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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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54章 本当の気持ち

 繭愛が、こんなことを。


 しかもとてつもなく艶やかだ。ほとんど常に傍らにいたはずなのに、まるで別人のような変わりよう。


 擦れるような吐息と、二人以外は誰もいない状況(シチュエーション)が、繭愛の色香を極限まで高める。


 血流が促進され、押し寄せる背徳感が、梶樹の情熱を刺激していく。まるで、身体の中が魚を火で炙ったように、てらてらと内側から熱くなっていくのが分かった。


 腹の上から感じる繭愛の重みが、実際よりもずっと重く感じる。衿にかけた自分の手に重なった華奢な手など、振りほどこうとすればできるはずなのに。


 金縛りにあったように、動かない。


 そうこうしているうちに、浴衣の衿が繭愛の肩を外れかかった。あと少しでも下にずらしたら、本当に解けてしまう。


 「ちゃんと……ね?」


 繭愛の手が、とうとう最後まで梶樹の手をリードし、動く。そしてついに浴衣がはらりと落ちてーー


 「……っ!」


 寸前、梶樹はぎゅっと目をつむった。


 開ければ、きっと望んだ景色が見えるはずだろう。しかし、梶樹はそれを、拒んだ。性としての本能に逆らってでも。


 「おにぃ……?」


 不安気な繭愛の声が聞こえる。今度は手をとられないように固く握りしめて、背中に入れるように隠した。


 ぐん、と腰が拳の分だけ上がるのが分かる。


 「いや……だった?」


 ーーっ!!


 罪悪感が、降ってきた。ここまでされて、何も感じないわけではないのに。繭愛が不安というのなら、それを除いてやるのが勤めなのに。


 それでも、これだけは負けるわけにはいかなかった。


 「そんなこと……ない」


 今どんな顔をしているのかわからないが、きっと困惑させてしまっただろう。その事実がどうしても梶樹を卑怯者、と内なる自分に罵られる原因となっている。


 沈黙が流れた。


 未だ、鼓動はばくばくと音を立てて脈動している。そのリズムが刻一刻と、時間が経つのを知らせてくれた。


 「じゃあ……目、開けて」


 「……駄目だ」


 「……みたいんでしょ?」


 「見たいよ。本当はいつもと違う繭の姿が、見てみたい」


 梶樹は動悸が声に現れないように必死で言葉を紡いだ。ただでさえ視界を封じているのだから、せめて声だけでも真剣なものにしようとする。


 「繭が、その……こういうことしてくれるのは、嬉しいよ。ほんとだ。けど、まだ……まだ早いんじゃないかなって」


 いくらなんでも嫁入り前の繭愛に手を出すのはまずいだろ、という言葉はあえて呑み込んだ。置かれている状況を考えればそんなことを口に出す余裕はないはずだから。



 『ん〜ガードが堅いなぁ……。ちょっと待ってね、どうにかしてカゲっちに見せてやらないと……』


 なんとかして策を練ろうとする魅緒を、繭愛はそっとつぶやくように止めた。


 『お姉さん、ありがとう。……見てて』


 と、それまで繋がっていた繭愛と魅緒の繋がりが、ぷつりと切れた。


 『え……?あみゅたん!?あみゅたん!?ちょっ、アタシにも見してよぉ〜!」


 繋がりを通して繭愛の視界から情報を得ていた魅緒には、何が起きているのかわからなくなってしまった。


 「くぅ……あみゅたんにはアタシの能力が適応外になっちゃうんだよね……聞き耳、しかないか」


 電子を操作する繭愛の能力と、電磁波に意志を乗せて通信する魅緒の能力では、繭愛側から能力を解いて"アクセス可能"にしてもらわないと通じあえない。


 ……実をいえば、脳内テロなどこの原理を繭愛が理解していればただの強がりだったのだが。


 「……ん?いや、ある!あった!あったよ、方法!」




 「ごめんね……おにぃ」


本当の意味で二人きりになった部屋で、繭愛は申し訳なさそうにいった。


 もう、演技などではない。


 本当の気持ちーー裸の心でぶつかりあう。それが、繭愛の覚悟と結論だった。


 「繭……?」


 急に変わった声色に、梶樹は眉根を寄せた。


 「わたし……怖くなっちゃったの。わたしが一緒だと、おにぃがひどいことに巻き込まれちゃうかもって……だから……」


 「それは……繭の責任じゃない。咲のことだって、俺がもっと上手く説明できてたら……」


 咲の件に関しては繭愛に非は一切ない。非は説明不足で事態を悪化させた自分にあると、そう思っていた。


 すると、それまで見えない鎖で縛られていたような戒めが、突然あとかたもなく消えさった。


 絞り出すように、繭愛が言葉を紡いだ。心の揺れからか、ところどころに()()()がある。


 「わたし……おにぃにみてもらいたい。わたしが……おにぃを、好きって思う気持ち、ぜんぶ」


 切迫の、告白だった。


 繭愛が抱える想いを察せないほど、梶樹は鈍い男ではない。その言葉は、布地に染み込むように深く、梶樹の中に浸透していった。


 「繭……それって……」


 「でも……これじゃ、わたしの気持ちを押し付けてるだけだよね……。っ……ご、めん……なさい」


 最後の声はかすんでいたが、なんとか聞き取ることができた。ぽとん、と梶樹の胸に温かい、水滴が落ちる感覚。


 ーー涙。


 同時、ひく、ひくと嗚咽が混じる繭愛の声が聞こえる。


 (咲がいってたこと、気にしてるのか……)


自分で、他人の気持ちを考えたことはあるかといったばかりだ。それすら守れない弱さを、悔やんでいるのか。


 本当は、今すぐに目を開けて、涙を拭いてやりたかった。けれど、心の中で"家族""妹"という単語がそれを邪魔してくる。


 繭愛は妹以上に関係を望んでいる。それは、最大限尊重してやりたい。だが梶樹の方はというと、自ら縛り付けた己の理性の法から脱せずにいた。


 ()()()()それを貫き続けてきた梶樹。三年もの間、繭愛の幸せのためと一歩引いた距離を保ち続けてきた。


 これらは自分の欲を抑えつけるための戒め。だからこそ、迷う。


 (どうしたらいいんだ、俺は……)


 


 

 

 

 

 

 


 

 


 

 


 


 

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