表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/118

48章 アイデンティティ

 「むぅ……あみゅたん、そんな怒ることないじゃんかぁ」


 湯船に浸かる魅緒の横で、繭愛はぶくぶく、と泡を立てている。


 しかし、その距離は遠い。具体的には、人ひとりぶんほどの間がある。


 ちょっとした悪戯のつもりが、逆に距離を離すことになってしまったようだ。


 「……こないで」


 ぷい、とそっぽを向いて我が身を抱くようにうずくまると、繭愛は細々と呟きはじめた。


 「お姉さんの、えっち。おにぃだって、こんなことしないのに……ばか」


 「ふふふ。気持ちよかったよー、あみゅたん」


 ひけらかすように手をわきわき動かすと、


 「……今度は静電気じゃ済まないから」


 じろり、睨まれた。


 ……怒っている。本気で、怒っている。


 怒りの表現技法は多々あれど、繭愛はその中でも特に怖い、静かに怒るタイプだった。


 罪悪感と繭愛の気勢に、魅緒は慌てて土下座ーーもとい、水中土下座を披露する。


 ぼこぼこぼこ。


 吐く息が漏れて湯船に泡沫が浮かぶ。


 「ぶはぁ!……ごめん、ほんとにごめん!あんまり可愛い反応するから、お姉さんつい楽しくなっちゃって」


 謝りつつじりじりその間を縮めようとする魅緒だが、隣の湯船に逃げられてしまった。手強い。


 へりに手を置き、その上に頭をのせ、繭愛はほわっとした空気に安堵の息をついた。もちろん、魅緒の動きを警戒することは怠らない。ある意味、対戦チームよりも要注意危険人物だ。


 「……はぁ」


 なにをしているのだろう、と繭愛は湯の熱に恍惚としながら自分を顧みた。


 いや、あれは完全に魅緒が悪い。魅緒が悪いのだが。


 そうではなく、こんなことでムキになっている自分が、不思議だった。


 梶樹とごくたまに喧嘩するときでも、ここまで遠ざけるようなことはしないのに。


 「まぁ、でもさ。結果論だけど、ちょっとは気持ちがほぐれたんじゃないかな?」


 いつの間にか魅緒が目の前にまで近づいていた。浴槽のへりを通じて、繭愛が魅緒の背中を見据える形になる。


 「……え?」


 「ほらあみゅたん、さっきまでうーん、って悩んでた顔だったじゃん。そっちの方がかわいーよ、絶対」


 にんまりと。夏の太陽を受けて開く向日葵のような笑みに、自然と繭愛も惹かれていった。


 (かわいい……わたし、が……?)


 自分を"可愛い"なんて、思ったことなど一度もない。周りはいつも、そんな"可愛い"上っ面だけで迫ってくるような人間ばかりで。


 繭愛は自分の容姿を、好きになれないでいた。


 これは呪いーー。求めずとも得てしまった、忌み嫌べき神からの恩恵だと。


 だからこそ、繭愛は次第に心を閉ざすようになっていった。()()()()の関係を作り、本物の気持ちは、全て梶樹に寄り合うように。


 そんな堅く閉ざされた心の扉を、魅緒はおかまいなしにぶち破る。


 「あみゅたんが悩んでるのはカゲっちのこと?アッキーのこと?それとも……アタシだと話にくい?」


 僅かな間。しかし、


 「……そんなこといっても、許してあげないよ」


 ぷくぅ、と頬を膨らませ、対抗する。


 すると、魅緒は後ろを振り返り、にまにました顔を見せる。


 ……とても、意地の悪い笑みだった。


 「ふーん?いいのかなー、アタシの"能力"、忘れてないカナー?」


 「能力……?」


 いいかけて、はっと気づいた。


 そう、魅緒の能力は《以心伝心》。実質テレパシーではあるが、実態は似て非なる別モノだ。


 魅緒を起点として他人を繋げるのみならず、その気になれば相手の思考を読み解くことができる。つまり、隠しごとは絶対に暴かれる。


 「どうしよっかなー、見ちゃおっかなー?あみゅたん、どんなこと考えてるのかなー?カゲっちとあんなことやそんなことしたいーとか思ってたりして〜?」


 「そ、そんなこと……ないもん」


 「ふっふふー♪お姉さんに隠しごとなんか千年早いのだ!いってくれないと、ほんとに覗いちゃうぞ?」


 「ーーっ〜〜!?」


 ほとんど脅迫である。突然の二択に、戸惑う繭愛。しかし、魅緒は容赦なく攻め続ける。


 「ほんとはすっごい疲れるからやりたくないんだけどなー。でも、あみゅたんが喋ってくれないなら……しょーがないよねぇ?」


 「や、やだ……!お姉さん、いじわるっ……!」


 「どーれ、それじゃさっそく……」


 んんんー、と念じはじめる魅緒。


 流石にこれには参ったか、とうとう繭愛が根負けした。ぺしぺし背中を叩いて止めにはいる。


 「うぅ……わかった、わかったから!頭の中見るの、やめてよぉ……!」


 涙目な繭愛をよそに、ガッツポーズをする魅緒。


 ここまでされては仕方なく、渋々繭愛は語りはじめた。



 数十分後。


 全身を火照らせて顔を隠す繭愛と、腕組みをして唸る魅緒の姿があった。


 「……なるほどね、カゲっちの側にいたいけど傷つけたくない、と」


 「……うん」


 のぼせ防止に足湯状態の繭愛が、ぽつりとつぶやいた。何もかも暴露されて、顔から火が出そうになっている。


 「羨ましいねぇ、こんなに健気に想ってくれる女の子がいるなんてさー。幸せものだよ、カゲっちは」


 「そういうの、じゃない……兄妹、だから……」


 「うむうむ。素直になれないあみゅたんも萌えるぜよ」


 あっはっはと声を高らかにあげる魅緒。


 どうしたものか、と繭愛は唸った。全く勝てる気がしない。完全にもて遊ばれてしまっている。


 「まぁ……気持ちはわかるよ。人との距離ってさ、大人だって難しいものだし」


 こくり、とうなずく繭愛。


 実際、人との接しかた、つまりコミュニケーション能力に問題を抱えた人間が社会的不適合者となるケースは少なくない。


 そういうのはなにかしら、心に()()()を持たせる何かに依存することが大半だ。裏を返せば、繭愛もこれにあてはまる。



 「要はカゲっちがあみゅたんをどう思ってるか、聞きたいんでしょ?だったら、聞いてみなきゃ」

 

 ……わかっている。そんなこと、いわれなくても。


 けれど、下手に動けば、今の関係が崩れてしまいそうで。それがなにより、怖い。


 「でも……」


 またうつむいた繭愛に、魅緒が大きく胸を張った。なんだかとてもご機嫌な様子だった。


 「だーいじょうぶ!お姉さんに任せときなさい!こういうときは、必勝パターンを使えば本音出してくれるって」


 「ひっしょ……う?」


 「うんうん!あみゅたんが本気出せば……カゲっちだって、イチコロで落ちちゃうよ♪…….やってみたくない!?」


 両手を合わせて身悶えする魅緒。その仕草に、どこか不安を感じる繭愛だった。


 

 

 

 


 


 


 

 


 

 


 


 


 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ