第二話 夜明け、清算
その日のうちに続けて二話目となりました、一話目にくっつけちゃおうかなと思いましたがこれはこれで短くスナック感覚で読めるなと思い投稿しました。
感情の整理がつかぬまま眠りについた夜が明け、太陽が昇るのと同時に起きた俺は昨日やらかした事をおもいだして急いで街に戻る事にした。
昨晩迷惑をかけたであろう、とある人物に会うためだ。
怒られるかな?呆れられるかな?そう考えて走ると自然と脚が鈍ってしまうのは仕方ないだろう。
ローグランドの街の門が見えたのは昨日よりもだいぶ時間がかかった頃だった。
朝も早いからだろう、人気のまったくない門の前に目的の人物がいた。
その人物はやや長めの先端が潰された槍を手に持ち、夜通し立っていたのかやや眠そうな顔をした鎧姿の男だった。
そう、会いたい人物とは何を隠そう衛兵だ。
昨日は感情に振り回されて、衛兵の静止を無視して門を抜けてしまったからな。
別に夜中に街を出る事にはなんの問題もないが、衛兵を振り切ったとなれば話は別だ。
もしかしたら犯罪者が逃げたのかもしれないと、聞き込みや捜索などを行なっている可能性もある。
たとえ俺が彼とは顔見知りで、度々夜中に街を出て夜を明かしている事を知っていたとしても謝らなければならないだろう。
未だ眠そうな彼だが、その視線はきっちりとこちらを見据えている。
そんな彼に居心地の悪さを払って話しかける。
「あー、メントスさん。その、昨日はすみません。」
「あーいいから、いいから!いつものアレだろ?わかってるから頭を上げろっ、な?」
たいして気にした事でもない風に俺に頭を上げるように言う彼はメントスという30過ぎの男で、この街の衛兵長をやっている人物だ。
ああいった夜にはいつもこの人に声をかけて外出許可をもらっているのだ。
それに脱退勧告のあった日はいつも出かけるが、今回みたいなのは初めてだったはずだ。
そんな俺の考えが伝わったのか頭を下げ続ける俺にメントスさんがさらに声をかける。
「ミロヤにとってはじめての長期パーティーだったんだ、ショックもでかいに決まってる。やっとお前と相性のいいパーティーが見つかったんじゃないかと思っただけに、残念だよ」
そう言って慰めるように肩に置かれる彼の手からはこちらを心配してくれる気持ちが伝わってくる。
なんだか恥ずかしくなってきてしまった俺は顔を上げると、メントスさんにお礼を言って門を後にする。去り際の「次はもっとうまくいくさ」という励ましの言葉に背中を押されて次の目的地へと向かう。
人々が起き始めたのか、通りにはパンが焼ける良い匂いがたちはじめた。
そういえば昨日はダンジョンから戻って何も食べなかったな、なんて益体もないことを考えていると目的地である宿屋「黄金の稲穂亭」にたどり着いた。この宿はローグランドの目抜き通りからはやや離れた位置にあり騒がしい街の喧騒があまりなくそれでいてきれいなベッドに風呂付きというかなりの優良物件であり昨日まで俺が加入していたパーティー「栄光の輝き」のお気に入りの定借宿だ。
宿の主人である男性にパーティーへ返却するものを届けにきたことを伝えると親指を立て二階への階段を指すというなんともぶっきらぼうな所作であっさりと通してくれた。
月で契約しているこの宿は俺も3ヶ月世話になっていた為、主人も顔を覚えてくれていたのだろう。
そう思うと今まで決まった宿に長期間泊まった事のなかった俺は感慨に耽ってしまった。
二階には部屋が四つあり、そのうちの二つがグローリアスの部屋となっており最奥が女性陣の部屋でその手前が男性陣の部屋だ。
もちろん用があるのはユーリなので手前の部屋へと向かい、いつもとは違い勝手に開けずコンコン、とノックをする。
「はーい、今出ます〜」
起きたばかりなのか少し間の抜けた返答が返ってくる。ランドルフは無口なのでこの声は間違いなくユーリのものだ。
どうやら気まずい思いをしなくて済みそうだとホッと胸を撫で下ろしながらユーリが出てくるのを待っているとすぐにドアが開いた。
「あっ!…弥芦弥じゃないか、どうしたの?こんな朝早くに」
俺がいる事に驚いて大きな声を出したユーリは寝ているメンバーがいるかもしれないと声を落として話しかけてくる。
そんな、ユーリに俺は袋からエンブレムを取り出して突き出しながらこう言った。
「ほら、昨日返却忘れたものがあったろ?ほら、エンブレム。これを届けに来たんだ、用はそれだけだ。」
「あー、エンブレムか〜。すっかり忘れてた、これって返さないといけないものなんだね。」
「……っ!!」
エンブレムを受け取りながら放たれたその言葉に俺は胸をえぐられるようだった。
ユーリに悪気がない事は知っている、彼は勇者でありその性格もそれに相応しくとても気の良い人間だ。今の言葉だって単純に知らなかったから言っただけなのだろう、それだけのはずだ。
ただ彼にとって一度得たエンブレムは返すものではなく、俺にとってエンブレムはいつか返さなければならないものだった。
これはそれだけの差だが、俺が埋めることの出来ない大きな差でもある。
だがいつまでもこうしているわけにもいかない、ユーリに別れの言葉を切り出す。
「昨日も言ったが、世話になったな。この3ヶ月は楽しかったよ、ありがとう勇利。他のみんなにもよろしく言っといてくれ。」
「こちらこそありがとう。弥芦弥のおかげで僕も楽しかったよ。」
「みんなにも伝えておくね」そう言って閉じられた扉の前で少しの間立ち尽くした俺は未だ未練を残している事に気がついて足早に去る。
宿の主人に用事は終わったと告げると「また、来い」と来た時と同じように愛想なく送ってくれた、その不器用な優しさをむずがゆく感じながら宿を後にすると街はすでに活動を始めていた。
「いつまでも落ち込んでいられないぞ、まずはギルドに行こう。それでまたパーティーを探すんだ」
気持ちを切り替えるために声に出して考えをまとめたが意外にも効果があったようで、ギルドに向かう足取りは軽いものだった。
ギルドへの道すがら開店したばかりのパン屋で出来立てのやわらかい白パンを買いそのまま歩きながら食べていと、どんどん気持ちが前向きになっていく。腹が満たされただけで持ち直す自分の単純さに呆れながら大通りを進んでいくと大きな建物が見えてくる。
大陸で有数の都市であるローグランドの大通り、その中でひときわ目を引くのが冒険者ギルドだ。
歴史を感じさせる木造建築の建物には老若男女、種族性別関係なく多くの人が出入りしている。皆一様に武具をまとっていることを除けば本当にまとまりがない印象を受ける。
深く息を吸い呼吸を整え、俺は冒険者ギルドの大きなスイングドアを開く。
「仲間がみつかりますように」 叶うことがなかった67回目のたったひとつ願いを抱きながら
今回も短くてすみません。
フィーリングで書いてるので文章がたがたです、小目汚し失礼しました。
次回、第三話 「67回目の決意」 お楽しみに。
評価感想いただけるように頑張ります。
更新頻度もなるべく早めになるよう努力します。