あ…どうも、元婚約者に殺されたと思ったら墓から蘇っちゃいました…
あらすじでも表記しましたが、R15は念の為です
えーっと、みなさん、こんにちわ。
私はしがない伯爵令嬢、ロレッタ・スチュワートです。
実は私、婚約者である…いや、もう元婚約者か、まぁそういう男に剣でズバッとされて死んだ気がするのだけど…アレ?
え、なんで生きてるの?絶対おかしいよね、これ
仰向けに寝っ転がってて起き上がれないし手も足も石みたいに動かない、もしやここはもう天国みたいな?でも視界はめちゃくちゃ真っ暗だし、もしかして地獄!?
あぁ女神様……私はそんな大罪を犯しましたでしょうか…………
私は当たり前のようにみんなが10歳頃に女神様から授かるギフトを貰えなかった。
10歳の時に一斉に行われるギフトチェックで何もギフトが無いと言われた時は、「ギフトを授かるのも遅い子がいるしまだ授かっていないだけ」というようなことを言われたが、それから何年経っても私がギフトを授かる事はなかった。
ギフトと一括りにいっても種類は千差万別で、それはもう物凄い、怪我が治療できるギフトを持っている人もいれば、まったく役に立たない、土を触るとちっちゃい芽が出るというギフトの人もいる。
…まったく役に立たないギフトでも、誰しも女神様からギフトを授かる事が常識だった。
そのため私は女神様に忌み嫌われているからギフトを授からないのでは、と縁起が悪いと社交界では悪い噂ばかり流れていた。
義兄や両親は気にしなくとも良いと言ってくれていたが、元婚約者…侯爵家嫡男エリオス・ピーターソンは違うようだった。
エリオスはことある事に私を敵視し、私という婚約者がいる事が恥だと話して回っていた。
直接手を上げられるようなことはなかったが、婚約者同士の定期的な顔合わせをすっぽかして他の女の子とデートなんてこともしていた気がする。
それも全部あのあまいマスクのせい。うん。間違いないわ。
年頃の令嬢からはエリオスは可愛い系の男子に見えるらしい。
私は可愛いとかあまり感じなかったのだけれど、ううむ。人の感性って難しいなぁ
私とエリオスの婚約は、エリオス側…侯爵家側からの申し込みで成り立った婚約で、伯爵家は金銭的な援助をしているがためにエリオスも婚約破棄と力強く言えなかったのであろう。
でもそれだからって殺しちゃう?確実に一思いにズバッとやってたよねぇ、あれ。ダイナミック婚約破棄にも程があるんじゃない?
女神様からのギフトが無い婚約者なんてアレだよなぁって思ってなるべく慎ましく目立たぬよう壁の花精神で、趣味も本を書くことだったし地味に生きてきたつもりだったんだけどなぁ…
うぐ〜〜っと無念に身体を震えさせていると、なにやら真っ暗だった視界にぽわぽわと光のたまが出てきた。
え?なにこのぽわぽわ。
なんか声が聞こえるよ〜な、、
私はそのひかるぽわぽわから聞こえてくる声に耳を傾けた。
『ちょっと!アンタ何やってるのよ!ギフトは全員に授けるって言ったじゃない!』
『ひえぇ〜、ごめんなさいっ!代替わりしたばっかりで忘れちゃってて……』
『もぉ〜〜!!しかもこのロレッタとかいう子、ギフトが無いことでかなり不憫な人生送ってるわよ!?どうすんのよ!』
…これ、もしかしなくても私の話?ん?喋ってるのは、誰?
『しょうがないわねぇっ!私がありったけの神聖力で蘇らせるから、アンタはギフトで女神の加護つけなさい!わかった!?』
『えっでもそんなことし……』
『馬鹿ね!女神は人に幸福を与える存在じゃなきゃダメなのよ!アンタ女神クビになってもいいの!?』
『い、いやですっ!がんばります!』
そんな声が聞こえたと思った次の瞬間、私の目の前のぽわぽわが凄い勢いで増え、私は光に包まれた。
次の瞬間、身体が更に激重になったと思ったら、暗がりからひかるぽわぽわとは少し違う、宝石のカケラのようなキラキラした物が上から降ってきて、私の胸の中にスっと入った。
え、なにこれ、凄い身体が軽くなった!手も普通に動くし足も動く!生前より軽い身体に私は驚きつつも少しびびっていた。
…もしや女神の加護ってマジな感じ?
女神の加護。それは女神様から授かるギフトの中でも役に立つなんてもんじゃないくらい最上級に凄いギフト。
どんなギフトなのかというと、女神様と同格の事が望めばなんでも出来るのだ。
例えば女神様のような天使の羽根を生やして飛んだり、宝石を生み出したり、不治の病を治したり、無くなった足を生やしたり。
たしか天使の輪っかみたいなのも付けられるきが……いやそれはしないけど、私本当に女神の加護授かったのかな?死んで錯乱して幻聴聞いたとかじゃないよね?
う〜んと悩んでいた時、頭の中に直接声が響いてきた。
___ロレッタ、聞こえるか
「え!?あ、はい!聞こえます!」
先程まで怒っていたお姉さんの声が急に聞こえてびくっとした私。
___私の弟子女神が手違いのようでギフトを授け忘れてしまったんだ。申し訳ない
「忘れ…幻聴じゃなかった…」
___元々おっちょこちょいだとは思っていたんだがギフトを授け忘れるとは思わなんだ……いやそれは良いとして。すまなかったな。我々のせいで苦労をかけた
「い、いいえ!恐れ多いです」
ギフトを授ける女神様より偉い女神様なんて……私が知る内では1人しかいなかった。
___私は最高神アフロティーヌ。全女神の母たる存在でもあり師でもあるが、ロレッタはしっておるか?
「知らないわけないじゃないですか!!」
やっぱりいい!!!この世界を創ったとされ、この世界で1番崇め称えられる女神様を知らない方がおかしいっ!
___私の神聖力で蘇らせ、ギフトを授ける女神によってロレッタにお詫びと言ってはなんだが女神の加護を授けた。
「えっえぇ…恐れ多い……」
___ではな。ロレッタ、好きに生きよ!
「えっちょっと待ってくださいアフロティーヌ様!私、今どこにいるんですか!?」
___墓の中だ!頑張って出るところから始めよ!
なんだって!?どうりで暗いと思った!!!
っていうか墓の中から出してくれるオプション付いててもよくない!?女神様ぁ〜〜!!
はぁ、もうしょうがない。生き返った(?)ことだしこのまま棺桶の中にいたら酸欠で死んでしまう。
ん〜どうやって出よう
暫し思考の沼に浸ったが、私の足りない頭では何も考えられなかった。
もうこれは、天使の羽根でばさぁっと力技でいこう。
羽なんて出した事がないからどうなるか分からないけど、物は試しだ。
私は手探りで棺桶の蓋なる部分に手をつけ、思いっきり上に押した。
「うう〜〜っ、おっもい!羽!出て!」
力いっぱい叫ぶと、棺桶の蓋らしきものが開き、私は夜空に飛び立っていた。下を見ると私がいたであろう墓地が小さく見える。
「えっちょっとまって飛びすぎ飛びすぎ!!」
したに〜下に〜と念じると、今度は急激に急降下した。あまりの急降下っぷりに思わず悲鳴が出てしまった。
これはコツを掴むのが難しそうだ…
やっと地に足をつけ安心した私はあたりを見渡す。
うん、よかった、夜っぽいし誰もいない。
あ、私死装束だ……
棺桶から出てきたことによりだいぶ土まみれの死装束だけど。
「私、本当に生き返っちゃったよ…」
どうしよう、これからどこに行こう。
義兄と両親の所?…でももしエリオスに知られたら面倒くさい事になりそうだ。
エリオスに殺されたのは間違いない。でも、証拠がない。
そんな不安定な状態で義兄と両親にエリオスに殺られました!なんて言ったら確実に面倒事ルートまっしぐら。っていうか死んだ人間が返ってきたら大騒ぎでは?
でももしかしたらエリオスが捕まっている可能性もあるかも……?私が死んでからどれくらい経ってるんだ?今は何月何日…?
疑問が湧き続け、頭の処理が追いついて来ない。
うぅ…どうしよう。
「ロレッタ……?」
名前を呼ばれた方を振り向くと、そこには王族のみが着ることを許されている服を着た人が立っていた。暗くて顔がよく見えないが、声からして同年代くらいの少年だということがわかった。
王族…?がなんでここに?それにロレッタって私の名前…よね?
王族で仲の良い人なんていないのに、一体誰?
「いや…幻覚か。ロレッタが蘇るはずがない…それにあれは天使の羽根…」
そう呟くと、その少年はくるっと踵を返して立ち去ろうとする。
「まって!!私はロレッタ!ロレッタ・スチュワート!」
気付けばそう声を出していた。置いていかれるのが心細いだなんて、初めての感情だ。
1回死んだから生まれた感情なのかもしれない。
私は思い切ってその人に駆け寄る。
「女神様の手違い?みたいでギフトを授からなかったみたいなんだけど、ついさっきアフロティーヌ様の力で蘇ったの!」
するとその少年がこちらを振り向いた。
……息をのむ、というのはこういう事なのだろう。
夜空のように綺麗な青い髪と、今、空に浮かんでいる月のように綺麗な、王族の証とも言える金色の瞳。
切れ長な目が大人っぽくて思わず見とれてしまった。
すると急に抱き締められた。
「ロレッタ…?本当にロレッタなのか…?」
「は、はい、ロレッタです…」
「その天使の羽根は…?」
「女神の加護です…」
「そうか…よかった…よかった……」
少年の身体が震えている。よかった…としきりに呟いている。まるで運命の再会だ。…が。
………だれだ?この人は
本当に思い出せない。顔はすんごい美形で王族の服に王族の証の金色の瞳を持っているけれど、思い出せない。脳みそをフル回転させているけどこんな人私の記憶にいない。本当に誰?
「す、すみません、つかぬ事をお聞きしますが、お会いしたことありましたっけ…?」
「あぁ…急にすまない。僕は第一王子のノア・ネイサンだ」
「第一王子…ってえ!?!!あの第二王子と双子だけど病弱で、1度でも見かけたら幸せになれるって噂の!?」
抱きしめられていた身体を無理やり引き離し、第一王子の顔を見る。
「はは、そんな噂もあるらしいね。そうだよ、僕がその第一王子だ」
泣いていた様で、袖で涙を拭い私と目を合わせる。
?????
なぜそんな第一王子が私を抱き締め…??泣くほど私が蘇ったのが嬉しかったのか……??
今日はちょっとばかし脳内で処理できる以上の問題が沢山起きてしまっていて思考が追いつかない。
脳内がはてなまーくでいっぱいだ。
そんな私をみてブッと吹き出す第一王子。
なんだぞ失礼だぞ、といった感じでぎろりと睨むと、第一王子は更に笑った。
「ごめんね、つい。ぼくときみは会ったことあるよ。厳密に言うと僕がきみの本のファンで、パーティーにいた君を勝手に覗き見してただけなんだけどね」
「……っえ?」
本って、私が趣味で書いてた本?
「特に“散ってゆく華たち”が僕はすきだなぁ」
あっ、まちがいなく私が書いてた本です。しかも
「それってもう何年も前のやつじゃ…!!」
「そうかもね」
そう言い、にこっとわらう第一王子。
「君と話したいことが沢山あったんだ。でも君には婚約者がいて、尚且つ第一王子なんていう肩書きの僕と一緒にいたら外聞が悪いだろう?だから話しかけたくても話しかけられなかったんだ」
「そうなんですね……」
マトモだ。まともすぎて吃驚してしまった。エリオスとは比べ物にならない。
「そんな矢先に君が通り魔にあって殺されたというじゃないか。話しかけて置けばよかったとどんなに後悔したことか、あぁでもよかった!いや良くはないのか?いやでも生き返ってくれてよかったよ…」
え?
「まってください、今なんて?」
「え?生き返ってくれて良かった〜って」
「それよりずっと前です」
「そんな矢先に君が通り魔にあって殺された?」
「そこ!!そこです!!私!通り魔になんて殺されてません!私を殺したのは正真正銘私の元婚約者のエリオスですよ!」
第一王子の身体がピタリと固まる。
いやまあ、この反応が正常なのかもしれない。
「ん〜と、エリオスって言うのは侯爵家の?」
「はい。侯爵家の」
「…ピーターソン侯爵家?」
「はい。ピーターソン侯爵家嫡男、エリオス・ピーターソンです」
「なんだって………!?!!!」
第一王子はその場にへたりこむ。
「ちょっと待って、ごめん、体調が悪くなってきた…」
「え!?だ、大丈夫ですか!?護衛の方とかは!?」
「だまって出てきた……」
「なんですって!?あぁもう、第一王子殿下!失礼しますよ!」
顔が真っ青になっていかにも体調が悪そうな第一王子を私は横抱きし、羽根を使って空へと舞い上がる。
「よ、横抱き…?僕、一応王子なんだけどなぁ…」
「もう!つべこべ言ってないでどこから来たのか教えて下さい!超特急で行きますよ!まだ羽根の扱い慣れてないんで振り落とされないようにしっかり掴まってくださいね!」
私は第一王子を抱えながら第一王子が暮らしているという宮殿へと向かった。
飛んでいる最中に気を失った第一王子を抱えながら、宮殿に着いてからは第一王子の専属執事を名乗るニコラスという男性が出てきて私は事の顛末を話した。
ニコラスは最初、天使の羽根を生やして飛んできた私を見て呆然としていたが、すぐに状況を把握したらしくメイドや執事を何人か呼び第一王子を部屋に運び、かくいう私は応接室に通された。
どどどどどうしよう。めちゃくちゃ成り行きで宮殿に来てしまった。てか第一王子軽かったな…途中で気を失ってたし、身体が弱いというのは嘘ではないらしい。
そんな第一王子が護衛も付けずに宮殿から割と離れている私の墓地にわざわざ来ていたなんて…と考えると少し謎だ。話したこともないのにそんなに私のことを考えていてくれていたんだろうか。
もう一度言う、なぞだ。
私は少しずつ眠気が襲ってくるのを感じていた。
ギフトを使うというのはこういう感覚なのか…と思いつつ、心地よい疲労感に包まれ若干土のついた死装束のまま宮殿の応接室のソファで眠ってしまった。
______
「ノア様…私は10年寿命が縮みましたよ」
朝起きた途端に専属執事でもあり護衛でもあり補佐でもあるニコラスにお叱りを受ける。
「でも彼女がここまで運んできてくれたんだろう?」
「まぁそうですが…それも驚きました。女神の加護のギフトが最後にこの国で確認できたのは100年以上前ですからね、羽系のギフトを使って嘘を吐いているのかと思いましたよ」
「ニコラスには嘘を見抜くギフトがあるからすぐに嘘じゃないことは分かったろ?」
「言葉に澱みが無さすぎて逆に理解するのに時間がかかりましたよ」
ニコラスはそう言うと、僕に水が入ったコップを手渡す。
その水を少し飲んでからニコラスに話しかけた。
「それより彼女は?ロレッタは今どうしているんだい?」
「ロレッタ様は昨晩お話を聞こうとしたところ眠ってしまったので、メイドたちに言って客室にお運びしておきました。今はまだ眠っていらっしゃるのではないでしょうか」
「そうか、ありがとうニコラス」
ロレッタ・スチュワート。
スチュワート伯爵家が長女で、ミルクティーベージュの髪と、大きく黒い瞳を持っている。
侯爵家のエリオス・ピーターソンと婚約を結んでおり、僕が好きな作家だった。
最初は純粋な興味だった。
第一王子だけれども身体が弱く王位継承は望めず、執務も視察もまともに行えない。国王である父や双子の弟で第二王子であるアレンは気にするなと言ってくれたが、名ばかり王子だと馬鹿にされ続けてきて正直精神的に参っていた時期があった。そんな時に出会ったのが、彼女が書いた本だった。
彼女が書いた本を読んでいる間は何もかも忘れられた。王子であることさえも忘れ、ただ彼女が紡ぐストーリーと丁寧に書かれた文章に惹かれていた。
そのうち書いた人物に会いたくなり、ニコラスに無理を言ってお忍びでパーティーに行くと、そこには想像より遥かに美しく慎ましい女性がいた。
僕はロレッタに一目で心を奪われてしまった。
彼女のそばにいるのが僕ならと何度思ったことか。
叶わぬ夢だった。彼女には婚約者がいるし、僕は名ばかりでも第一王子。
良からぬ噂が立って困るのは、彼女の方だったから。
そんな彼女が通り魔に刺されて亡くなったと聞いた時は頭の中が真っ白になった。
葬儀に出ることすら許されなかった。僕は第一王子だから。一言も喋ったことも無い令嬢の葬儀に出るなんてこの上ない不自然だ。
なぜ話しかけなかったのだと悔いた。もう彼女は戻ってこない。
せめて墓参りには行きたいと思い、気付いた時には宮殿を飛び出していた。
そしてついた墓場ではなにやら真っ白い羽根を生やした、ロレッタのような人物がそこに居た。
自分に都合の良い幻覚だと思ったが、違った。
それは正真正銘ロレッタだった。
女神様には感謝してもしきれない。
ありがとう、彼女とまた出会わせてくれて。
今度は絶対に後悔したくない。
「ニコラス。エリオス・ピーターソンの素行と、ここ1週間の行動を調べて。後監視も。水晶での録音も忘れずにね」
「仰せのままに」
______
立つ。歩く。止まる。走る。止まる。
1晩ぐっすり寝た私は、客室で身体を動かして回っていた。
…おかしい。絶対に、確実に、生前より身体が軽い。
それがギフトを授かったからなのか、女神の加護のお陰なのかは分からないけれど
身体がとても軽い。今なら飛べそうだ。…いや、とべるんだけど
試しにまた羽根を生やしてみる。
天使の輪っかなるものも付けられるみたいだし、つけてみようかな……どうすれば出てくるんだろう。
羽根最初に生やした時みたいに念じればいけるかな?
と思い力強く念じる。
輪っか〜でてこい〜輪っか〜!!!
あ、なんか来た。
言葉では表しにくいが、絶対にできた、という感覚があった。
鏡の前にいく。
「あ〜!できた!天使の輪っか!かわいい!……でも、死装束も相まってほんとに死人みたいだな……」
テンションは一瞬で急降下だ。
かなしい。
コンコン、と部屋をノックする音が聞こえたので、私は「どうぞー」と返事をする。
誰だろう、ニコラスさんかな?
ドアが開いたと思ったら、何人かのメイドさんが着替えやらなんやらを持ってぞろぞろと入ってきた。
私の姿を見て、「天使様…!?」と言ったメイドさんの声が聞こえた。
そっか、見方によっては天使に見えなくもない、かな?
死装束は土で汚れてるから随分薄汚い天使だけれども。
「おはようございますロレッタ様。お召し物と装飾品をお持ちいたしました」
「え!?でも私なにも頼んでないしそこまでお世話になる訳には…」
「まあまあ!女神の加護を賜りし女神の愛し子様が何を仰いますか!すぐに綺麗にして差し上げますわ。さぁ、皆さん準備はいいかしら!?」
1番偉い感じのメイドさんがほかのメイドさんに声を掛け、みるみるうちに私が磨かれていく。
まずはお風呂、それからマッサージ、髪のケアにお肌のケア……
どれもこれも実家の伯爵家では見たことが無い最高級のものばかりで目がチカチカしてしまいそうだ。
そして驚いたのがドレスに装飾品。
私はギフトが無いということもあり壁の花を目指していたためあまり華やかなドレスも装飾品も付けなかった。が、ここではめいいっぱいかわいいドレスを着せてもらえたし、綺麗な青い宝石がついた装飾品もつけて貰えた。
メイドさんたちが羽根を触りたそうにしていたので出してみせるともふもふですね!と言ってとても喜んでくれた。かわいいなぁ。
羽根を出したらドレスが破けちゃうんじゃないかと少し心配になったが、そんなことはなく、ドレスには傷一つ付いていなかった。なんともまあ不思議な。
あれよあれよと色々されているうちに薄くお化粧までしてもらい、気付けばお昼。
私は色々とやってくれたメイドさんたちにお礼を言ってからお昼ご飯を食べに食堂へ向かった。
朝ごはんも食べてないしお腹はぺこぺこ。何かを食べるにはベストコンディションだ。
宮殿の広い廊下を歩いていると、向かいから第一王子が歩いてくるのが見えた。
「あ、ロレッタ!」
「…第一王子殿下、ご機嫌麗しゅう」
私はゆっくり淑女の礼をすると、第一王子は慌てた。
「よしてよして!ノアって呼んで!僕も勝手にロレッタって呼んでるからさ!」
さすがに…と少し躊躇ったが、第一王子…ノア様のキラキラとした目には勝てなかった。昨日より明るいところにいるせいか昨日より10割増の美形っぷりだ。
「…ノア様?」
「できれば敬称も外して欲しいけど、うん、それで良いよ!」
満足気なノア様。大人っぽい容姿なのに子供っぽくて少し可愛い。そういえば
「お身体の方は如何です?」
「ああ、言い忘れてた。昨日はありがとう。助かったよ。今は全然平気!これから昼食かい?」
「えぇ、まあ」
「良かったら一緒に食べようか」
お〜と、作法は大丈夫かな…
少し不安になったがここは腹を括るしかない。
「私なんかで良ければ」
そう言って昼食をふたりで食べた。
その時に色々なことを教えて貰った。
今は私が死んでから4日後だと言うこと。私は今巷を騒がせている通り魔と同じ手法で殺されていたこと。エリオスは悲しんでいる振りをしているということ。
エリオスのことを頭のなか空っぽのただのアホだと思っていたがそうでもなかったらしい。中々に巧妙な手口だ。
そして1番驚いたのが、女神の加護のギフトが最後に確認されたのはなんと100年以上前だということ。
そんなに希少性が高いだなんて思ってもみなかった。
そしてこれからエリオスの事を調べていくのと、女神の加護を授かった記念でお披露目が神殿であるらしいので宮殿に留まるよう頼まれた。
義兄や両親は宮殿に呼んでもいいと言ってくれた。
至れり尽くせりすぎてもちろん了承した。お披露目は不安だけれど、エリオスやその他もろもろどう対応するべきか考えあぐねていたから助かった。
ドレスも似合っているねと褒めてくれたし、にこにこととんでもない美形が微笑むもんだから私の心臓はドキドキしっぱなしだった。
宮殿に留まってくれと頼まれて二つ返事で了承したけれど、これは宮殿を出ていくよりも先に私の心臓が破れる気がしてきた。
昼食を食べ終わったあと、ノア様はまた体調が悪そうにしていた。
「大丈夫ですか?」
「すまないね、少々吐き気が…」
おっとそれはまずい。食堂で吐くと後処理が大変だ。
私はまた昨晩のようにノア様を横抱きにした。
「ノア様、失礼しますね」
「これは……デジャブ……王子なんだけど…」
「ここで吐いたら大変ですよ、自室に戻られますか?」
「…たのむよ」
「昨日よりは飛ぶの上手くなったと思うのでゆっくり行きますね」
「ありがとう」
私は羽根をバサッと出してゆっくりと、なるべく振動が伝わらないようにスーっと飛んだ。
それを目撃したメイドさんたちが黄色い声を上げてお似合い!!と言われたが、違うんだ、断じて違うんだ、と弁明したくなった。
私がこんなキラキラ美形イケメン第一王子とそういう仲なんて恐れ多すぎる。
自室のベッドまでノア様を運び、いつ戻してもいいように袋を用意した。
「ロレッタ、君って意外と強引なんだね…」
「私は元々こんな感じですよ?」
「でもほら、パーティーで元婚約者といる時はもっとこう…静かで慎ましいイメージだったからさ」
「それは……ギフトを授かっていない婚約者なんてほら…世間体悪すぎるじゃないですか?だから少しでも慎ましくしとこうって思ってたんですよ。目指すは壁の花!みたいな感じでした」
「あぁ…なるほどね…うぅ゛っ…」
ノア様が嘔吐く。
私は少し慌てたが、背中をさすった。
ノア様は本当に苦しそうで見ていられない。キラキラ美形イケメンは常に笑っていなくては。
…そういえば、女神の加護で治療とかもあったよね?
と思い至り、やってみることにした。
とは言ってもやり方が分からないので、羽根や輪っかを出した時のように念じてみる。
なおれ〜ノア様の体調不良なおれ〜元気になれ〜
するとみるみるうちにノア様の顔色が良くなるが、ノア様は固まったまま動かない。
え、これ大丈夫!?人にやったのは初めてだったからなんか変なことでもしちゃったかな……
私は怖くなってノア様に話しかける。
「の、ノア様、大丈夫ですか?」
私が声をかけるとノア様はやっと動いた。
「大丈夫…なんだけどちょっと吃驚して。吐き気が消えたことは勿論なんだけど、なんていうか身体が軽くて……」
ノア様は手をぐっぱっと動かす。
ほっとする。よかった、間違ってなかったみたい。
「少し女神の加護の力らしきものを使ってみたんです。具合が良くなってよかった」
私がそう言って笑うと、ノア様は私からパッと目を逸らした。
「天使…?天使なのか…?羽根がないのに天使に見える……」
ノア様はブツブツと呟いたかと思いきや急に私の方を向いて心底真面目そうな顔で言った。
「ロレッタ、僕と結婚してくれないか?」
「……はい?」
思わず自分の耳を疑った。
______
そこからは怒涛の日々だった。
義兄と両親は顔をぐちゃぐちゃにしながらも私との再会を喜んでくれた。
事の発端のエリオスは私の女神の加護の能力により病弱では無くなったノア様がどこからか集めた動かぬ証拠の数々に言い訳すら言えぬまま永久投獄になったらしい。
私も私で女神の加護を180年振りに授かった女神の愛し子として神殿でのお披露目のために着せ替え人形の様に衣装の早着替えをさせられたり、マナーを1から学び直したりした。
そして何より強烈だったのがノア様による求婚攻撃。
最初は冗談かと思って受け流していたら、ある時はこの国1番といっても過言ではないほどの華やかな宝石をあしらった装飾品を“僕と結婚してください”というメッセージとともに贈ってきたり、またある時はノア様の髪色と同じ綺麗な青色の布を使ったプリンセスラインのドレスをメッセージ(以下略)贈ってきたり、それはもう贈り物の山だった。
凄いのがどの贈り物も素敵だということ。
…美形な上にセンスもいい、非の打ち所が無さすぎる。と思っていたら更なる驚愕の事実発覚。
どうやら装飾品やらドレスやらは全部ノア様がデザインを手がけ、自ら制作したとのこと……
それをニコラスから聞いた時は流石に言葉が出なかった。なんちゅーハイスペック王子だよ!!!
しかも執務もその他のことも疎かにせずに私への贈り物作りにいそしんでいるということ。
そこら辺で私も根負けした。いや、せざるを得なかったよね。
伯爵家なんかと結婚したら王族として示しがつかないのでは、なんていう私の心配もよそに私とノア様…ノアの婚約は多くの人に祝福された。
私のことを縁起が悪いと嫌っていた人達にはささやかな仕返しに会ったら毎回話しかけるようにしている。この位は許してね?
王位はノアの双子の弟である第二王子のアレン様が継ぐらしい。
第一王子のノアじゃないの?と思うかもしれないけれど、ノアが「アレンが病弱だった僕の代わりに王になる為に勉強してきた時間を無駄にさせるような事は出来ない」と、王位継承を頑なに拒んだからだ。
なによりアレン様が現国王…父に憧れて王になりたがっていた事を知っていたから、というのも大きいんだと思う。
我が夫ながら素晴らしい人だと思う。
そんな私とノアは国中を回っている。
ノアは困っていることはないか、不正が行われていないか等を調べたり、私は日照りに見舞われてしまった土地に雨を降らせたり、病が流行ってしまったときにはそれを治したりと女神の加護を駆使して人々を助けて回った。
天使様なんて言われているけれどさすがに照れくさい!
たまに考えるが、もし女神様から何かギフトを授かっていて、エリオスと結婚していたと思うとゾッとする。
女神様の手違いで生まれた奇妙な縁だけれど、その手違いが無ければきっとこんなに素晴らしい人生は歩めなかっただろう。だから、あの代替わりしたばかりの新人おっちょこちょい女神様には感謝している。
いつかノアとの日々を本に残したいなぁ、なんてことも考えてたりいなかったり。
「ロレッタ!次はどこにいくか僕達で決めていいそうだよ」
「そうなの?じゃあどこに行くか考えないとね」
「ロレッタはどこに行きたい?」
「ノアの行きたいところでいいのに」
「妻にはカッコつけたいものなの」
「私と初めて話してすぐ横抱きされた人に言われてもね?」
「その話は秘密だって言っただろ〜!こらっ!」
「きゃ〜!ノアが怒った!」
数年前には考えられなかったような
この幸せな毎日が、ずっと続きますよう。
お読み下さりありがとうございました
感想等お待ちしております。
Twitterもやっているのでよしなに
小話ですが、ノアのギフトは人形だと認識したものを動かせるというものです。
なんとも可愛らしく本人はあまり気に入っていなかったのですが、ロレッタに見せたところ大変好評だったため今では定期公演が開催されているとかいないとか