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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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28章 光明

 「ぐっ……野郎、撃ってきやがらねぇ!俺はモグラじゃねーんだぞコラァ!」


 「これはちょっと予想外だったな……向こうの性格からしてデカいのぶっ放してくると思ってたんだけどな……」


 必殺の空から飛来する蛇龍の尾をなんとか回避しながら距離をとる。リーチがありあまるゆえか少し動いただけでも尾が届いてしまう。既に河川敷は芝生が剥げ、防波堤が破壊されて見る影もない。


 叩きつけの範囲を考えると、このままではこちらの体力がきれてやられる可能性が大だ。どうにかして蛟龍に水大砲を放たせないと立案した作戦自体が破綻してしまう。


 (水に掴まれたら終わりだ……あいつの身体は全部水でできてるんだ)


 全身が水でできた蛟龍の身体は鉄壁の要塞。どんな衝撃も無力化し、高威力の水鉄砲を撃ってくる水の城。

 そのとき、ふと気がついた。蛟龍は確かに水の塊だが性質上は()の習性をも備えている。生物学上で蛇がとぐろを巻く理由、それはーー。


 (警戒……!まさか、怯えてるのか?)


 自分を大きく見せて威嚇することは動物全般ならあり得る話で、それは人間にも例外はない。もし蛟龍の上にいる操作主が警戒しているならば……!


 「十束!使()()()()?お前の能力だ!」


 「できねぇこたぁねぇ。……だがどうする?俺の力じゃあいつには通じねぇって話だったろが」


 「関係ない、俺が()()()。直接ぶん殴ってきてくれ!」


 連続での能力使用はテストしていないが突破口を開くためなら挑戦は惜しくない。失敗したときはーー、撤退だ。


 (成功してくれよ……!)


 淡い期待を抱きつつ、梶樹は覚羅を移動させるようイメージする。

 一瞬の間。覚羅の姿がふっと消えた。その移動先は……空。蛟龍の頭よりも高い位置に飛んだ覚羅はそのまま地へと落下を始める。


 「うぉおお!?」


 空中に投げ出された覚羅は平泳ぎの要領で必死に蛟龍に近づいた。手を伸ばせば、康太が掴める。

 いける!覚羅は確信した。この距離なら直接自分の拳が届くと。水影の奴にはあとで説教することを心の底で誓い、手を伸ばした。


 「ひっ!?」


 目の前に迫る覚羅を視界に入れた瞬間、康太は頬を引きつれせて振り払おうと両の手を振った。蛟龍の頭が覚羅に引きつけられる。


 「十束!」


 もう一度瞬間移動をと梶樹は手を空に向けて念じる。蛟龍の身体に叩かれてしまえば一撃でも危険が付き纏うだろう。それを回避するための移動だった。


 しかしーーー発動しない。


 「な……にっ……!?」


 梶樹の額に焦燥の汗が流れた。使い方はあらかた試したはずだが、空の覚羅はぴくりとも動かない。なにが、どこに、どうやって。梶樹が見出した三つの式は正解のはずだ。それはここまでの動きの中で証明がされている。

 だが。もし、そこに誤差が生じているのではないとするならば……?


 (まだっ……俺が知らない()()があるのか?)


 しかし、時既に遅し。蛟龍の巨躯は覚羅の身体を軽々ふき飛ばし、鳴き声をあげた。ピンポン玉のように弾かれた覚羅は河川敷の上方へと向かってぐんぐん伸びていく。


 と、そのとき。パッと誰もいなかった梶樹の隣に覚羅が現れた。だいぶ青い顔をしているが、怪我はない。どうやら瞬間移動が間に合ったようである。


 「おせーよ!あと少しでコンクリに叩きつけられるとこだったじゃねーか!水影ぇ、あとで覚えとけよ……!」


 「わ、悪いって。なんでか知らないけど能力が発動しなくてさ……こりゃあとで検証がいるなぁ」


 「……いっとくが、誤魔化しは一切受け付けねぇからな」


 これはあとでしっかり謝らなければならないだろう。いくら責められても梶樹には弁明する術がなかった。けれども()は撒いた。あとは目論見通りいってくれと願うばかりである。



 「はーっ……!はぁーっ!」


 過呼吸気味に苦しい息づかいの康太は吹き飛んだ覚羅が一瞬にして現れたのを目にすると、がしがしと頭を掻きむしった。

 情けなさ。臆病で弱虫で内気で。そんなもともとの()の自分への嫌悪感に吐き気がする。


 ーーそんなだからお前は弱いんだ。悔しいならかかってこいよ、泣き虫康太ーー


 (何で……なんでなんでナンデナンデナンデナンデナンデこんなことを思い出すんだよおおおお!もうあんなやつらなんか、ぼくの足を舐めるしかできないウジムシのくせに……!)


 ぎりぎり歯を食いしばる音。自分の中でタールのようにどろどろした暗い感情が蝕んでいく感覚。

 石川康太は、優しい男の子だった。その優しさが災いし、時にはひどい虐めの渦中に巻き込まれたこともある。周りの人間は何をいっても動くどころか話も通じない。


 どうせじゃれあいだから。プロレスみたいなものだから。男ならあってしかるべき()()だから。


 男らしさって?友達って?これが()()だって?康太の中に巡る疑問符の嵐を受け止めてくれたのは、共に住む祖母だけだった。それに何度救われたことか。歪みかかった康太が心を壊さなかったのは、全て祖母のおかげ。


 (おばあちゃんを助けるためなら……ぼくは無敵にだってなれるんだ。この()()で……全部吹っ飛ばすんだ!)


 人間の心ほど脆く、崩れやすいモノはない。人は自分が一度知ってしまった安らぎに心奪われーー依存する。手放したくないという想い、依存する心は果てしなく強い。それは例え道を外したものであったとしても痛覚を麻痺させる麻薬そのものなのだ。


 「……ぶっ飛ばす!」


 閉じた眼を見開いた康太は、苛つくオヤジが台を腹いせに叩き込むような勢いで蛟龍の頭に拳を振り下ろした。


 「蛟龍……あの二人をゴミクズにしちゃえ、跡形もなく吹っ飛ばしてよ!」


 それと同時。蛟龍の口が、関節ごと大きく外れて口腔内に極小の渦潮が発生する。極水圧砲。先程地面を切り裂いた水の刃を放つ大技。それを、地上の二人目掛けて狙いを定める。


 「何もかも、全部消えちゃえばいい!ぼくは……ぼくは最強なんだ!神を使うぼくこそが、願いを叶えられるんだぁぁぁあああ!」



 口を開いた蛟龍を見て、梶樹は脳内で繭愛を呼んだ。発射まであと僅か。ここからは一秒たりとも失敗は許されない。


 『繭、みっつ数えたら俺の能力で瞬間移動させる。……あの二人を頼むぞ、繭』


 『……わかってるよ、おにぃ。わたしが、絶対助ける。だから、ね?おにぃ……』


 そのとき、 二人の波長がぴったりと重なった。


 『『繭を/おにぃを、信じるって決めたから』』


 遠く離れた大木の下、繭愛の指先が淡い光を放った。


 

 


 


 


 

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