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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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72章 目撃

 「うええ……皆どこ行っちゃったの……?お姉さん、寂しくて孤独死しちゃうよぉ……」


 泣き言つらつらで重い足取りの魅緒は今、長く続いた階段の最後の一段を降りきった。


 最初の転送位置がそもそも遊園地内の観覧車の中というイレギュラーだったせいもあるが、乗降に使う停止スイッチに気づかなかったこともあり丸々小一時間を空の上で過ごしていたのだ。


 ようやく観覧車を降りたときは、既に開始からそれ相応の時間が経過してしまっていた。遊園地がアソビバテーマパークの最端に位置していることもあり、ここまでほぼ歩きっぱなしである。精神的にも肉体的にも、摩耗しきっていた。


 「カゲっち……あみゅたん……アッキー……。お姉さん、まだなんにもしてないけど、結構……無理ぽ……」


 とはいっても、自分だけ離脱して楽になるわけにもいかないので、息切れを整えようと膝をついた。


 (……?)


 だが、階段を降りた先、脇道に沿って続く人工林から、わずかだが妙な破砕音が聞こえることに気づいた。


 樹木が倒れるような自然な音ではない。陶器が割れるようなやけに耳につくものだ。大きさからしてそれほど距離は遠くないだろう。


(なんだろ……誰かいるのかね?)


 もしかすると、という淡い期待を胸にして。魅緒は気になった点も含めて確認しようと足を踏み入れた。


 鬱蒼とした人工林は、一定間隔を持って植え付けられているのは変わらないが、ここの場合は少し特殊で手入れが長いことされていなかったのか藪がところどころに見受けられる。


 雑草も伸び放題に息づいており、ある意味人工林というよりも独自の営みを有しているかのようだ。


 「うわぁ……むわってくるなぁ」


 草の香りに鼻腔をやられながら、魅緒はおそるおそる近づいていく。森林の呼吸が作り出す新鮮な空気と、光合成の産物である水分が溶け合って微妙な暑さを生み出している。コンクリートジャングル出身の魅緒からしてみれば、なかなか味わうことのできないものであろう。


 木の枝を折るような奇怪な音源は、やがてはっきりとしたものに変わり、次第にそれが割るような音ではないことに気づいた。閉ざされた扉を無理やりこじ開けるような、身じろきする嫌悪感がある。


 (なに……?なんなの……これ)


進むことを拒否する気持ちが出てきたが、それより見てはいけないものを見たいという悪戯心ともいえる好奇心がひょっこりと頭を出した。さっきから能力の範囲である程度の下調べはしているのだが、なにも反応がないことが逆に不思議だった。


 まず人間であればなにがしかに《以心伝心》が引っかかるはず。前試合で隠形を見破ったのも、手当たり次第に放った意識の電波がマスターキーを差し込むようにリンクしたからである。


 ひとりひとりがテレビのチャンネルとするなら、魅緒の力はリモコンといったところ。自分が見たいものに繋がることも、ランダムチャンネルに変えることもできる。ただし、一定以上近くでないと通じない欠点はあるが。


 例外として、昨晩のように繭愛だけには自分からチャンネルを開いてもらわないといけない。電子系統を操作する能力持ちだからなのか、魅緒が繋がろうとしても弾かれてしまうのだ。ぶっちゃけていうとあの脅しは完全なハッタリだったということになるが……今は関係のないことだ。


 「……この先っぽい」


 魅緒は真正面の薮の側に身を隠すと、おそるおそる音を立てないように隙間を縫うようにして覗き込んだ。


 最初はなにかと思っていたが、音の正体を認知すると、その意味が理解できた。


 その先にはーー。


 ーー巨大なカマキリが何かをカマで挟むようにして貪るように食らっていた。陶器を割るような音はカマによる圧力でモノが破壊される音だったのだ。


 (う、うわ……こんなの絶対勝てないでしょ……つか、なに?アイツ、なにを食べて……)


 息を潜め、伺う魅緒。カマキリはこちらに背を向けて食事をしているが、どうやら食いつくしたのかわずかではあるものの体の向きを変えた。


 「ーーッ!?」


 ーーその背後にあるものに、魅緒の身体は恐怖で戦慄した。


 大カマキリは綺麗に自身についた()()ごと、舐めて掃除している。そして、カマキリの背後にあるものはもちろん、この巨大なバケモノの有意義なおやつとなってしまった哀れな動物ーーではなく。


 頭を削がれた、ヒトの胴体が血まみれで横たわっていた。


 頭部はどこへいったのか見当たらない。身体には見るからに痛々しい無数の小さな穴が空いていて、そこから吹き出したのだろう紅い液体がだらだらと絶命してなお流れ続けている。


 力なく垂れた左腕と、切断され近くに放られた右の腕、無惨にもバケモノの餌となったその姿に、魅緒は不覚にも自分にそれを重ねてしまった。


 (こ、殺される……!アタシも、あんなふうに……!)


 

 

 


 

 

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