108章 お願い
「マジでいってんのか……!?」
「流石に冗談でこんなこと言わないぞ」
ちゃぶ台を囲む四人。第四戦目が終わった後、再びこの空間に戻ってきた。また部屋が変化するかもしれない、なんて予想は見事に外れた。どうやらしばらくはこの景色と戯れることになりそうである。
「それって、あみゅたんがゲーム仕切ってるやつらのお姫様ってことになるくない?…………まさかラスボスってことはないよね」
「ら……ラスボス……」
繭愛はかなりへこみ気味。何を思い描いたは知らないが少なくともすれ違いが起きていることは分かる。
「い、いやごめん!ほんとに、ほんとにそうなら嫌だなって思っただけだから!」
「めちゃくちゃ賛成する」
「お前ら楽観的過ぎないか?」
覚羅が大きなため息をついた。頭を抱えて見えないものを見ようとするかのように天を仰いだ。ついでに目尻を抑えているところを見るとかなりやられている。
「そもそも目的が分からないし、繭をどうにかするっていうなら全力で止める」
「そこじゃねぇよ。水影、こんなん俺らに話すようなことじゃねぇだろうが。普通は黙っとくのが吉だろに。もし俺が見限ったらどうするつもりだったんだ」
ごもっとも。そう返してしまいたくなるような正論だ。本当なら付き合いの短い覚羅と魅緒には内密にしていてもいいと思っていたし、実際のところそうするつもりだった。
繭愛を庇うためなのもそうだが公開したときのリスクがあまりに大きいと思ったからだ。下手をすればただでさえ不安定な関係を崩壊させかねない。
「まぁそれは……そうだけどな」
横目で繭愛を見やる。そういえば、昔からこの「お願い」には一度として逆らえなかった。言い方なのか態度なのかは分からないがとにかく不思議な吸引力がある。
「わたしが……お願いしたから」
「あみゅたんが?」
「うん。その…………嘘つきたくなかったから……おにぃには無理いっちゃったけど」
繭愛が気まずそうにうつむくものだから、なんだか梶樹の方まで気まずくなってしまう。確かに頼まれたのは事実なのだけれど、これだと完全に悪いことした認定になってしまうのでやめて欲しい。
「お前なぁ……馬鹿正直にも限度ってもんがあるんだぞ」
「んーでも、そこがあみゅたんのピュアなとこっていうか?らしさっていうか?」
落ち込み中の繭愛の頭をぽんぽんする。小さく悲鳴が聞こえたような気もしたが、梶樹はそれが妙に可愛いかったのでスルーすることにした。
「……俺らが一緒に居れなかったのも事実だしな。しゃあねぇ、これでチャラにしとけよ、水影」
「……おう」
覚羅には覚羅なりに考えがある。そして考え、思い、行動するメカニズムはそれぞれ千差万別なのだ。
梶樹は今までに出会った人たちのことを浮かべてみる。
(ある意味加害者なのは俺かもな)
バケモノの類いはどうやっても未知な存在だから仕方ないとして、人格が変わるほど能力に悪影響があるとすれば、攻撃的になるのも頷ける。
だがそれは、ない。
仮に悪影響があったとしてそれが自分や繭愛、この四人に何某かの変化がないのはおかしい話だ。辻褄が合わなくなる。
「……どうしたの?」
「いや、なんでも。それより今日は何が食べたい?」
「お、献立の話!?アタシ、ローストビーフで!」
「に、肉食……」
若干引き気味になりつつも、他に抗議する声も出なかったので決定してしまった。ちなみに食材なんてあるのかと思うが、冷蔵庫に何故か毎回大量補給されてあるのだ。
最初は部屋にいない間に入れているのかと考えていたが頻度と量からして明らかにおかしい。疑ったらキリがなかった。
(ありがとう、二人とも)
梶樹は内心、ぽつりと礼を述べた。




