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第八話 加護とは、呪いか祝福か

今回はセリフ多めです

見辛いかもしれませんがご容赦ください。

 駆け下りる事三層、第四層に降りた時にそれは起こった。


 体力の温存のためにそれまで黙っていたエリスが遠慮がちに俺に話しかけてきたのだ。



「ミロヤ…びっくりしたでしょ?」


 

 何が?とは聞かない。

 十中八九、階段でのあの出来事についてだろうから。

 太陽の光を浴びると魔力が失われていく、なんて人間ではあり得ないだろう。


 エリスは俺にそれを説明する為に聞いたのだ、ならば質問には返さなくてはならない。



「疑うわけじゃ無いが、まるで…アンデッドモンスターみたいだったな」


「あはは…だよねぇ…もしわたしがミロヤならわたしだってそう思うもん」



 繕わない俺の言葉に力なく笑うエリスは一呼吸いれると更に言葉を続ける。



「わたしね、死んでるんだ。この世界に産まれた時から。おかしいよね!産まれたのに死んでるなんて…」



 と続いた彼女の言葉は確かにおかしい。

 アンデッド種は死んだその時のまま動き続ける亡者なのだ。

 だが、彼女は産まれた時には死んでいたと言う。

 人は必ず産まれるときは赤子の姿で産まれるはずだ。

 目の前の彼女は少女の姿をしておりどう見ても赤子には見えない。つまり、アンデッドの特徴である成長しないという一点において矛盾しているのだ。

 そう考えた俺は、通常あり得ない現象が唯一起こる一つの可能性に思い至る。



「そう、ミロヤの考えている通りわたしは加護を持って産まれたのよ。<冥界の貴婦人(ペールセポネ)>の加護を持ってね」


「冥界の貴婦人?」


 顔に出ていたのか質問に先回りするエリスから出てきたのは聞いた事のない加護だった。



「わたしを鑑定した司祭様によると、『死者がその最後に行き着く安息の地の女主人、いづれ開かれる彼女の茶会に招かれる者』らしいわ。意味わからないわよね」


「たしかに不明瞭極まりないな。だが、経験としての効果は予想がついてるんだろう?」



 俺の英雄の加護だって実際には「行く先々に訪れる幾多の困難、それを乗り越えた時、人はかの者を英雄と讃えるだろう」なんて意味のわからない文言だった。

 加護の詳細がわかっているのは人の長年に渡る努力の成果という事だ。

 エリスにもそれがあるんじゃないかと思ったのだ。



「なんとなく、だけれどね。わたしの加護はわたしを文字通りの生きる屍にするものなのよ。成長する死体にね…見てて」


 そう言って彼女は自分の千切れた下半身、その断面を指す。

 彼女が全身に魔力を循環させると、既に出血が止まっていたそこから赤黒い血液がどくどくと溢れでてくる。

 起こった現象に慌てる俺だったが、魔力を抑える気配とともに出血もおさまるのを見て冷静さを取り戻す。



「わかる?魔力の循環で身体を動かすのに必要な血液を流してるの。何もしなければ、わたしは死体と何も変わらない。

 わたしの魔力が尽きた時だけ、肉体が朽ちていくの。逆に言えば最低限の魔力さえあればわたしが死ぬ事はほとんどないの、だって死体が死ぬわけないんだもの」



 便利な身体よね、と笑うエリス。

 彼女の説明は大雑把ではあったが俺にも少しだけ理解ができるものだった。


 俺たちが生きる為に必要な空気を運ぶのに血液を利用している様に、彼女は肉体を維持する魔力を運ぶ為だけに血液を利用しているのだ。

 違うのは空気はひとりでに動く事は無いのに対し、魔力はある程度方向性を持たせる事ができる点だ。

 だからポンプとしての心臓が必要ないし、心臓を動かすための呼吸も必要としないのだろう。

 必要がなければ動かすのに魔力を使うだけ損というもの、彼女にとって呼吸は話す為だけに空気を取り入れているに過ぎないのだ。


 魔力によって動かされるというのはアンデッドも同じだが、奴らは魔力を操り人形の糸の様に使い身体を動かしているのに対し、エリスは魔力で身体に生きていると錯覚させて動かしている。

 どちらかといえば身体が魔力だけで構成されている精霊と似たような存在だと思える。



 得心がいったところで改めて抱えているエリスに向き直る。



「だから、わたしはアンデッドじゃないの。って、みんなにも言いたいところなんだけど太陽に弱いせいで信じて貰うのは難しいし、仕方なく隠していたの。ごめんなさい」


「別に構わないさ、お互い加護に振り回される身の上って事だ、むしろ親近感が湧くよ。

 そうか…出会った時はぐらかしている感覚があったのはそのせいか」



 思い出すのはギルドでのやりとりだ。

 甲冑で全身を覆い隠しているのに見ての通りと言ったり、頑なに街中で兜をとらなかったりとか。

 変わっている人物と言ったらそれまでだが、それでも不審に思ったものだ。



「やっぱりなんか隠してるのは気付かれてたかぁ !わたしもアレはちょっと不自然だと思ってたのよね〜」


「あ、でも『こいつ、ちょっと残念な奴なのかも』と思ってたからずっと気づかなかった可能性の方が高いぞ」


「フォローになってないわよ!」



 冗談のつもりで言った感想だったが予想以上に刺さったらしく腕に噛みつかれる。

 革鎧で覆われていない腕の内側は丈夫な素材で出来た厚手のインナーだ、痛くはない。

 痛くはないが…腰から下のない彼女の姿と合わせるとなんとも気味が悪く背筋がゾワリとする。



「冗談だ、冗談!だからやめてくれ、この光景を他の冒険者に見られると不味い!」



 女の亡者に襲われる冒険者…話が通じる相手ならばいいが下手したら討伐モノだ。

 彼女に止めさせた所で、話の続きをしてもらう。



「他に何か特徴は無いのか?例えば回復魔法でダメージを受けるとか、浄化の魔法で灰になってしまうとか」


 アンデッドの特徴をいくつか挙げてみる。



「回復魔法で傷が付くとかそういうのは無いわね、ちゃんと回復の効果は受けられる。ただ、身体が元通り治ったりはしないわ」


「身体が元通り治らない?」



 回復魔法の効果を受けているのに治らないとは何故なのか、理解出来ないのでオウム返しに聞き返す。



「わたしの感覚による所も多くてうまく伝わるかわからないんだけどそれでもいい?」


「あぁ、教えてくれ」


「なら、説明するわね」



 一拍置いてエリスは自身と回復魔法の関係について説明をはじめる。



「えっとね、大体の回復魔法ってさ、失った身体の一部を魔力によって再現する事で治してるじゃない?壊れた部品を新しく作り直して嵌め込む、みたいな感じよね」


「あぁ、そう言われればそうだな」



 身に覚えのある事だったので賛同する。

 たしかに回復魔法で治った怪我はなんというかそんな感覚がある。

 自分の身体なのに自分のものではない様な、極々僅かにだがそんな違和感が。



「でね、それって魔法をかけた本人は意識してやってないわよね。腕とか脚を治したい…そんな、大雑把なイメージでやってるのよ。腕のどこそこの血管をこう繋げて、脚のここの筋肉はこうなってて…とかそんな細かい事は意識してないはずよ」



 それはそうだ。

 人間の体は緻密で複雑に作られている、傷の深さや個人によっても変わるソレを戦闘中に扱う事もある魔法で術者が完璧にイメージするなど不可能だろう。



「ここからはわたしの推測なんだけど、回復魔法ってたぶん魔法を受けた身体自身が持っている設計図…みたいなのを読み取っていて、それを基に新しく身体を作り直してるんじゃないのかなって思っているの」


「身体の設計図か…イメージは掴めた気がするが、それならエリスだって治るんじゃないか?」



 エリスの言葉が事実であれば特に問題がなく治る気もする。

 彼女が動かしている肉体は擬似的にも生きているようなものなのだから。



「治る事は否定してないわよ。元通りうまく治らないの、きっとわたしが死体でこの状態が正しいっていう基準が曖昧なせいだと思う。」


 エリスの言葉はさらに続く。



「例えるなら、職人が又聞きで想像だけで作った創作物って感じ。生えてきた腕の形が変だったり、右と左で指の太さが一回り違う事もあったわ」


「それならよくわかるぞ、地元で食べた大陸料理は本場ではまるで別物だった」



 大陸のノーザンファームという地域で流行中の乳製品を使った麺料理という触れ込みでユーリと一緒にクソ長い行列に並んで食べたのだが、あっちは牛の乳で煮込んだ麺で本場はチーズを溶かして絡めた料理だったのだ。

どちらも美味しいものだったが、同一の料理でないのは間違いがなかった。

 彼女に起こっている事はそれと似たようなものなのだろう。



「それじゃあ浄化の魔法はどうなんだ?」


「浄化の魔法…というより太陽の性質を持つ魔法全般が苦手ね。別に灰になったりはしないけど魔力のコントロールが乱れて力が抜けていくわ、それに肌に発疹が出来ちゃうの。簡単に言うとアレルギーね」


「アレルギー…」



 なんというか力が抜けるような理由だった。

 あの苦しみ様からもっと激しく、それこそ消滅してしまうものを想像していたせいだ。

 すると、そんな俺の内心を見抜いたのかエリスから指摘が入る。



「アレルギーを舐めたら行けないのよ!程度によっては最悪死んじゃう人もいるんだからね!?」


「そ、そうだな。すまん、俺が浅はかだった…」



 別にアレルギー持ちの人物を貶めたつもりは無く、そのせいで本当にアンデッドの様相を呈しているエリスを可哀想に思ったのだが失礼なことに代わりは無かったので謝っておく。



「わたしの加護についてはこんなところね。ミロヤは他に聞きたい事はないかしら?」


「いや、これだけわかれば十分だ。ありがとう」



 とりあえず気をつけるべきことを話し終えたエリスの締めの言葉に、話をしてくれた礼を重ねる。

 これでパーティーを組むときに注意すべき事に予想が立てられる。

 エリスの方も何も言うことがないようなので会話を終了し、ダンジョンを進む事に集中する。



 無言で進むこと十数分。

 話をしている時間は思ったよりも長かったらしく気がつけばボス部屋の扉の前にたどり着いた。

 あとは、エリスの身体と装備を回収して帰るだけだ。


 だが、ここまでの道中何もなかったことが気にかかる。

 英雄の加護であれば何かしらの障害に遭遇すると思っていたが、長時間話し込めるほど本当に何もなかった。

 となればボス部屋が一番怪しく思える。

 流石にボスモンスターのリポップはまだ時間があるはずなので、強敵が再度湧いているなど考えたくはない。



「エリス、ここから先は背負う事になるが腕に力は入るか?」


「ええ、大丈夫よ!しがみつく事くらいは出来るわ」



 万が一を考えてエリスを腕で抱えることをやめて背負い直す。

 両手を使えるようにした俺はデバイスから刀を選び装備すると、慎重にボス部屋の扉を開ける。



 迷宮による消化まで時間はあまり残されていない。

 これからの冒険の為なんとしても取り返す覚悟を決めて俺はボス部屋へと足を踏み入れる。



 本日2度目となるボス部屋への挑戦がいまはじまろうとしていた。

エリスはややこしいですね。

まぁ、なんとなく彼女はただのアンデッドとは違う死体を操る魔法生物のようなイメージを持ってくれればそれで大丈夫です。


次はボス部屋突入です!ミロヤくん一行は目的を果たし無事ダンジョンから帰還できるのでしょうか?



次回、「第九話 立ち上がる 脅威」

ご期待ください。



感想好評お待ちしております。

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