100章 崩壊
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「……お前のしたことはいじめなんてもんじゃない。剛があんなに取り乱したのも、無理はないように思える」
堺は淡々とした口調で語っていた。が、その手のひらは硬く握られていた。
最初に聞いたときは耳を疑った。本当にそんなことをするような人間だったのか?それさえもわからない。ただ、震える声で打ち明けてくれた夢花が嘘をついているとは到底思えなかった。
ハジメのしたことは脅迫だ。警法に基づくなら罪にもなる。中学生である以上は問われることはない……が、将来を考えるなら改めさせるべきだ。
しかし、当のハジメには全くもって反省するような色どころか素ぶりすらも皆無だった。
「なんだよ……教師のくせに暴力を認めるのかよ、クズはどっちだばーか」
吐き捨てるように毒づいた言い回し。完全に上からの物言いと舐め腐った態度に、流石の堺でも拳から血管が浮き出た。
「ぶさけるなよ?」
煮えたぎるような思いをなんとか抑えたが声に震えが出た。ここが病院でなくどこぞの路地裏であったなら既に十数発は殴打している。
「だったらお前がしたことはなんだ。お前が笹井夢花にしたことは暴力じゃないのか。お前が他人にものをいえる立場だとでもいうのか!」
ガツン、とベッドの手すりが軋む。台の代わりに堺の拳が叩きつけられた。上気してはいるものの、その目は真剣そのものである。
けれど、ハジメは以前として涼しい顔でさも当然といわんばかりに言い放った。
「先生、あんた勘違いしてるよ。……いや、あんたもか。全くどいつもこいつも……」
はぁ、と大きくため息をついてから、続ける。
「いいかい?ボクがしたことは暴力なんかじゃない。教育だ。先生が生徒にやってる授業となんら関係ないんだよ」
「教、育……?」
堺の視界がモノクロになった。上下左右が逆転し、渦のように身体が溶け込んでいくような気がした。
ーーー何をいってるんだ?こいつはーーー
ハジメの言っている意味が理解できなかった。だが話を聞くうちに、その思考がもはや別の領域にあることを悟った。
「仕方ないよね、だって馬鹿なんだから。分からないのを分かるようにする、それが教育ってものじゃない?」
「同じ……?お前のしたことが、教師のしていることと……?」
「あたり前じゃん。目的が同じなら方法が違っても問題ないだろ」
「……笹井夢花は、怖がっていた。親にも話せないくらいにな。俺に教えてくれたときも、泣いていたんだぞ。嫌がっている人間にすることが、お前のいう教育なのか」
これに何を感じたか、ハジメは首を傾げた。
「何?先生は皆好き好んで授業を受けてるっていうの?だとしたら……先生も相当頭おかしいんじゃない」
「……は?」
「だってさ、義務教育っていっても結局はどっかの偉いヒトが決めたものじゃん。別にボクらから受けさせて欲しいなんてただのひとつも言ってないのに。いい迷惑だと思わないの?」
ぶつり。
堺の中でなにかが音を立てた。衝動に駆られ、次に意識がはっきりとしたときはもう既にハジメを突き飛ばした後だった。
生花を入れた花瓶が飛散し、ハジメの体は思い切り壁にぶつかった。
「……たぁ……病人になにして……っ!?」
許せない。許せるものか。こいつは夢花のみにあらず、自らの尊厳までも侮辱した。今までに培ってきたものの全てを馬鹿にした、その態度。
「……いっぺん、目ぇ覚ましてこい」
ぐしゃり。缶がひしゃげたような歪んだ音。体格からして勝る堺の容赦ない襲撃が続く。
一方的な殴打は無音のナースコールが届くまで続いた。
警備員に引き剥がされたときのは、ハジメはほとんど虫の息だったという。




