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第十話 これからも一緒に

投稿予定の話が消えてしまい、投稿が大幅に遅れました。

こまめな上書き保存って本当に大事ですね。

誤字脱字等々ありましたら報告お願いします。

 



「ホンっっトにサイテーね!この変態!ろくでなし!性欲魔神!!」



 激走を繰り広げたボス部屋で少女の軽蔑の声が響き渡る。

 声の主はもちろん我らが不死の騎士エリスである。

 先程彼女(の半身)と絆が芽生えてからというものずっとこの調子だ。

 確かに健全とは言い難い絵面だったかもしれないがきっかけはエリスの一言だったのだ、ここまで罵倒される謂れはない。



「ちゃんとポリスは捕まえたじゃないか、そんなに怒るなよ」


「ポリスってなに!?人の下半身に勝手に名前つけないでよ、衛兵呼ぶわよ!!」


「落ち着けって、その見た目じゃ衛兵が来たとしてしょっ引かれるのはエリスの方だぞ。それに、呼び名がないと不便じゃないか?」


「それでも嫌なものは嫌なのよ!ハーフパーツとかで良いじゃない!」



 ポチみたいなエリスの半身、略してポリス。

 良いと思ったんだがエリスはお気に召さないみたいだった。

 代わりとばかりに提案されたハーフパーツというのもどうかと思うが本人たっての希望だ、ここは従って機嫌を戻してもらおう。



「悪かったよ、少しふざけすぎた。そんな事よりこのハーフパーツをどうすればいいか教えてくれ」



 重要なのは今は大人しく俺の影に隠れているハーフパーツの使い道だ。

 本人は回収すれば大丈夫というが具体的な方法がわからないままだ。



「……まぁ、いいわ。許してあげる。それとハーフパーツについては簡単よ、切断面同士でくっつければ後は自然に治るわ」



 俺の質問を受けたエリスはまだ何処か納得いかないような様子だったが、質問には答えてくれた。

 その答えはなんとも予想通りというか、アンデットらしいというか…単純なもので助かった。

 ボスの再出現まで時間はあると思うが他の冒険者が来ないとは限らないので、仰々しい儀式などを行わずに済むとわかって少しホッとしている。


 それでも手早く済ませた方がいいので、俺はハーフパーツを抱えてエリスの側へと近寄る。



「よし、それじゃあいくぞ」


「優しくしてよね」



 仰向けで横になるエリスの下腹切断面、本来骨があったであろう空洞に向かって背骨を挿入していく。


「もう半分くらい入ったが痛くはないか?」


「んっ、痛くは無いわね。でもくすぐったいかも」


「そうか、なら一気に奥まで入れるぞ」


「えぇ、早く終わらせましょう…」



 エリスの了承を得た俺は、下半身を脚で固定してエリスの腰を掴むと一気に引き寄せる。

 ズブズブ、と肉をかき分け入っていく感触が伝わってくるが構わず押し込んでいく。

 エリスが大きく身悶えた時ようやく接続が完了した。



「エリス、大丈夫か?」



 雑に扱ったつもりはないがなにか不具合があっては困るので体調を気遣う。



「なんだか、失くしちゃいけない物を失くした気がするわ…けどそれ以外は順調ね」



 そういえばハーフパーツが暴れ回った時内臓のいくつかが飛び出ていた気がする。

 失くした物とはそれだろうと思いあたり、エリスにそれを伝える。



「臓器は魔力の調子が整えば形成されるからとりあえずは問題無しかしらね」


「結構なんでもアリなんだな」


「そんな事無いわよ?死なないとは言え内臓が無くなると身体がダメになって動けなくなっちゃうもの」



 なんとも不思議な生き物だと感心する俺に、そんなに便利なものじゃないと返すエリス。



「そうだわミロヤ、あれ掛けて頂戴。あの身体を治す符術」


「<再生(リジェネ)>の事か?いいのか?回復魔法をかけるのはあまり良くないんだろ?」


 思い出したかのように符術を掛けてくれ、と頼んでくるエリス。

 彼女が掛けてくれと頼んだ再生は対象者の代謝を高め傷を治すといった魔法だ。

 その効果は決して高いものではなく、精々が戦闘中に負ったかすり傷からの出血を止めて継戦時間を僅かばかりに伸ばす程度のものだ。

 それでも回復魔法は回復魔法なのだ。

 彼女は回復魔法を受けると良くない効果が出てしまうと言っていた気がするので確認をとる。



「確かに普通の回復魔法じゃダメね。でも再生の符術は自然治癒を促進するものでしょう?それなら新しく身体を作るわけじゃないし問題はないわ」


「ほう、そうなのか。止血くらいにしか使えないと思ってたんだが、なんにでも使い道はあるもんだな」



 彼女からのお墨付きを貰った俺は安心してポーチから再生の術式が描かれた魔法紙を取り出して魔力を流して彼女へと貼り付ける。

 魔法紙に込められた再生の魔力がエリスへと流れ込んでいく。

 エリスは今まで符術を見る機会が無かったのか、興味深そうに魔法紙を眺めている。



「ねぇミロヤ。符術ってスクロールとは違うものなの?」


「符術とスクロールの違いか…確かに触媒を兼ねた魔法紙を扱う事は同じだな」


「なら、わたしにも使えるかしら?わたしが再生だけでも使えたら探索がとっても捗ると思うんだけど…」



 エリスは自分が扱える手頃な回復手段が欲しかったのかそんなことを聞いてくる。

 前衛であるエリスが自前の回復で戦線復帰を早めることが出来れば、その不死性も相まって非常に頼りになるのは間違いない。

 だが、スクロールより普及していないのには理由がある。



「だけど符術はスクロールみたいに魔法が直接込められてはいないんだ。描かれた魔法式に特殊な魔力を通して魔法を発現させてるから誰でも使えるってわけじゃない」


「へぇ、そういうものなのね。いいわ、別に何がなんでも自分で使いたいってわけじゃないもの」



 そう言って魔法紙から興味を失った彼女は、自身のポーチから青色の液体の入った瓶を取り出すと蓋を開けて飲み干した。

 何を飲んでいるのか気になった俺は先ほどとは逆にエリスに聞いてみる。



「なぁエリス、今何を飲んだんだ?薬なのはわかるがどんな効果があるんだ?」


「これ?マナポーションよ」


「マナポーション!?よくそんな不味いもんを平気な顔して飲めるな」


「そう?美味しいわよ?」



 手に持った空き瓶を掲げて魔力回復のポーションだと言うエリスに俺は驚きの声を上げてしまった。

 ダンジョンで魔力を回復する手段として最も適しているのがこのマナポーションというものなのだが、その有用性はともかく冒険者からはあまり好まれていない。

 とてつもなく不味いのだ。

 色々な植物の汁の苦味と喉に張り付く感覚は鼻水のようで俺も一応は携行しているものの、よほどのことがなければ飲む気にはあまりなれない。

 そんな代物をおいしいなどと言い放つエリスに得体の知れない者を見る目を向けると、彼女は仕方ないわね、と種明かしをする。



「これはあんたの知ってる今までのマナポーションじゃないの、マクダナウの最新作よ」


「美食家マクダナウの?それはいいな、どうやって手に入れたんだ?」


「どうやってって…普通に道具屋よ。今朝ギルドに向かう前に立ち寄った時試供品を貰ったのよ」


「なら、一般に出回る訳だ。早く帰る理由がまた一つ出来たぞ」



 エリスの飲んでいたマナポーションは錬金術師界の革命児、マクダナウが作った者だという。

 彼はとても変わった人物で、錬金術での改良においてその効果を高めるのではなく味を重視しているのだ。

「錬金術とはすなわち、料理に他ならない」と標榜する彼の情熱により冒険者の携帯する食料や飲み薬の味は従来より遥かに改善した。

 命に関わる事なので我慢していた行為に楽しむ余地が生まれたのだ、気持ちの余裕が大事な冒険者にとってそれは何よりも効果のある事だった。

 それによりダンジョンに挑む冒険者の感謝を一身にうける存在となったのだ。


 そんな彼の新作は多くの商会がこぞって取り扱っているものの、製法が広く普及するまでは品薄になりやすいため今のうちに買い込んでおきたいのだ。



「そんなに見つめられてもまだ動けないわよ、下半身はくっついたけど感覚があまり戻ってないの」


「もう傷が塞がってるのか。なら背負って運ぶのはどうだ?今から戻れば店が閉まる前には帰れるぞ」


「どれだけ早く帰りたいのよアンタは…これからも一緒に冒険する相手を前にしてちょっとは取り繕おうとは思わないの?」


「えっ?」



 俺のくだらないジョークに返された言葉に一瞬思考が停止した。

 彼女とはこれで最後だと思っていたからだ。

 思わず出してしまった疑問の声に対し更に言葉が続く。



「『えっ?』ってなによ、『えっ?』て。やっぱりアンタもこんなわたしとは組みたく無いの?」


「い、いや…俺はてっきりエリスも今回でパーティーを抜けたくなるんじゃ無いかと思って…」


「はぁ?なんでそうなるのよ。もしそのつもりならこうしてふざけた雑談なんかしないわよ」



 エリスは本気で訳がわからないといった様子である。



「それは…エリスの性格なら誰にだってそうするんじゃないのか?」


「それはわたしが誰にでも下半身を預ける軽い女だって言いたいの?」


「そんな事は勿論思ってない!ただ、お前はいいヤツだから…」


 エリスの軽口に俺は慌てて否定をすると



「おかしいわね?今までのアンタの態度見てると『軽いには違いない、上半身だけだったからな』くらいは返しそうなものだと思っていたわ」



 と、俺が加護の話を聞いて以来エリスにとっていた態度に対して指摘が入り、俺はここまでの道中エリスの人柄に合わせるかのように口が軽かったのを思い出す。

 今までの俺では考えられない行動だ、大陸に来てからというものの、俺はこの2年間こんなに喋った事などなかったというのに。



「え?もしかしてホントに抜けると思ってたの?わたしが大怪我したから?」


「あ、あぁ。俺の加護のせいでこんな事になったんだ。それに…今まで、そうだったから…」



 急に現れた饒舌な自分に対して悩んでいるとエリスから直球が投げ込まれた。

 それに対し、俺は今までの経験を思い出して尻すぼみになってしまう。


 そんな俺の弱気がエリスの琴線に触れてしまう。



「ミロヤ、アンタわたしのこと馬鹿にしてる?」



 エリスは僅かに苛立った声を滲ませる。



「わたしがこんな様になったのはアンタのせいじゃない、わたしが油断してたからよ。それをアンタのせいにしてると思われるなんて屈辱以外のなにものでもないわ」


「…それでも、俺は気づくべきだった。ダンジョンボスがあんな簡単に逝くわけがないって」


「確かにボスモンスターが持つのは珍しいスキルよね、セカンドチャンスは。でもわたしはパーティーの盾、受け損ねた攻撃を人のせいにするくらいならそもそも冒険者にならないわ」



 そう言ってこちらを見るエリスの目は鋭く細められている。

 覚悟の篭った紅い瞳を見ていると、自分が彼女を無意識に侮っていた事を実感する。

 エリスは俺の、死にたがりを公然とする募集に自ら進んでやってきたのだ、それも盾職として。

 それがいかに辛いものであるかは覚悟をしてきているという事だ。

 苦しければ苦しいほどに彼女の聖騎士になるという道は拓けていくのだ、これくらいの難事は願ってもないことなのだろう。


 俺はそんな彼女の覚悟に水を差しているのだ。



「…俺は君を、エリス・ガーランドを無意識に見縊っていた。盾職としての誇りと覚悟を軽んじたことを、許してほしい」



 身を改めて頭を下げる。

 彼女は自身の目的の為にこれからもパーティーを続けていくつもりなのだ、これは当然の謝罪である。

 ここで彼女の信頼を取り戻さなければこの先到底生き残れるとは思えない。



「…いいわ、許してあげる。ただし、条件があるわ」


「条件?いいさ、なんでも言ってくれ。俺に出来ることならなんでもする」



 俺の謝罪を受け入れるには条件があるという。

 それを俺は二つ返事で了承するとエリスはにやり、と笑うといつもの調子で条件を提示した。



「その意気やよし!なら、これからわたしを背負って街へ戻ること。期限は…そうね、酒場が閉まっちゃう前なんてどう?」


「ははっ、なんだよそれ。そんな事でいいのか?」


「ダンジョンで仲違いしたら酒場で酒に流す、それが冒険者の流儀ってもんじゃない!二年も冒険者やっててそんなこともわかんないの?」



 エリスの提案はもう許していると言った様なものだ。

 こんな、普通の冒険者らしいやりとりがなんだかおかしくて俺は笑ってしまう。

 そんな俺に対してエリスは冒険者()()()顔をして大きな声で言いきった。


 やっぱり彼女は気の良い人間だ。



「生憎酒場はいつも断罪の場でね、そういうのには縁がとんとないんだ」



 そう言いながら俺はエリスを背負う。

 半日近いダンジョン探索をした身体には金属鎧の重さは辛いが、それよりその重みが嬉しいと思えた。



「あっそ、ならこれから覚えときなさい。わたしは冷えたエールが大好きなんだってね」


「了解、お嬢様。ならなんとしても間に合わせないといけないな」



 自虐めいた俺の軽口にエリスも軽口で返す。

 回復した魔力を全身に回して身体を強化する。

 舌を噛まない様に注意すると、俺は全速力で街へと引き返す。



「一回目より重いぞ、エリス。この短時間で太ったんじゃないか?」


「あら、調子出てきたわね。アンタの方こそ一回目より必死さが足りてないわよ?これじゃあ夜が明けちゃうわ」


「気絶してたからわからないだろ?」


「泣きそうになってたのは知ってるわ」


「血脂が気持ち悪くて敵わなかったんだよ」


「乙女の体液よ、喜びなさい」



 こんなやり取りを繰り返しながら魔物を置き去りにして走る。



 心地良い言葉の応酬は三層、二層を越えて続いていく。










 そうして気がつけばダンジョンの外へと繋がる一層の階段まですぐといったところまで辿り着いていた。


 懐中時計を取り出して時間を確認すれば時計の針はちょうど午後9時を指し示していた。

 ボス部屋から飛び出したのが8時を越えたばかりだったので約1時間弱で5階層を登り切った計算になる。



「今日は冷えたエールにありつけそうだぞ、よかったな、エリス」



 懐中時計を見せながらエリスに条件を満たした事を伝えると、「まだ許したわけじゃないわよ」と言われた。


 何故なんだ?という俺の問いに



「だって、まだお酒がまだなんだもの。つまり、仲違いしたままなの」


 と返してきた。



「条件の後付けじゃないか?」


「じゃあ後付けついでにアンタの奢りってことも加えておこうかしら」



 俺の話が違う、と言いたげな表情が面白かったのか笑いながらそういうエリス。



「いいじゃない。死にたがりの英雄(ブレイバーズ)結成を祝してって事で。パーティーメンバーに甲斐性を見せるのもリーダーの勤めよ?」



 どうやらこの手の会話は彼女に一日の長があるらしい。

 仲間との絆に憧れを持つ俺が、そう言われたら何も言えなくなってしまうのがわかっているのだろう。



「これから先、お前と冒険をするのが本当に楽しみだよ…」



 暗いダンジョンの階段を一段一段登りながら俺は深いため息をつくのだった。

今回は、ダンジョン脱出と祝パーティー加入ですね!

ミロヤくんはどうも、当たり前のパーティー経験が乏しくその手の事は新米の冒険者と大差ありません。

これから彼等は英雄になるために、目的のためにどんな冒険をしていくのでしょう。


次回、「第十一話 死神ザマー」

おたのしみに!



未だ手探りの中書いておりますので、これから文体がどんどん変わってしまうかもしれません。

それでも大目に見てやって、この俺追物語をどうかよろしくお願いいたします。


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