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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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53章 蜜月

 「ぜーったい喜ぶ!アタシだったらもう今すぐ襲っちゃうかもだよ?カゲっちが女の子嫌いとは思えないし、あみゅたんだったら尚でしょ」


 繭愛の髪を手にとり、頬ずりする魅緒。なにやら怪しい声が漏れ出ている気がする。流石に嫌だったか、髪をわずかに静電気が走った。


 ぴりっ、とした痛みで魅緒が離れる。唇をとがらせるが、あらかじめ制止はかけておいたのだから自業自得だ。


 「……必勝パターンって、これ着ること?」


 「んーにゃ。これはあくまで装備、本命はあみゅたんが押し倒してからの攻めだよ〜夜這いって聞いたことない?」


 「よ、よば……!?」


 まさかの単語出現に、繭愛の顔に驚愕の表情が表れた。意味通りはなんとなくだが伝わったのだろう。


 体を抱くようにして頬を赤くする繭愛。それを見た魅緒が、まるで食を味わうような素振りをした。


 「あー、多分あみゅたんが思ってるようなのじゃないから安心して。夜這いってえっちいことするイメージだけど、ほんとは仲良いカップルがする愛情表現(?)みたいなやつだから」


何故か重要な部分が濁った気がしたが、解釈としては間違いではない。夜這う、とは平安の世の貴族が嗜んだ密会に源流がある。


 その昔、身分の高い女性は面会することが許されなかった時代。人目を忍んで逢いに行く心境は、長く時を経た現代でも同じものがある。


 なので決して間違いではない。間違いではない、が……


 忍ぶどころか魅緒に扇動されているのであった。


 「でも……おにぃ、がっかり……しないかな?わたしが、こんなことする女の子って思われたら……」


 幻滅されるのは、なにより辛い。梶樹の"嫌い"と他人の"嫌い"とでは、繭愛にとって天と地ほどの差がある。正直、咲にいわれた数々の罵声よりも怖かった。


 大事に思ってくれているのは、知っている。けれど、身体と心が離れている以上は完全にその思いを知ることはできない。必ず、大きな壁がある。


 おにぃが喜んでくれるならーーとも思う。だがそれで今までの距離に溝を作ってしまうのではと考えると、気が引けた。


 「うふふ。いいことを教えてあげよう。……好きな子に夜這いされて嬉しくない男など、存在しないのだ!」


 「……え?」


 「ネガティブ過ぎだよ、あみゅたん。むしろ、普段からこんなに純粋なキミがやったほうが、よっぽどインパクトあると思うけどなぁ。ほら、ギャップ萌えってやつだよ」


 「…………?」


 萌え、というのがいまいちわからなかった繭愛だがそれに関してはどうでもいいようで、魅緒は改まって向かい直る。


 「……まぁとにかく。動かなきゃ、気持ちは伝わらないよ。好きなんでしょ?カゲっちのこと」


 こくん、と頷く繭愛。


 本当に、魅緒は想像を超えてくることをやってのける。懸念した部分も、むしろ強みに生かそうと転換してくる。


 こういうところばかりは、年長者だということを思い知らされた。


 「ただでさえモテそーな雰囲気してるからねぇ、他の子のことなんか見てもなんとも思わないくらいに釘付けにしとかないと、とられちゃうぞー?」


 盛大に煽りをかましているが、的は得ている。梶樹が()()()()()を断っていることを、繭愛は知っていた。


 本心ではわかっている。これが、この気持ちが、愛しいおにぃを傷つけたくない()()ではないことも。


 それを、魅緒はこれでもかというほど前に出せというのだ。


 「…………っ」


 「いちばん裸に近い服って、下着なわけじゃん?それはつまり女の戦闘服でもあるわけさぁ。ちょっとの変化だけど、絶対してよかったって思えるから、ね?」


 目線を床に落とす繭愛。その瞳は、虚空を見つめるように、鈍い光を放つ。


不安、葛藤、羞恥、様々な感情が繭愛を中を廻り続ける。


 ーーけれど。


 それでも、伝えたい。


 梶樹がどう思っているのか、聞きたかった。


 それを組みとったのか、魅緒がそっと、繭愛を抱きしめた。悪戯っ娘のくったくのない笑みは消え、母親のような、包みこむかのような声色に変わる。


「……あみゅたんが思ってること、全部出しちゃいなよ。」


「……うん」


 繭愛はぎゅっと、手を握り締めてから、身体に巻いたバスタオルを解いた。


 「でも……わたし、どうやったらいいかわからないよ……」


 「そこは、ほら。アタシにお任せってね!」


 魅緒がぐっと親指を立て、にかっと笑った。


 それに首を傾げる、繭愛だった。



 ーーそして現在。


 『うぅ……恥ずかしいよぉ……』


 『いや〜あみゅたんすごいね。ここまで名女優だとはお姉さん予想してなかったよ。もうひと押し、もうひと押し!』


 《以心伝心》による念話が、繭愛と魅緒、二人の脳内で繰り広げられていた。


 実をいうと、ここまでの繭愛の行動、そして台詞は全て魅緒が指示したものである。それをなんの違和感もなく実行できる繭愛の演技力は、ベテラン女優顔負けだった。


 『じゃあ次は耳元でこうね、それから……』


『……うん』


上に被さった繭愛は、視線を逸らす梶樹の耳元にぐっと体を転じさせ、こしょこしょ囁いた。


 普段からしているはずなのに、この状況だからか、ひとつひとつの言葉がより響く。


 「みたい……?」


 瞬間、梶樹の心臓が火を吹くように動悸した。


 たったそれだけのひとことなのに、体が重力という概念を忘れ、宙に浮く。


 決して暑いわけではないのに、冷や汗が止まらなかった。


 「なっ……!?」


 「おにぃになら……わたし、みられてもへーき。おにぃは、わたしの……みたいって、思う?」


 完璧だ。完璧なまでの、誘惑。


 わずかでも声色がぶれてもおかしくない。言葉が詰まってもおかしくないのに、繭愛の声は、恐ろしいほど()()()()()だった。


 魅緒の指示した通りの台詞であるなど、梶樹には考えようもない。いや、繭愛があまりに()()()()()ため、疑いようもなかった。


 これがわずかでも()()()なら、繭愛の心の変化に気づくこともできただろう。長く時を共にした梶樹でさえも見抜けない、演技力。まさに天性だった。


 「見たいっ、て……!ま、繭を、だよな?」


 『おおっとカゲっちシラを切るつもりかなー?そうはさせないよ』


 魅緒が新たに指示……もとい、指令を発した。


 繭愛が上体を起こし、上から見下ろす形になる。体重が梶樹にかからないよう、足は脇あたりから布団に流すようにつけていた。


 そっと、繭愛が胸のあたりを隠すように両手を交差させる。その仕草は、中学生とは思えないほど妖艶なものがあった。


 「ここ……」


 流れるように繭愛の手が解け、梶樹の手をとった。ひんやりとした華奢な手が、迷える子供を導くように優しく、誘う。


 そしてーー。


 梶樹の手が、繭愛の浴衣の衿を、掴んだ。白い肩の曲線に触れて力が抜けそうになるその手を、繭愛の手が止めるように重なった。


 「……でしょ?」


 とろん、と(とろ)けるように惚けた、繭愛の瞳。次第に、かろうじて肌を隠すよう繋ぎとめていた浴衣が、ずり落ちていく。


 「ま、繭……!」


 

 


 


 


 


 


 


 


 


 

 

 


 


 

 


 

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