第三話 67回目の決意
短めです。
ローグランド。この世界の三分の一を占める広さのユーレンシア大陸においても指折りの人口を誇る大都市である。この町の成り立ちを説明するにはダンジョンはどういったものなのか説明しなくてはならない。
起源は777年前、魔王がその命を失った時代にまでさかのぼる。魔王の死後突如として世界各地に現れた謎の迷宮空間「ダンジョン」。ダンジョン内部は時空がねじ曲がっているのかその外見に見合わず広大であり、またその環境も多岐にわたる。
有名どころを挙げるなら「フリーレン大瀑布」だろう。
フリーレンという学者が発見したこのダンジョンは入口こそ大人二人がやっと通れるような幅しかない洞穴のような外観をしているが、暗闇の中を先へ進んでいくと突如視界が開けて見通せないほど果てない長大な滝と透き通るような青空が広がっているのだ。その美しさたるや正にこの世のものではないものだという。
観光名所としても有名で、娯楽誌「死ぬ前に行きたい世界の名所」では常に上位に挙げられているほどだ。
ここまで聞くとダンジョンはただの観光名所なのか?そう思うかもしれないがそれは違う。
多くの場合ダンジョンはきれいな観光名所ではなく、危険な空間なのだ。
ダンジョンの内部には一部の例外を除いて凶暴な魔物が出現するのだ。我々の世界にも存在する魔物と違いダンジョンの魔物の気性の荒さは異常ともいえるほど荒い。
なにせ人間すべてを憎んでいるかのように敵対的で、種族問わず徒党を組んで襲い掛かってくるのだ。
ならば、そんなもの放置すればいいじゃないか。そう思うかもしれない。かつての人々もそう考えた。
臭い物には蓋をしてみなかったことにすればいい、と。
少なくない国がそのようにして、やがて世界地図から消えたのだ。
ダンジョン内の魔物はその数が増えすぎるとその入り口から津波のように世界にあふれ出すのだ、まるで魔王がいたころのように。
その危険性に気が付いた各国は急いで軍団を組織してダンジョン内の掃討を始めた、そこでいくつもの事実が発覚したのだ。
ダンジョン内にはいずれもそのどこかに階段が存在しその先何層にもわたって広がっていること、フロア内には数多のトラップが張り巡らされていて先へ進むほどに魔物がどんどん強くなっていくこと、魔物はダンジョン内の虚空より湧き出てくること。そしてダンジョンは資源であるということ。
ダンジョン内の魔物は奇妙なことに死体を残さない。死体を放置していると人知れず消えてさっていくのだ。
代わりに大小さまざまな宝石のような石を体内にもっている。
この石は魔力を宿していて、その量は大きさに比例して多くなっていく。これが所謂魔石というものだ。
魔石は世紀の発見だった、というのは言うまでもないだろう。
それは我々の日常生活において至る所で見られる生活魔法の魔道具や、空を飛ぶ船、大陸を横断する魔導列車といったものから見て取れるものだからだ。
今ではこの世界になくてはならない大事な資源であり、その産出源がダンジョンであるというならばダンジョンが数多く集まる土地に迷宮へ挑む冒険者が集まるのは当然のことだろう。冒険者が集まればそれを相手にする商人がやってきていつの間にか街が形作られていく、そのうちの一つがこのローグランド、というわけだ。
さらに細かく追っていくとどこの国のものではないとか、古の大魔導士が関係してるとかなんとか色々出てくるらしいが大まかな成り立ちはそんなものだ。
と、まぁ長々とローグランドにまつわる話をしたが結局何を言いたかったのか?それは・・・
「はい、次の方どうぞ~」
「やっとかよ!待ちくたびれたぜ」
「うるせぇ!とっとといけや!」
「まだ八人も先にいるのかよ~今日はもう休みにしちまおうかなぁ」
「ここまで並んだらあと少しの辛抱だろ。さ、前へ行こうぜ。」
人が多すぎる街の冒険者ギルドは行列もとても長い、ということだ。
10ある受付すべてに行列ができておりとても混雑しているのだ。依頼内容の確認に各種手続きなど一人当たりにかかる時間もそれなりに多いとはいえ、自分の番まであと二人といったところまで来るのに1時間近くかかったのは早いのか遅いのか・・・
上向いてきた気持ちが再び落ち込みそうになってきたころに声がかかる。
「次の方~黒髪の冒険者の方~」
「はい!すぐいきます!今行きます!」
ようやく来た自分の番を告げる声に慌てて窓口へと駆け込む。
慌てる俺が面白かったのか受付担当の少女が少し笑っていたがそのおかげか今日の要件をすんなり切り出せた。
「おはよう、マチルダ。今日はパーティー募集がないか探しに来たんだ。・・・それと脱退申請の確認に」
「脱退申請ですか?でも、ミロヤさんはたしか・・・」
「昨晩決まったんだ、勇利のことだから昨日やってくれているとは思うが一応頼む。冒険者カードはこれだ」
「冒険者カード、確かにお預かりしました。照会をかけますので少々お待ちください・・・」
そう言って俺から手渡された冒険者カードを特殊な魔導機械で読み取り操作をする若いながらも受付を任される優秀な少女は先ほどの笑顔から一転、浮かない顔をしている。
脱退申請を確認するのはパーティーに加入している者がほかのパーティーに加入するのはトラブル回避のために原則できないからだ、それに申請はパーティーリーダーか本人からしか受け付けていない。
聞きたくない事柄ではあるが聞かなければならないだろう。
俺にしては3か月も保ったのだ今度こそは、内心そう思っていたのはすっかり知られていたようで心優しいこの少女は心を痛めてくれているのだ。
「大丈夫、気にしなくていい。勇利たちのもとでパーティー継続のコツみたいなもんを学んだんだ。次はうまくやるさ。」
「ミロヤさん・・・そうですよね!次はきっとパーティーが見つかりますよ!きっと・・・」
しまった、そう思った。
気を使って空元気を出したつもりが逆に気を使われてしまった。
気まずい空気がお互いの間に流れる。
どうしたものかと頭を悩ませる俺を救ってくれたのは、読み取りを終えた魔導機械のピー!という音だった。
「あ!読み取りが終わったみたいですよ!脱退申請は昨夜提出されて今日の朝承認されてるみたいです」
「ユーリはそういうところちゃんとしてるからな、問題がなくて良かった。後はパーティーのスカウト希望を出すのと、今現在募集しているパーティーの中で俺が加入出来そうなところがあったら教えてくれないか?」
先ほどの沈黙を霧散させるかのように溌剌と振る舞うマチルダにありがたいと思いつつ、今日のメインである内容へ踏み込んでいくと彼女は何か言いづらそうにこちらの顔を伺っている。
「どうしたマチルダ?何かまずい事があるなら俺の事は気にせず言ってくれ」
もしこの先の冒険者生活に関わる事であれば知っておきたかった俺はマチルダに何か言いたい事があれば遠慮なく言うように促す、すると彼女は
「その…ミロヤさん。今日はパーティーに加わる方向ではなく、パーティーに加える方向で募集をかけてみませんか?」
「パーティーに加える?つまり、俺がパーティーリーダーとなってメンバーを募集すると言う事か?」
そう聞き返すと彼女はその通り、と詳細について話してくれる。
「今までミロヤさんは既に結成されているパーティーに加入する形でした、そのたびに残念な事に折りが合わず今回のような結果になってしまっています」
「まぁ、耳が痛い話だがそうだな」
「ですがパーティー内のメンバー全員が悪く思って脱退勧告を受けている訳ではない、ですよね?」
「たしかにそういうヤツも数は少ないがいた気はするよ」
グローリアスのユーリとかな。彼の態度からはパーティーメンバーに意見されるまでは最後まで俺とこれからも冒険をするつもりでいたように思える。だが、それとパーティーリーダーになる事になんの関係があるというんだ?
その疑問は次のマチルダの補足により納得へと変わる。
「ミロヤさんと組む意思のある人はいる。しかし、全員を納得させるのは難しい。という事はですよ、最初から納得してくれる人だけを集めて、合わない人には抜けていただく方が結果的には長期的なパーティーになるんじゃないでしょうか?幸い、ミロヤさんは中級冒険者です。今ならば募集をかけて人が集まらない、といったこともないと思います」
マチルダの言う事は正に目からウロコといったものだった。
この街に来て冒険者となってはや二年。Fランクだった頃は募集をかけても集まらないものだと聞いていた為に避けていたのだ、そしてそのままDランクになる頃にはすっかり頭の中から抜け落ちていた考えだった。
連携の大事な冒険者という仕事はパーティー内の事においては何事も多数決が基本となっている。そのためユーリのような個人的には悪く思ってなくても、パーティーとしては別れなければならないということは多かった。俺の加護の特性上仕方ないとは思うがそのたびに惜しいと思う気持ちが湧いていたのは記憶に新しい。
既にあるパーティーのメンバー全員の支持を得るのはおそらくかなり難しい、ならば自分から集めるというのは非常に理にかなっていると思える。
ならばマチルダの助言には従うべきだろう、俺は了承の意味を込めてパーティーメンバー募集の申請をする。
「ありがとうマチルダ。君の言葉にはいつも本当にハッとさせられるよ。なら、パーティーメンバー募集を頼めるか?募集要項はそうだな…」
募集をかけるのは単純だ。前衛後衛、攻撃防御回復、魔法物理、理由はなんでもいい。必要だと思った要素を必要だと掲げるのだ。
俺のジョブは前衛も後衛も出来るし、手札は少ないが物理以外の手段も取れる他人に合わせやすいものだ。となると募集に来る人物にはそういった要素以外を求めるのがいいだろう。精神面だ。
そうと決まったら必要な事を告げるだけでいい。
「募集要項はただ一つ。栄光を掴む為なら、強くなれるなら死んでもいいと思える人物。パーティー名は『死にたがりの英雄』で頼む」
新しい決意と共に力強く告げる俺にマチルダははにかむような微笑みを浮かべてくれた。
俺はこの時心の底から初めて神に祈りを捧げた。「英雄」の加護の元、共に死線を潜ってくれる仲間が欲しい、と。
駆け足気味に主人公のいる世界の表面に触れ、今回はやっとパーティーメンバーを集める、といったところまで来ました。
果たしてミロヤに協力してくれる人物は現れるのでしょうか。
次回、「第四話、新たなる仲間」お楽しみに。
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