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第四話 新たなる仲間

はい、タイトルネタバレでしたね。


 加入希望者が現れたのはパーティーメンバーを募集してから、実に四日目の時分だった。

 大通りから少し外れた安めの宿で遅い朝食をとっていると希望者が現れたので面談のため出頭してほしい、とギルドの男性職員が連絡をよこしてくれたのだ。

 まさかこんなに早くに見つかるとは思わなかったので呑気に食べていた野菜の入ったスープを味を楽しむ事なく飲み込むと、急いで宿を飛び出しギルドへ向かう。


 昼前といったこともあり、多くの人で賑う大通りを人々の間を縫うようにして駆け抜けるとあっという間にギルドの目の前にたどり着く。

 スイングドアを勢いよく飛び開けてギルド内へ駆け込むと受付から離れた所、広間に置かれたテーブルの内の一つに驚いた顔のマチルダとフルフェイスの全身甲冑の人物が座ってこちらに顔を向けているのが見えた。

 マチルダと一緒にいるということはあの鎧の人物がパーティー希望者なのだろう、確信を持って二人の待つテーブルへと足を進めていく。

 そしてテーブルにたどり着く頃に、ようやくマチルダは気を取り直したようで咎めるような視線と共に口を開く。



「もう!ミロヤさん!扉の前に人がいたらどうするんですか!!今回は何もなかったからいいものの、次回は気を付けてくださいね!」

「あ、あぁ…すまない。希望者が現れたと連絡を受けたらいてもたってもいられ無かったんだ。次はもうしない、約束するよ」



 俺のしでかした事にぷりぷりとかわいらしく怒るマチルダに謝罪をすると「わかればいいんです」、と許しを得られた。

 だが、俺はそんな事よりこの鎧の人物の方が気になって仕方がない。つい、マチルダを急かしてしまう。



「それでマチルダ、この人が加入希望者ということでいいんだよな?」

「むー…まぁいいです、それだけ嬉しかったんでしょうしね。そうです。この人、エリス・ガーランドさんが死にたがりの英雄のパーティーリーダーと話がしたいと希望してくれたんです」



 マチルダの説明に俺は驚いた。鎧のせいで詳しくはわからなかったが、長身だと言われる俺の胸あたりの背格好に見えたのでてっきり男だと思っていた。

 いや、だが俺は大陸にあまり詳しくない。島国のヤモトと違い大陸にはエリスという男性もいなくはないのかも知れないな、そう思うと迂闊なことは言えない。これからパーティーメンバーになってくれるかもしれないのだ、下手な事を言って不興を買うのは避けるべきだと判断を下した俺は、ひとまず自己紹介から始める事にした。



「俺はミロヤ、ミロヤ・ザマーだ。見ての通りヒト種の男で先日成人を迎えたところだ。ジョブはこっちじゃ珍しいかもしれないがオリエンタルに就いている。前衛も後衛もやれるまぁ、器用な便利屋だ」



 パーティー面談のテンプレートをなぞる自己紹介を終えると、いままで一度も口を開かなかったエリスの様子を伺う。声を聞けば流石に性別はわかるはずだ、などとなんの為の自己紹介なのかわからない事を考えていた。

 そんな事を考えていたから次のエリスの自己紹介には衝撃を受ける。


「私はエリス・ガーランド!種族は()()()()()よ!年齢も同じね!ジョブは上級騎士で前衛!前のパーティーではタンク役をやらせてもらっていたわ!あー!緊張したぁ!」



 などと、とんでもなく大きな声で返事が返ってきたからだ。

 寡黙な人物だと思っていたが、ただ緊張して話すタイミングが無かっただけらしい。

 溜まったストレスを発散するべく出された声にギルド中の視線を集めてしまう。恥ずかしいが、これで性別はわかった。それとその性格も。

 全身鎧で容姿も見えないというのに見ての通り!とこちらの発言をなぞるこのエリスという少女はたぶん、どこか間の抜けたところがあるのかもしれない。

 視線を集めてしまったせいで面談進行役のマチルダも居心地が悪そうにしている、ここは俺がなんとかまとめなければならないと思い、面談をすすめる。



「あー、エリス…さん「エリスでいいわよ!」…エリスは俺の事についてマチルダから何か聞いているか?」

「もちろん聞いてるわよ。66回もパーティーを追い出されてる事とか、超のつくほど厄介で優秀な加護を持っている事とかね」



 どうやら、大体の事の説明は受けているようだ。

 それでいて加入したいというのだ、覚悟は決まっているのかもしれない。

 ならば後はその理由を尋ねなければならない。

 漠然とした募集要項にした自覚はある、もしかしたら活動方針ですれ違うこともあるかもしれないからだ。


「エリスはなんで俺と組んでくれる気になったんだ?差し支えなければ理由を教えてくれないか?」



 すると、エリスはうーん、と唸った後に先ほどの溌剌さがウソのように淡々と考えを述べ始める。



「わたしね、聖騎士になるのが夢なのよ。ううん、ならなきゃいけないの。できるなら数年以内に。その為にはなんだってするしわたしの身にどんな事が起きたって構わないわ」



 フルフェイスの兜のスリットから覗くエリスの血のように紅い瞳は力強く、その言葉に嘘がないのを物語っている。

 一呼吸おき、エリスが言葉を続ける。



「そう考えているところに、あなたの募集を見かけたの。死んでもいいやつ、栄光を掴みたいやつ集まれだなんてまさにわたし向きだと思ったわ。だから、今ここにいるのよ」



 その後、もはや言うことはないとばかりにエリスは口を噤んだ。

 彼女の言うことが真実ならばなるほど、俺の存在は渡りに船だろう。

 騎士系の上位ジョブである上級騎士のさらに進化を目指す、それも数年以内に、だ。

 上位ジョブへの進化は本人の才覚に左右されるところが大きいが、十年なら優秀、凡人は数十年かけてやっと為せるか為せないかという世界なのだ。上級騎士であれば進化しないで一生を送るというのも珍しい話ではない。

 それを数年以内に縮めるとなれば取れる手段など限られる。


 ジョブを才能関係なく強制的に進化させるダンジョンの遺物「至天の覚書」を手に入れるか、文字通り命を削る死闘に身を置くかの2択だ。

 前者は産出量など極々僅か、王侯貴族がその入手に躍起になるほど希少なもので運良く手に入れたそれを上納すれば小さな領地と一代限りではあるが子爵の爵位くらいなら得られてしまうほどだ。

 ふつう、現実的に考えないだろう。


 後者は長年の研究により確認が取れている一般人が目指せる唯一の手段と言える。

 だが、ジョブについて多くのことが分かっている世界においてもその方法で成長する人間は決して多くない。

 何故か?理由は単純だ。

 余程の運がなければ死んでしまうからだ。


 弱い魔物から得られる経験値は少なく強い魔物の方が多い。

 進化には自分より強い魔物であればあるほど確率は高いなどと言われているが、自分より強い魔物になんてそうそう勝てるわけじゃない。

 しかも、勝ってもかならず進化するわけではないのだ。ならば次の強者に、ダメならまた次に、と。

 魔物と戦えば当然レベルが上がってしまう、いままでの魔物では足りないくなり、そしてより強い魔物に挑む。

 それを繰り返していくうちにいずれその身を滅ぼしてしまう。そういうものだ。


 そんな茨の道を突き進むのには俺の加護は最適だろう。

 俺の所持する加護は「英雄」の加護。今までパーティーに定着できなかった呪いであり、俺を強くする祝福でもある。


 英雄の加護と呼ばれるそれは、人々の能力を測る水晶の魔道具「ディテクタル」が開発されてその存在が認知され、加護と名付けられた不思議な力の中でも特別なものだ。

 わかっている加護の内容は、困難や試練に巡り合いやすくなる、またその深度によってステータスに補正がかかるといったものだ。

 強敵に巡り合いやすく、命を危険に晒し続けるこの加護を持っているものは皆、すべからく英雄と呼ばれるに相応しい存在になっているのだ。

 ならなければ生き残れなかった、が正しいのだろうが。


 そんな加護だが、その祝福の強さは千差万別。

 たまにダンジョンの一階層で三階層相当の敵と巡り合う、といった落ち着いたものから

 ダンジョンの探索中にフロアボスと名付けられた階層の守護者。その強化型亜種が突如として現れるといったとんでもないものまである。

 俺の加護はどちらなのかというと後者であり、加護の強さは()()方である。

 出会う魔物の全てが他と比べて一回り程強く、出会い辛いレアな強力な徘徊型モンスターと出会いやすいといった感じだ。

 まだ、駆け出しのころ組んだパーティーのメンバーに「オークは床を割るほど強い攻撃は放たない」と言われたのは今でも覚えている苦い記憶だ。

 メリットといえば、レベルが上がりやすい事と希少なアイテムの入手機会に恵まれる事で今までもそれが目的のパーティーと組んできたのだ。

 だが、大体は予想以上の敵の強さに恐れをなしたメンバーによってのパーティー追放という結果に終わったが…



 話を戻そう。

 つまり、俺の厄介極まりないこの加護はエリスにとっては非常に有用という事だ。

 至天の覚書はレアモンスターや強敵から稀にドロップする、という報告もあるし、その過程でジョブが成長する事も全然あり得るのだ。

 俺もとある理由から強くなりたいので、エリスとは利害も目的も大体一致しているのだ。

 本人も了承しているし、俺としても断るなどあり得ないので押し黙るエリスに対して手を差し出すと瞳を見つめてゆっくりと言葉を吐き出す。



「エリス・ガーランド。君のパーティー加入を歓迎する。共に地獄を生き抜いて、そして栄光を掴み取ろう」と。


 その言葉を聞いたエリスが俺の手を取るためか手甲を外し、続けて兜を脱いだ。

 目を引くのは瞳と同じ色をした血のように紅い髪、それと病的なまでに白い顔はまるで人形のよう。

 触れたら壊れてしまいそうな顔を見て俺は息を飲み込んでしまった。

 紅白の美少女は胸に抱いた印象と正反対の勝気な笑みを浮かべて俺の手を取ると



「それじゃー死ぬまでよろしくね!英雄サマ!!」



 見た目に似合わない少女特有の高い大きな声がギルドに響いたのだった。

ミロヤくんとエリスの年齢は大陸、というより世界の成人基準の18歳です。

少年と少女、大人の境にある彼らの冒険は一体どんな物語になるのでしょうか。

そして、エリスが聖騎士になりたい理由とは。


次回、「第五話 ジョブってなんなの」 どうぞよろしくお願いします。


感想評価もらえたら涙を流してクオリティが上がるかもしれません。

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