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第七話 呆れるほど大きな声で

今回は短め。

「はっ…!はっ…!」


 晴れ渡る平原をエリスを抱えて息を切らしながら走る。

 魔力を脚に集中して流す事で底上げした走力に物を言わせて障害の全てを無視する事で、下りの倍の速度で駆け上がることができていた。

 今は第一層の階段が見えてきたところだ。


 脱出を目前に控え少し落ち着いた俺は腕の中の少女の様子を確認する。

 白く血色の失われた顔の閉じられた瞼は、自分の認識の甘さを後悔させる。

 だが、迷宮による肉体の分解は始まっていないようだ。


 迷宮で死んだモノは魔物か人間かを問わずに死体が消失する事は明らかになっている。

 一説によるとそれは迷宮自体の維持機能なのだろうとされている。


 まず、その骸から所有者が居なくなって空気中に抜け出す魔力を吸い上げる、そして空になった器である肉体は新たに産まれる魔物のリソースとするのだ。というのが通説だ。

 だから肉体に残留する魔力が多ければその分還るまでの時間が増えていくのだろう。



 肉体が無くなってしまってはどんな高名な司祭がどれだけ高価な触媒を使用したとしても、蘇生をすることなど不可能なのは俺でもわかる。


 蘇生に必須な肉体が無事であることに一先ず安堵する。


 そして呼吸を整えて地上へと繋がる最後の階段を登り始める。

 行きと同じように浮遊感を抜けて顔を見上げると、外はまだ夕方なのか長い階段の先に夕日の光が見えた。



「外だよ、エリス。必ず俺がなんとかしてやるから」



 夕日を見て安堵と先行きの不安を感じた俺はそれを紛らせるために、エリスに一人話しかけたのだが…その時見たエリスの姿に俺は言葉を失った。


「……っ!?」



 先程まで閉じられていたエリスの紅い瞳が見開かれ、真っ直ぐにこちらの目を見つめていたからだ。

 目が覚めた嬉しさより、驚愕の方が大きかった。

 明らかな致命傷。呼吸も脈も止まっていた、彼女は完全に死んでいた筈だからだ。


 まさか、「動く亡者(アンデッド)」になってしまったのか!?いや、瞳の色は失われていないからアンデッドになったわけじゃない…?

 では、何故?

 状況に混乱する俺を現実に引き戻したのは、その原因であるエリスの言葉だった。



「ここは…?わたし、どうなったの…?あのデブを倒して…それで…あれ?」



 弱弱しく絞られた様な声だったが、アンデッドとは違う明確な意思の籠もった言葉は俺を冷静にさせるには十分だった。



「良かった…!エリス、本当に良かった…!!」



 魔物になってしまった訳ではないのなら、まずは目を覚ました幸運を喜ばなければいけないだろう。そして、彼女が知りたいであろう状況を説明する。



「あのゴブリンチャンピオンは今際の一撃のスキル持ちだったんだよ。それで、動かなかったエリスは深手を負って息もしてなくて…っ!だから急いで地上を目指して…ごめん、何を言ってるかわかんないよな」



 言葉に詰まってうまく伝える事が出来ずにもどかしかったが、エリスにはちゃんと伝わった様で一言、



「ごめんね、ミロヤ」



 そう言って眠る様に目を閉じた。

 その様子に危険なモノを感じた俺は彼女の意識を引き戻す様に次々と声をかける。


「エリス、大丈夫だ、外はまだ明るい!教会だって開いてる筈だ。司祭様に頼めば無くなった下半身だってなんとかなる!置いてきた装備だって、買い直せるさ。金なら心配するな。こう見えて俺は小金持ちなんだ、それでも足りなきゃ借金でもなんでもするさ。だから…」



 目を開けてくれよ。そう続けようとした俺は最後まで言葉を発する事が出来なかった。

 ほんの数秒前まで死にかけて儚い雰囲気を漂わせていたはずの少女が、(オーガ)もかくやと言った形相で睨みつけてきていたからだ。



「え!?わたしそんな重傷なの!?それに装備も置いてきたって!?ミロヤ!わたしの無くなった身体は今どこにあるの?」



 致命傷を受けているというのに、出会った時と同じく呆れるほど大きな声でそう捲し立てる。

 意識を再び戻せたとはいえ流石にコレはまずいと思った俺はエリスを落ち着かせる。



「落ち着け、お前の装備…兜とグリーブとかは斬り飛ばされた下半身と一緒にボス部屋に置いてきたんだ。焦ってたし、少しでも軽くしたかったから…」



 必死に宥める言葉を考えてはみたが後半は言い訳になってしまっていた。

 それを聞いたエリスは驚いた顔をそのままに



「戻るのよ!わたしの身体のあるところへ!今!すぐに!!」



 と言った。

 ここからボス部屋に戻る?

 今こうして生きているのが奇跡なのだ、次の瞬間死んでいてもおかしくないのだ。このまま治療をしないなんてことは了承できず首を横に振る。



「ダメだよエリス。君は今から教会で治療を受けるんだ。今から戻ったとして、帰れるのは確実に夜になる。そうなったら治療を受けられず死んでしまうぞ」



 興奮するエリスをあまり得意ではない大陸の言葉で出来るだけ優しい言葉を選んで諭すが効果は薄く、「お願い、早く戻って」の一点張りだ。

 こうして話しても埒が明かないので抱きかかえたまま無理矢理出口を目指すべく足を進める。



 すると、出口が近づいてくるにつれ強くなる陽の光を浴びたエリスが苦しみの呻きをあげる。

 驚いて足を止めると彼女の魔力がどんどんと抜け出していくのがわかった。

 尋常ではないエリス様子に慌てて階段を引き返す。


 再び浮遊感を潜りダンジョンへと戻ると、少し楽になったのかエリスから声がかけられる。



「これで、わかったでしょ…?とにかく、わたしの身体のある所へ連れてってほしいの…そうすれば、なんとかなるわ…」


「あ、あぁ…よく分かった。俺の出せる全力で引き返すがそれでも時間がかかると思う。大丈夫か?」



 大丈夫か?はもちろん死なないかという問いかけだ。

 それに対してコクリ、と頷くエリス。


(出血は…ほとんど無いな、それに意識もハッキリしてる。彼女の言葉を信じてもいいだろう。

だけど、あの様子はまるで… 彼女は一体?)


 エリスの容態を確認し問題なさそうだと判断した俺は、階段での彼女の様子に疑問を覚えたものの、本日2回目となる脚に集中した身体強化を施す。


 ボス戦で温存できた魔力はまだまだ持つだろう。

 彼女の負担にならないようしっかりと身体を抱きかかえて走り出す。




 信じると決めた彼女の、信じられない現象から意識を逸らす様に少年は迷宮を突き進んでいく。

 

優秀なエリスが何故、はぐれもののミロヤくんに目をつけたのか。

それがわかるかもしれません一幕でした。


次回、第八話 『加護とは、呪いか祝福か』


荒削りで技術不安もあり改稿前提ではありますが、この拙作をどうかよろしくお願いします。


感想高評価おまちしております。

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