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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
third chapter 運命の歯車

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109章 スクランブル開幕

 道中、何度も危機はあった。命を落としかけたのも一度やニ度ではない。けれど、これはその枠に当てはまらない。いや、当てはめてはならない、といったほうが正しいか。


 これまでの違和感全てを吹き飛ばすほどの理不尽。誰もが一度は苦渋を舐めたであろうある種の必然を、叩きつけられている気分だった。


 当然、梶樹の腹の虫は居所がよくない。それは、側の繭愛にも伝わったようで、普段から片方がいさめる役をするローテーションが崩れている。言いたいことはあるけどそれが言い出しづらい状態というところだった。


 「おにぃ……」




 時はしばし巻き戻る。


 4回のチーム戦全てを制した梶樹たちに与えられた次なるゲーム、その名は「スクランブル」。ある一定のフィールドにおいて多人数のプレイヤー達が戦闘しあう…………いわゆるバトルロワイヤルというやつだった。


 そしてこのルールには大きな問題点がある。


 それまでのチームは解消、完全な個人戦となることだ。


 この内容に一番早く辟易したのはもちろん魅緒である。今までよりある程度マシとはいえ元々の能力のスペック差がありすぎて、普通に攻撃系の能力持ちと相対しただけでアウト。死ぬことイコールゲームオーバーなこのルールでは分が悪すぎる。


 うわーん、とか泣いてしばらく繭愛に慰めてもらっていた。が、途中で色々なところに手が回り始めたために引き剥がされた。


 まだ一日かそこらほどしか経過していないが、旅館風控え室のちゃぶ台がほぼダイニングテーブルと化していた。そのため会話はここで行われている。これはとても重要なことだった。


 なにしろ表情がすぐに分かる。いつになくむつかしい顔をしていた覚羅にもすぐ気づいた。

 

 「どうした?」


 「……あぁ、ちょっとな」


 口にするのを躊躇うということは何かしら言いづらいことなのだろう。話すべきか決めかねているなら、無理に聞き出さないほうが良いと判断した。


 間を取ってしばらくしたのちにその返答は訪れた。


 「正直……俺としてはお前らを敵にしたくねぇ、かな」


 これには流石に面食らった。想像していたのとはまるで違うものだったからだ。


 「お前なら単独行動するって言い出しそうなのにな」


 「勘違いすんじゃねぇよ、敵にしたくねぇってのはお前らと仲良ししたいってことじゃねー。チカラのタネが割れるのがどれだけやべぇか」


 「まぁ、な……」


 今までのゲームから嫌でも理解していたことだ。情報が限られたこの環境では能力の秘匿はそのまま自身を守ることに繋がるからだ。


 どれだけ強力な能力を持っていたとしても()がないわけではない。そこを突かれればまず間違いなく窮地に陥ることになる。


 特に覚羅の場合はそれが()()に出る。完封とまではいかないだろうが単独だとすると今までと勝手は違う。


 「今のとこ天聖がいなきゃ勝てるか怪しいとこばっかだろ。お前のそれは…………」


 「今までよりかはマシ、かな。限度はあるし、長時間使うとなると冷却(クールタイム)がかかる」


 補助に徹していたのが積極的に動けるようになった。これだけでもかなりの収穫だ。


 立ち回りの関係で梶樹が今のところ優位に立てているのも大きい。


 「とりあえず、俺としてはこのままチームで動くのは賛成かな。弱みの補填は何も魅緒さんだけの話じゃない」


 「カゲっち……!」


 救いの光を見た魅緒が眩しいくらいに目を輝かせる。この中では最年長なはずなのだが言動からして釣り合っていないのでなんとも言い難いものがある。


 「わたしも。いっしょにいるの、楽しいから……」


 今度は最年少の方だった。魅緒がありがとう、と言いつつそのまま繭愛の胸にダイブしようとする。何度目か分からないほどの見慣れたくだりだった。


 だが、今回は違った。


 それまで穏やかな顔だった繭愛が突然曇りを帯びた。


 瞳に影が差し込んで、身体が急激に強張る。突き放すように一歩退いた。


 「……いやっ!」


 銀の髪がより一層輝きを増す。電撃が流れた証だった。呼吸が荒くなり、心臓がけたたましいサイレンのように激しく鼓動を繰り返している。


 「あ、あみゅたん……?」


 行く先を失って前のめりに倒れた魅緒。


 「あ……」


 はっとした。


 拒絶。


 それまでなら冗談混じりに流していたはずの繭愛に、余裕がなくなっている。


 「ち、ちがうの……!これは…………」


 「……無理するなよ。トラウマになってもおかしくないようなこと、されたんだし」


 繭愛は俯いて、ふるふると肩を揺らした。そして堪えきれなくなった途端に、梶樹の膝の上に飛び乗って来た。


 「うぅ……ぁ…………」


 繭愛を一言で言い表すとするなら、人懐っこい猫といったところだが今は右も左も分からない子猫ちゃんだろう。


 他を許さない能力を持っているとしても、中身はまだ年端もいかない少女なのだ。


 「……何があったかは聞かねぇけどよ」


 おもむろに立ち上がった覚羅は、ポン、と繭愛の頭に手を置いて呟いた。


 「引きずるなよ、特にお前は」


 「……うん」


 そのとき、あのブザーらしき爆音が鳴り響いた。


 


 

 

 

 

 

 


 


 

 


 


 




 


 

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