表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/118

45章 金と銀

 「あっ……!?」


 反重力で空を飛んでいたはずの咲は、梶樹の目の前に投げたされた。《迅雷鳴動》による瞬間移動。拒絶したはずの兄様が今、目の前にいる。


 「兄様……」


 梶樹は寂しげなような、憐れんだような、虚げな顔で咲を見つめていた。そこにあるのは、憂い。すっかり変わってしまった咲に対してのやるせなさ、その表れだった。


 それを思うと、咲の中に底知れぬ何かが、また這い上がってきてーー。


 「なん、ですの……!」


 今度は容赦しない。範囲を最小まで絞った円を、梶樹に向けて加重を発生させる。


 「私のことなど……見てもいないのに!」


 振りかざされる、咲の手。しかし、肝心の重量は発動しなかった。いや、それどころか、先程まであれほどの鉄塊を操っていた咲の重力操作が、()使()()()()()()()()()()()()()()()()


 (重力が……誘発しない……!?)


 あれだけの脅威を誇った咲の力が、完全に抑えられている。いったい、何故ーー。


 ……と、その答えはすぐに分かった。青白い蛇のような電流が、咲の周囲を取り囲み、円環状に包囲していたのだ。


 「……なるほど、繭愛さん。貴女の仕業ですか」


 繭愛は梶樹の少し後ろから、息を潜めて伺うようにこちらを覗いている。小動物のような可愛さ、だがそれが、咲の中のものを激しく揺さぶる。


 「……そういえば、さっきも私の重力を跳ね飛ばしてくれましたわね……。迂闊でしたわ、まさか貴女がここまで強力な能力を持っているなんて」


 「………………」


 繭愛は答えない。静かに、咲のことを見つめていた。

 ーー憐れんだ目。それが、絶対零度の心を震わせる。


 「咲……お前に、あの優しさを取り戻して欲しかった」


 そして、あの日のような笑顔をーー。


 そういいかけたところで、咲から堪えきれなくなった感情が噴き出した。


 「私は変わっていませんわ!兄様を想う気持ちは、何も変わっていません!」


 初めて出会ったあの日から、忘れられなかった。度重なる激務の中を乗り越えられたのも、全てーー。


 「それだけじゃ、駄目」


 咲の手に被さるように、新たな手が重なった。


 ーー繭愛だった。


 「どういうことですの……」


 「わたしは……おにぃが好き。大好き。離れたいなんて、絶対思わない」


 「でしたら、私も同じですわ。貴女がなんといおうとも、兄様への想いは譲れませんわ」


 繭愛はふるふると、首を横に振る。


 「あなたは……おにぃの気持ち、考えたこと、ある?」


 「……え?」


 「自分の気持ちだけ、おにぃに押しつけて。そんなの、本当に好きっていえる?」


 「兄様の……」


 ーー否。考慮に入れたことなど、一度たりともない。


 長く離れていても、心は同じだと。真の心で打ち明ければ、共鳴してくれるはずだと。


 しかし、現実は違った。繭愛という邪魔虫がくっついたせいで、愛しい兄様は汚れてしまった。自分が追い求めたものは、もうない、と。


 梶樹が咲の髪に触れた。さらさらの、滑らかな金髪。肩周りで切り揃えてはいても、しっかりとした女の子の髪だった。


 「俺は……咲のこと、嫌いになったなんてひとこともいってない。……けどな、一方通行の想いだけじゃ、駄目なんだよ」


 ーーそう、繭愛にあって咲になかったもの。


 それは、他人を想いやる心。思いやり、と聞くと難しいが 要は自分以外に気が回せているか、というところにある。


 「失ったものは返ってこない。だけどな、それを乗り越えなきゃ……進めないんだ」


 繭愛と咲の決定的な違いは、梶樹と歩んだ時間の長さではなく、生まれ育った環境にあった。


 両親からの愛を一心に注がれた繭愛。


 両親からの愛を感じず育った咲。


 親という存在を失くし、その傷を舐め癒すために作った"兄妹"という歪な関係。


 親という存在が遠いと感じていた咲はいつしか、追い求める少年に"救い"を求めるようになった。しかし、それは繭愛も同じこと。


 お互いが同じ絶望を味わったからこその関係。片方が片方を執着する片想いなどではなく、依存という名の救済(両想い)。これが、二人の根幹を成す源流となっている。


 金と銀の色彩の相違は着色成分、黄色要素の違いだけ。しかし、その違いはあまりに大きく、あまりに遠いーー。


 「認めませんわ……!」


 拳を地面に打ちつけ、睨みつける。


 「結局は思い込みではありませんか!都合の良い言葉を並べた幻想の家族など……それが何になるといいますの!」


 「咲……」


 「覚えてなさい。この屈辱は……いずれたっふりと味わせてあげますわ」


 たん、と咲の手がスマホのリタイアボタンをタップした。


 身体が光に包まれ、柱となって天に昇る。


 「咲っ!」


 梶樹の声は、虚しく空を震わせるだけだった。


 ブザーが鳴り響き、空にゲームクリアの文字が浮かびあがった。


 消えゆく光を見据えながら、梶樹はどうしようもないやるせなさを感じていた。



 管理棟、モニタールーム。


 「驚いたな。まさか土壇場で覚醒するとは」


 「重力消しちゃうとか、マジやべーっしょ!手からビーム撃てるとか反則じゃーん?」


 「我もみくびっていたわ……あの二人、俄然興が湧いてきおった」


 「アンタに目をつけられちゃ、かわいそーだけどねぇ。ま、これもゲームマスターサマの筋書き通りってとこか」


 口々に意見を述べ合う管理者の中で、ひとり。黒服の女だけは、冷や汗を垂らしていた。


 (まさか……ここまで能力を使いこなすプレイヤーが現れるとは、想定外だわ。水影梶樹といい、天聖繭愛といい、このままでは()()()()()に弊害が出てくるかもしれないわね)


 手元の腕時計をちらと一瞥し、女はモニターに目を通した。


 「まだまだ試練は始まったばかりよ。生き残りたいなら、能力を磨き続けることね」


 ぽつり、と呟き口元に笑みを浮かべた。そして、モニターの向こうを撃ち抜くように、手を向けて、指を弾いてみせた。


 (《天を統べる女王》、か。あの子たちには荷が重すぎる気もするけれど……何が見えているのかしら?ゲームマスター)


 


 


 

 


 

 

 


 


 


 


 


 


 


 

 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ