後
私はただ、愕然とする他なかった。
まさか「俺も連れて行ってくれ」と頼まれるとは思わなかったからだ。
「えっと……どうしてか理由を聞いても?」
彼はコクリと頷く。
「俺は父上の素行に飽き飽きしてしまったんだ。政治もそうだ。自分勝手でなりふり構わず他者に迷惑をかける。国王様に提言しようと思っているのだが、手紙を検閲されていて自由が利かない。だから俺も連れて行って欲しいんだ」
少し溜めてから、
「俺と一緒に、この領地を救って欲しい」
真剣な眼差しで、そう言った。
しかしだ。すぐに顔を伏せて、
「そして、俺はお前に惚れてしまったらしい」
と、か細く、ボソリと呟いた。
ええと、ちょっと待って。
国王様に提言するまでは理解できた。もちろん私もそれには協力したいと思っている。なにしろリビルド侯爵には散々嫌な目にあわされたからだ。
だが、わ、わ、わ。
私に惚れた!?
「本気……なの?」
「ああ、俺は本気だ」
ギュッと手を握られる。
男の人らしい、ゴツゴツとした手だ。
しかし、優しさも感じた。
勘ではあるけれど、彼は本当に優しいお人なのだろう。
領民を侯爵以上に気にかけ、救おうとしているのだ。
まだ、私とあまり歳が変わらないというのに、そこまで見通しているのだ。
「……分かりました。一緒に行きましょう」
「ああ! ありがとう!」
そうして、私たちは屋敷の裏口から出ていき、使用人たちにバレないようどうにか敷地内から飛び出した。
その間、彼はなぜかずっと手を握ってくれていた。
理由を尋ねると、「少し、緊張してな」と言っていた。
ふふ、ナトリ様にも可愛らしいところがあるんだな。
それからは本当に大変だった。
冒険者登録をする際に、偽名を使ったのがバレそうになったり、強大なモンスターに襲われたり。
でも、ナトリ様はいつだって私の前に立って守ろうとしてくれた。
「好きな人を傷つけたくないから」
何度もそれを繰り返し言っていた。
正直な話、私は顔がいいから受け入れていた節があったのだが、今は違う。
彼は、本当に心優しい人間で、でも少しだけ不器用で。
そんなナトリ様に、私は恋をしてしまっていた。
でも……一応は元息子なのである。
これって――禁断の恋なのでは?
まあ、いいか。
私は彼が好きで、彼は私が好きで。
それだけでもう、十分だろう。
そして――私たちは王宮の入口前に佇んでいる。
遂にやってきたのだ。
これで――彼の使命は終わるのだ。
そう思うと、少しだけ悲しくなってくる。
きっとナトリ様は一度、自分の領地に戻るのだろう。
そして、私はどうなるのか。
「そう言えば、言い忘れていた」
彼がボソリと呟いた。
「俺と、結婚してくれ。アビス」
あ、あ……嘘でしょう。
あまりにも嬉しくて、握りしめた拳が震えてしまう。
これじゃあ、あの時のナトリ様みたいじゃない。
――当然、答えは決まっていた。
「もちろんです!!」
侯爵を伯爵と勘違いするミスをしてしまいました。やらかしです……。今は修正したので問題ありません!
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