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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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24章 力学法則

 あっという間に二人をのした覚羅に、梶樹たち三人は驚きの表情を浮かべた。


 「番長くん、強いんだろーなとは思ってたけどここまでとは思ってなかったわ……いやー、頼もしいね!」


 「お兄さん……すごい……!」


 「覚醒の能力って、まさか……」


 あの跳躍力と凄まじいまでの瞬発力は、どうやっても人が可能な範囲ではない。梶樹は覚羅が持つ能力の詳細を掴もうとしていた。


 一方、対岸に飛び移った覚羅の前には二人が立ちはだかっていた。ひとりはスラっとしたスーツ姿の女性。年齢はさほど高くない、見かけ通りならキャリアウーマンといったところか。もうひとりはおかっぱ頭の地味目な少年。背丈から察すると小|学生ではないかとさえ思える。とても戦闘などできそうには思えなかった。


 「さて、と。あんたらはどうする?俺は軟派な野郎は嫌いだが鬼畜じゃねぇ。降参して負けを認めるってんなら見逃してやんぜ」


 がちっ、と拳をかちあわせる覚羅。すると、前のほうにいた女が口を開いた。


 「悪いけど……その提案には乗れないわ。私には譲れない()()があるの。こんなところで音を上げてなんかいられないわ」


 澄んだ声だった。決して美人というわけではないが、その瞳からは意志と覚悟の強さを感じさせる。


 「そっちのお前は?」


 覚羅は少し後方の少年に視線を向けた。一瞬、びくっと身体を震わせたもののすぐに覚羅を睨み返す。


 「ぼくは()()なんかじゃないです。石川康太(いしかわこうた)って名前があります……!ぼくも、リタイアはしません……。おばあちゃんを……助けたいから!」


 少年、康太は震える声で覚羅を見つめ返した。その表情に覚羅はふっと息をついて、


 「そうかよ。覚悟決めた目だ、悪くねぇ。……だがな、俺も負けられねぇんだよ。その気がねぇなら……引導渡してやるよ!」


 覚羅は再び、地面を蹴り上げて一気に間合いを詰める。右腕を振りかぶり、力を腕に流して推進力へ変えるーー!


 (悪いが……少し痛い目見てもらうぜ)


 覚羅は女の首を狙って開いた手を高速で伸ばした。その手は見事に女の首を捉え、地面に押し倒し、降参を促すーーはずだった。


 「!?」


 女の首に届くはずだった覚羅の右手は、得体の知れないふよふよしたものに包まれーー停止した。まるで、ベッドのスプリングが身体を押し返すように、圧力で ()()()()()()


 冷たい、感触。流れるような流動性とこの透明感はーー!


 「なっ……み、水!?」


 女が口を開いた。


 「言い忘れたけど、私は泉真紀(いずみまき)。忠告痛み入るわ、どうもありがとう。あなた、みかけによらず結構優しい子じゃない」


 「あんたの、能力か……!?」


 腕を引き抜こうとするが、浮遊した水の塊がまとわりついて離れない。誰かに掴まれているような感覚だった。


 「そうよ。そして……あなたの優しさに免じて私からもお願いするわ。リタイアしてくれたら、見逃してあげるわよ」


 刹那、覚羅にまとわりついた水の塊が突如として回転を始める。時計周りの回転は次第に大きく唸りをあげ、渦を形つくるーー!


 「まずっ……!」


 覚羅がいうがはやいか、水の塊は巨大な渦と共に轟音を轟かせて飛沫をあげる。高められた水圧が限度を超え、覚羅の肉体を吹き飛ばす!


 「おわぁぁぁああ!?」


 そのとてつもない勢いに、覚羅の身体は軽々と上空に浮かびあがった。このままでは墜落……最悪の場合、落下死する。


 「覚羅!」


 一部始終を見ていた梶樹は、咄嗟にその手を天に向かって突き出した。


 (頼む……成功してくれ!)


 先程と同じ。何が、どこに、どうやって。梶樹は空に飛ばされた覚羅が、自分の隣に瞬間移動するイメージを浮かばせた。


 刹那、覚羅の身体が梅雨と消えて梶樹の少し後ろーー芝生の上に落とされた。思いきり尻餅をついてしまっていたが、あそこから墜落するよりかはまだマシだろう。


 「いつつ……助かった、水影。今のはお前の……」


 「あぁ、能力だ。ものを移動させることができる能力。ぶっつけ本番だったけど、上手くいってよかった」


 それと同時に、練習しておいてよかったとも思った。あれがなくては完全に不発していたことだろう。やはり予習は大事なんだなと高校の英語教師の顔が浮かんだ。あまり好きな人ではなかったが、こういうときになるとその言葉が見に沁みる。


 「向こうの女は……水を操る力みてぇだ。俺の拳を完全に止められた」


 「水……」


 案外、水は馬鹿にできないものだ。元素記号にしてH2O。生命の活動維持には欠かせない要素。深海の水圧は深いところで鉄をも潰す力があるという。


 「その通り。私の能力は《遊泳人魚》、圧力を高めた水はどんなに強い衝撃でも完全に殺すわ」


 対岸から女ーー、真紀が向こう岸の梶樹たちに聞こえる程度の大きさで声を張り上げた。


 「なるほど……そういうことか」


 真夏のプールなどでよく見るジャンプ台。あそこから飛び降りる過程でいかに綺麗な着水かを競う、飛び込みという競技がある。確かに、水に飛び込んだ選手達はクッションの如く勢いを雲散霧消されめったに怪我をすることはない。

 エンジントラブルが起きた飛行機が海や川へ不時着するという話も、よくミステリー番組で見ることがあった。


 水力による衝撃の無効化ーー。接近する覚羅にとっては相性は最悪だ。おまけにそれだけではない。覚羅を吹き飛ばしたあれは、おそらく水圧を利用した大砲。原理としては可愛い水鉄砲だが威力の桁が違いすぎる。


 「これヤバない?こっちの攻撃効かなくて、向こうは一方的に殴れるわけでしょ。そんなん反則じゃん!」


 魅緒が抗議の意見を並べるが実際に起こってしまっていることなのでどうしようもない。あらゆる衝撃が無力化されてしまう以上は、迂闊に近寄れば水大砲のいい的だ。


 「もう一度いうわ!今すぐ降参しなさい。でなければ、力でも勝たせてもらうわよ!」


 「ぐっ……」


 覚羅が唇を噛んだ。ほんの数分前とは完全に立場が入れ替わってしまっている。狩る側と狩られる側が逆転した瞬間だった。


 「おにぃ……」


 すると、それまで黙っていた繭愛が梶樹の袖を引っ張った。何かいいたげな顔をしている。


 「……繭?」


 「っ……!避けろ!!」


 ドン!と巨大な水の砲弾が目の前を通りすぎて弾けた。対岸を見ると、真紀の頭上に直径五十メートルほどの塊がふよふよと浮かんでいる。真紀が手を振りかざすと、その塊から大容量の水が射出された。


 「うああ!?」


 当てる気はないようで、見当違いの方向へと飛んでいくが当たった地面が思いきりえぐれている。もはやこうなると銃火器以上の威力だ。


 「アタっ、アタシ!逃げてもいいですかー!?能力、テレパシーみたいなやつだし……足手まといだと思うからー!」


 そういって、魅緒は背後の巨木にひゅーんと走っていき身を隠した。正直なところ盾にはならないと思うが、距離が離れた分当てにくくはなるだろう。


 繭愛の手を引いて水弾を避ける梶樹は、同じく回避に徹している覚羅が自分を呼びかけていることに気づいた。


 「水影!悪かった……俺が突っ走ったせいでまずい状況にしちまって……どうすりゃいい!?このままじゃジリ貧だ!」


 そういわれた梶樹にもどうすればいいか分からない。あらゆる衝撃を殺す水の盾、銃火器を越える威力の水大砲。最強の矛と最強の盾、攻防一体揃った強大な能力。

 あれに反撃する方法など、今のこのチームには……


 そのとき、梶樹の脳内にある方法が出てきた。棚からぼた餅が現れたときのように、脳内麻薬がぶわっと広がる。


 (いや、ある!やれるか分かんないが……これしかねぇ!)


 梶樹は覚羅に向かって叫んだ。


 「覚羅!作戦がある!少しでいい!向こうの注意を引きつけてくれ!」


 「やれんのか!?」


 「分からない!でも……やらなきゃこっちの負けは確定みたいなもんだ。やるしかない!」


 

 

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