がそのあまりの勢いに口が開いたまま震える声でつぶやいた。なにしろついさっき殺されそうになったばかり。触らぬ神に祟りなしとはよくいったものだ。


 「ミカゲちゅあん、プラン変更はいいけどあちしとの約束忘れないでちょうだいね」


 「……分かってますって。とにかく、ここは脱出をーー」


 ーーそのとき、()()()()


 近くにヘリコプターのプロペラが回るような連続音が……例の()()が響いていることに。


 この音源の正体がなんなのか、それはいわずもがな梶樹に更なる恐怖と試練を与えた。


 (ハチのほうが……近づいてるのか?何故……)


 居場所を特定されるようなものは何もない。むしろ、精度は低いもののレーダーがあるこちら側のほうが見つけやすいはずなのにだ。

 

 瞬間的に思考をめぐらせる梶樹の眼に、もくもくと上がる黒い煙が映った。あれはサイコガンで放った熱が引火して植木が燃えて燃焼したことによるものだ。


 「あ……!」


 案外に単純な答えだ。


 おそらくだが、ハチは燃焼した際に発生する煙に反応して引き寄せられたに違いない。蜂駆除のテレビ番組などでのイメージからして煙が苦手という意識があるかもしれないが、むしろそれが()()だった。


 もともと生き物は危険に敏感である。危険を避けて世代を繋ぐ。これが全ての"命"あるものに共通して当てはまるロジックならば、自分の身の危険にはとにかく敏感。いや、過敏だったほうが有利といえる。


 煙イコール火の気という式が嫌でも焼き付いているのなら、撤退か観察か。間の悪いことにチカラをつけてしまった本能故か引き寄せられてきたのだろう。


 「匂い……か」


 先程からやけに鼻につく刺激臭が漂っている。当然燃焼による煙の匂いだが、蜂類は制汗スプレーなど嗅覚に敏感な種別にあたる。遠方からでも場所を特定するのは難しくない。


 「か、カゲっち!どーすんのさ!なんかよくわかんないけどヤバいってことだけはアタシにもわかるよ!」


 「……とりあえず、ここから出ること優先で」


 「あちしも賛成よ。また()()は正直撃ちたくないわ」


 「意義なっし!」


 魅緒が脱出に賛同すると、梶樹はカマキリの動きを見計らってから《迅雷鳴動》で瞬間移動(テレポート)した。

 



 次に見た景色は緑の芝生が広がるゴルフ場だった。


 まだ行ける場所が限られているためか、梶樹がイメージできたのはここだけだった。


 「ふぅう……助かったぁ〜」


 詰まっていた息を吐き、胸に手を当てて自分の心の臓がしっかりと鼓動を刻んでいることを認知すると、魅緒の身体になにやら感慨深いものが昇ってきた。


 実際、梶樹が助けてくれなければ今ごろは八つ裂きの目に遭っていたことだろう。こうして風を肌で感じることも、もうなかったかもしれない。


 けれど、この状況を素直に喜ぶことは出来なかった。


 「カゲっち、教えてよ。なんでこの人と一緒にいたん?下手したら後ろから寝首かかれるんじゃないの」


 スパっと切り出す魅緒。


 やはりというかなんというか、海老蔵と呼ばれたかの男も共に離脱していたのは気掛かりでしかない。


 そもそもこのゲームで敵対した場合はどちらかがリタイアするか戦闘不能による強制回収で全員を倒さなくてはいけないのに、梶樹の行動はクリアへ向かうのと矛盾している。


 「その質問はいただけないわね」


 梶樹からリアクションがあるかと思ったが、返したのは例の海老蔵だった。


 「裏切る、なんて行為は三流のすることよ。きちんとした一流のオトナなら約束、及び契約は絶対厳守するもの。他のぺーぺーと比べないで欲しいわね」


 「命かかってるんだから疑うのは当たり前じゃんか!現にカゲっち、昔馴染みの子とも闘り合ったんでしょ?いくらなんでも怪しすぎ」


 咲のことは昨日の夜であらかじめ把握している。最も、初日の段階で小学生の倫理感ガン無視破壊行動を目の当たりにした時点で決めていたのだが。


 このゲームで他人を信じることは難しい。それが味方であることの何の保証もない相手なら尚更のこと。


 本来なら《以心伝心》で探ることもできたのだが、死に近づいた恐怖のせいか上手く発揮できない。梶樹が話せないというなら、今までの仲も考え直さなくてはいけないだろう。


 「いや……話せなくはない。それに、結局は魅緒さんにも知って置いてもらわなきゃいけないことだし」


 しばらく考えこんでいた梶樹が、頭を上げた。


 ちらりと海老蔵のほうを一瞥し、目線を合わせる。本人確認だったのか、海老蔵からは特に何も動くことはなかった。


 「知っておいてもらわないとって、どゆこと?」


 「……まだ繭にも十束にも会えてないから、集まったら話そうと思っていたけど」


 梶樹はこほん、と咳払いをして続けた。


 いつになく真剣な目つきで、それまでの空気にぴりっとした緊張感が走る。


 「今回の対戦は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ってこと」


 


 



 

 


 

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