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いよいよ食べられちゃう?

連続投稿で完結までまいります。

「ほら、ごらんなさい。マイ様が怯えてらっしゃいます」


 カッツが叱りつけると、カミオーはちょっとだけ頬をふくらませた。


 やだやだ。なにこれ?

 かわいすぎるんだけど。


「だってほら、馬車の音がきこえたから出迎えようと……。それに、夕食の支度のことがある、お腹がすいている……」


 かわいらしいかれの口からでた言葉なだけに、ショックがおおきすぎた。


 わたし、やっぱり食べられちゃうんだ。それも、今夜の食事だなんて……。


 でも、むさっくるしくってくっさいじーさんに食べられるより、こんなかっこかわいい少年みたいな人に食べられるほうが、ずっとマシかもしれないわね。


 そう前向きに、って前向きかどうかはビミョーだけど、とにかくそうかんがえると、不思議と気分が落ち着いてきた。


「この日がくるのをどれだけ待ち焦がれたことか。カッツ、だからこそ好きなようにさせてくれ。怖がらせないから」

「マイ様はご両親を亡くされて、それでなくとも寂しく不安な思いをされていらっしゃいます」

「わかっている。そんな思いも、これまでだ。ここにきたからには、そんな思いはもうさせない。さあっ、馬車のドアをあけますよ」


 かれはそういいながら、ドアをひらいてのりこんできた。それから、かたまって放心状態のわたしをさっと抱き上げ、そのまま馬車からおりてとっととあるきはじめた。


 まぁ、夢にまでみた殿方に抱っこしてもらう……。


 死ぬ直前に夢がかなったかも。


 欲をいえば、もうすこし殿方の背は高いほうがいいかも……。


 薄目をひらけ、抱っこされている状態でかれの顔を見上げている。


 本当にかっこかわいすぎる。


 心のなかで、キャーキャー騒いでしまう。

 うーん、食べちゃいたいくらいだわ。


 でも、実際はわたしが食べられてしまうんんだろうけど。


 かれは、わたしをお姫様抱っこしたままどんどん宮殿の奥へと進んでゆく。


 ありがたいことに、わたしはそんなにおおがらではない。とはいえ、小柄で痩せ細っているわけでもない。

 そんなわたしを、かれはヨユーで抱っこして早歩きしている。


 この膂力は、獣人としての力なのかしら?


 目の端に彫刻とか絵画とかが映っては消えてゆくようだけど、正直、いまのわたしにはそんなものははっきりと入らない。いまはただ、かれのかっこかわいい顔しか映らない。


 おおきな扉をいくつか通り抜けたあと、かれのあゆみがやっととまった。と同時に、かれはわたしをおろして、丁寧に椅子に座らせてくれた。かれ自身は、わたしのまえにひざまずいた。


 床は大理石で、ぴっかぴかに磨き上げられている。


 食堂みたい。というか、食堂ね。ながーいテーブルがあるけど、椅子はわたしが座っている一脚だけみたい。


 そのながーいテーブル上には、一人分の準備がされているだけ。


「マイ・エンドー公爵令嬢。わたしは、オウカ・カミオーです。これでも一応、獣人を束ねる王族の一員です」

「オウカ様、オウカ様」


 カッツが追いついてきた。


「マイ様には、真実をお告げせねば」

「わかっている。しかし、いまここですべてを告げる必要はあるまい」

「ございます。もしかすると、父王はすぐにでもみまかるやもしれぬのです。そうなりますれば、オウカ様、あなたが国王の座につくのです。かりに、いえ、奇蹟的にマイ様がオウカ様のことを気にいってくださるようなことがあれば、御妃として国にもどることになるのです。マイ様にも心の準備がありましょう」


 カッツの説明は、わたしを混乱に陥れるに充分だった。


「カッツ、カッツ。わたしから申さずとも、おまえが告げてしまったではないか。みえているか?マイは混乱しているぞ」

「こ、これは失礼を……。マイ様、大変失礼いたしました。オウカ様は、獣人国の次期国王なのです」

「だましたり内緒にするつもりはなかったのだ。いまきみは、わたしに食べられると勘違いしている。まずはその誤解を解きたかった。それから、ゆっくりわたしのことをしってもらい、その過程で説明するつもりだった」


 オウカは、ひざまずいたままわたしの顔をのぞきこんできた。


 かっこかわいい顔が真っ赤になっている。


 わたしも、真っ赤になっているはず。


 どうして?どうしてわたしが食べられるって思っていることをしっているの?


「あの……。手にふれてもいいかな?申し訳ない。あなたを不安にさせるつもりはないのだ……」


 いっていることはわかる。でも、どうしてもすぐには反応できない。それでも、かろうじてうなずくことはできた。


「マイ、まずはあなたの誤解を解きたいのです」


 かれは、ひざまずいた姿勢からおずおずと手をのばしてきた。かれの手がわたしにふれそうになったところで、思わずひっこめてしまいそうになった。


 でも、ひっこめるよりもはやく、かれの手がわたしのそれをつかんだ。


 膝の上に置かれたわたしの手は。かれの小さいけど分厚い手に包み込まれている。


 とってもあたたかい。それに、まるで壊れ物でもあつかうようにやさしく触れている。


「マイ。獣人は人間ひとを食べない。おそらく、人間ひとに伝えられているのは、誤った認識だ。人間ひとは、異形を忌避し、怖れる。わたしたちは、あなたがたが思っているほど野蛮でも残酷でもない」


 かれのかっこかわいい顔をみつめ、そのときはじめてかれの瞳の色が蒼色であることに気がついた。それも、空の蒼色だわ。


 それは、天井のシャンデリアの控えめな灯を吸収し、あざやかに輝いている。下品な輝き方ではなく、惹きこまれてしまいそうなそんな魅力的な輝きをしている。


 かれのその瞳をみつめていると、かれが嘘をついているとはとても思えない。


 とりあえず、一つ鷹揚にうなずいておいた。


「よかった。信じてくれてありがとう。これで、きみが落ち着いてくれるといいのだけれど。お腹、すいているよね?あ、馬車につんでおいたバスケットの中身は気に入ってくれたかな?」


 食べられるんじゃないとわかっただけで、不思議と気持ちが落ち着いてきた。かれのかっこかわいい顔もだけど、きれいな蒼色の瞳も落ち着かせてくれる。


 ううん、それだけじゃない。かれの話もまた、気持ちを落ち着かれせてくれるから不思議よね。


 わたしがまだ子どものころ、お父様とお母様がつけてくれた「話し方の先生」よりも、ずっとずっと話し方が上手だわ。


「ご両親のこと、心よりお悔やみ申し上げます。短い間にいろいろあって大変だっただろう?しかし、もう大丈夫。これからは、ご両親にかわってわたしがきみを守るから。どんなことがあっても、わたしはきみを守り抜く」


 驚きだわ。みずしらずのわたしを守ってくれる?どうして?わたしをよくしらないのに、どうしてそんなことがいえるわけ?


「さぁ、疲れただろう。夕食を運ぼう。たくさん食べて、あたたかい風呂に入って、ゆっくり休むといい」


 かれは、わたしの手を軽く握りしめると軽快に立ち上がった。


 途端に、わたしのお腹の虫が暴れだしはじめた。


 豪華でおおきな食堂に、わたしのお腹の虫がおおきく鳴り響く。


「オウカ様、お食事はわたくしめが」

「いいよいいよ、カッツ。ちゃんと準備は整っている。今日はご苦労様。明日、夫人にきてもらってくれ」

「承知いたしました。愚妻も、御妃様にお会いするのをよろこんでおります」


 そんな二人の会話に、今度はちがう意味で不安になってきた。


 でも、そんな不安も、おいしい料理を口に運ぶごとに、すくなくなっていった。


 ふっかふかのパンに、金色に輝くハチミツ、メインはわたしの大好きな鹿肉のソテー。みたことのない木の実や野菜のサラダに豆のスープ、デザートには、これもわたしの大好きなベリーパイ。それと、ベリーの香りのする紅茶。


 満足すぎる。しかも、すべてオウカがつくったというから驚きだわ。


 馬車の中でパンや果物をあんなに食べたのに、お腹がととってもすいていた。だから、みっともないほどの勢いで食べちゃった。


 オウカは、そんなわたしに驚いたりはしたないと思ったとしても、なにもいわずに給仕をしてくれた。それこそ、至れり尽くせり状態で。


 どれもとってもおいしい……。


 感謝を伝えたい。伝えたいけどそれができない。


 バラの花の香りのするお湯につかって手足を伸ばしつつ、心からそうしたいって思っている自分に驚いてしまった。


 同時に、伝えられないっていうことがバレたら嫌われてしまうとも。


 さらに驚くべきことに、嫌われたくないと不安になっている自分がいる。


 わたしがしゃべることができないということをかれがしれば、かれはわたしに幻滅し、嫌いになる。


 そんなのぜったいに嫌よ……。


 おバカな元婚約者のラリーに、一度だってこんなふうに想うことなんてなかった。それどころか、かれにたいしては嫌われたいって願いすらしていた。


 そんなことを思いながら、浴槽でウトウトしていたみたい。


 あわてて浴場からでた。


 オウカは、「ゆっくりおやすみ」といって去ってしまった。


 浴場と寝室には、ちかづくつもりはないみたい。


 わたしの唯一の荷物であるトランクを、カッツが部屋に運んでくれていた。


 部屋は落ち着く程度の広さで、品のいいアンティーク調の家具がひかえめに配置されている。寝台は、大の字になって眠れるほどおおきくて、ふっかふかの布団に真っ白のシーツ、それからいくつもの枕やクッションが置いてある。カーテンは閉められていて、寝台の横にある小さなテーブルの上のランプがほのかに室内を照らしている。室内は、ハーブかなにかのにおいが漂っていて、よりいっそう気分を落ち着かせてくれる。


 寝台に身を投げだすと同時に深い眠りに落ちていた。


 自分の家でもこんなに深く眠ったことがない。とにかく、死んだように眠ってしまった。


ご訪問いただいたばかりか第五話目をお読みいただき、誠にありがとうございます。


いたらぬ点が多々ございますが、六話目以降もご訪問いただけましたら幸いです。


あらためまして、心より感謝申し上げます。

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