35章 看破
くったくのない笑みを浮かべて、優男は再び石を回しはじめる。それを見た覚羅は口角を吊り上げて、笑った。そして魅緒を親指で示し、
「そいつは奇遇だな。俺も女の扱いは手に余る。……特にこいつはな」
「ちょっ……!それ、どうゆー意味かなアッキー!?」
不満そうに頬を膨らませる魅緒。その様子を見た優男がぷっと吹き出した。
「なんやなんや、アンタも尻に敷かれるタイプかいな。お互い苦労するのお……でもな、悪いけど手加減はでけへんで。こっちは命かかっとるんでな……」
訛りのある優男は回していた石を鷲掴みに掴みあげ、ぐっと力を込めた。すると、石は次第に黒々とした液体に変化し、優男の手から滴り落ちる。
これを見た覚羅は舌打ちをして優男に吐き捨てるように言った。
「その能力……森にガソリン撒いたのはてめえか。石からガソリン作る力ってとこだろ、違うか?」
「ん〜惜しいな。けど、そこまでバレてんなら冥土土産に教えちゃるか」
優男はゲル状になった石だったものを二人の近くに投げ捨てた。燃えていた液体から火が移り、ぼうぼうと熱を発しはじめる。
「わいの能力は《石油王》つうてな。本来は化石から抽出する化石燃料を石からも作れるっちゅー優れもんなんや。わいはこの力を持ってゲームを勝ち抜き、本物の石油王になってサウジの馬鹿共を見返しちゃるんや!」
「……兄さん、サウジになんか恨みでもあるの?」
魅緒がそれとなく聞いてみると、優男は人が変わったように熱を持って語り出した。
「あったり前やろ!サウジは溢れ出る石油にあぐらかいて高笑いしとんねんで!?汗水働いてちっとも楽にならん会社員からしたら許せるわけないやろ!?」
……会社員だったのか。そこまで歳はとっていないように見えたが、どうやら成人しているらしい。というか、サウジアラビアは確かに天然ガスや化石燃料の原産地ではあるが、それはただのひっかみなのではなかろうか……?
「わいは違う!これから燃料不足に悩むことになる世界を、わいが救うんや!そしたらサウジの奴らはびびるでぇー。これからは自分らで働かなあかんのやからな」
「う、うーん……」
いったいサウジに何をされたのかと思うほどの憎みっぷりだが、別にオイルショックの時代生まれというわけでもないだろうから、単なるひがみにしかなっていない。
燃料問題に関しては分からなくもないが、この男が求めているのは名声と富。純粋な人間としての欲の塊だった。
「へぇ……給油が安くなんのはいい話だな。……けどな」
覚羅はその場でぐっと拳を握りしめ、精神を集中する。踏ん張った足の周りが円形に陥没して大地をえぐった。溜め込んだ力を一点に放出するようにして、覚羅は思い切り跳躍した。
「ひ、ひぃいいぃいぃぃ!?」
覚羅の拳が見えない壁にぶつかった。ドン!という衝撃音と共に、頭上の木から別の男が振り落とされる。
空中で一回転してから着地してみせた覚羅は落とした男に指を指す。
「やっぱ、隠れてやがったな」
「なっ……どうしておらのことが分かった!?気配は完全に断たれてたはずだべ!」
怯えて後ずさる恰幅のいい男の疑問に答えたのは、ピースサインをした魅緒だった。
「姿消しても心の声はまる聞こえだったよー?アタシ、そういうの得意なんだー」
「簡単だろ、油撒く奴がいても火ィつける奴がいねぇなら近くにいるってことだろうが。長々話したのもてめえを見つけるためだっつーの」
魅緒に他の敵位置を調べるようにいったのは覚羅だった。そもそも最初から火付け役ーー着火マンがいると踏んでいた覚羅にとってこの状況は明らかに誘いだった。
実際によく使われる手、注意を引きつけ本命をぶつけるのは大した策でもなんでもない。だが、能力などという例外があるこのゲームにおいては話がまた変わってくる。
魅緒が実際にしたことは優男と《以心伝心》で繋がり、その思考から位置を割り出しただけであって、隠れていた男を見つけたわけではない。優男が位置を知らなければ見つからなかったのだが、それをここで表明するのはいくらなんでも阿呆のすることだろう。
能力は、生命線。そして情報は武器だ。どうにも手に入れた力を自慢したがるような輩が多いように感じるが、まぁそれも仕方のないことではある。優秀さをアピールするーー自身を認めさせようとする欲が押し出されるのは至って自然なことだ。
ましてや、虐げられてきたような底辺層にしたらそれはそれは嬉しいことだろう。
(ったく……つまらねー野郎ばっかだ)
異能を手にして天狗になるのは勝手だが、それが自分の首を絞めていることに気づいてすらいないのは実に腹立たしいもので。
覚羅は二人の男を睨みつけ、指を指すと、大きな声でこう宣言した。
「火遊びした馬鹿共には、きつい仕置きがいるよなぁ?それに……」
覚羅は踏み出して、一気に距離を詰める。
「俺は軟派な野郎が大っ嫌いだが、コソコソ隠れて自分でやり合わねぇ卑怯モンも大っ嫌いなんだよ……漢ならてめぇの拳で語りやがれ!」
足場の悪い池の周囲にも関わらず、覚羅は数歩で優男に肉薄した。そのまま左のアッパーカットが決まるかと思われたその瞬間。もう一人の男も巻き込んで、再び取り囲むように炎が走った。轟々と勢いよく燃える炎はまるで生き物のように唸りをあげている。
「なっ……!?」
「悪いが、こっちも負けられない理由があるんでな。悪く思うなよ」
その声の主はーー背後の木から現れた、別の男だった。額に傷がついた武者面の男。
「三人目……!?」
覚羅の拳が急停止した。




