すべてをうしなってしまったので獣人のもとに行くことに
連続投稿で完結までまいります
人っていうのは現金なものよね。
お金があるようにみえるときには集まってくるのに、じつは借金がありますってわかったとたん、よりつかなくなるどころか極悪非道人みたいに避けたりさってしまうんだから、つくづくいやな生き物って思ってしまう。
「お姉様、わたしだって肩身が狭いのよ。まさか、お父様がお金を残していてくれなかったなんて……」
葬儀にもくることができなかった唯一の身内である年子の妹が、葬儀の翌々日にやってきた。
挨拶など抜き。いまや第三皇子の妻である妹は、とんでもなく傲慢で鼻持ちならなくなっている。
もっとも、結婚するまえから傲慢で鼻持ちならなかったんだけど、それにますます磨きがかかっちゃっている。
第三皇子も親の、つまり国王の権威をかさにきて、ほかの皇子よりはるかに劣っているにもかかわらず、傲慢さだけは皇子のなかでも群を抜いているろくでもない男。
まさしく似た者夫婦っていうわけね。
妹は、なんにもなくなった居間にせかせかと入ってくると開口一番そういった。
「まったくもう。遺してくれるものがないんだったら、もっとはやくしらせてくれるべきなのよ。もしくは、遺してくれるだけ確保して死んでほしかったわ」
妹はぷりぷりしながら、なんにもない部屋をいったりきたりしている。
よくいうわね。この屋敷も屋敷内にあるものも、さっさと売り払ったくせに。
あなたのその行動力は脱帽ものよ。
わたしがショックのなかで葬儀の手配をし、葬儀を終えるまでの間に、なにもかもなくなっていた。
妹がすべてを売り払っていたわけ。
しかも先祖代々の領地まで、第三皇子の名のもとに売ってしまっていた。
まえまえから、第三皇子が不穏なことをたくらんでいるっていう噂はきいている。
『第一、第二皇子をどうにかする』
『国王も……』
なんていうことを?
そのためには、お金が必要らしい。
ウロウロする妹をみながら、あまりの手際のよさについてかんがえてしまう。
「お姉様、婚約破棄されたんですってね。この屋敷も土地もなくなったんですし、どう?国境を越えた辺境に住むある貴族のところにいってみたらどうかしら?」
振り向いた妹の美しい顔は、いつにもまして意地悪で打算的な笑みが浮かんでいる。
蝋燭の灯をかざし、真っ暗な庭園を窓ガラス越しにみてみた。
庭園の南国や北国のめずらしい花々まで、根こそぎもっていかれちゃった。
途方に暮れる、とはきっとこのことね。
思わず、溜息をついちゃった。
今夜だけとはいえ、シーツの一枚もない。だから、床に寝転がって眠るしかない。
荷物は、トランク一つだけ。送ってくれる馬車もないんですもの。
妹のいう国境のむこうの辺境の貴族とやらのところまで、あるいてゆくしかない。
床から、妹が置いていった釣書をつまみあげてみた。
ご丁寧に羊皮紙で巻かれているそれをほどいてひろげてみた。
名前は、と。
オウカ・カミオー。
かわった名前ね。年齢は、わたしより一つ上。
ありきたりな内容。でも、すぐにそれに気がついた。
狼族……。
なんてことなの。純粋な人間ですらない。しかも狼族なんて、獣人のなかでも謎がおおくてすごく野蛮だか暴力的だかって、元婚約者のおバカなラリーがいっていたかしら。
わたしたちがまだ子どものころ、一時期狼族の皇子が人質にあずけられていた。みんなで、その皇子をみるために忍び込んだことがあったような気がするけど、よく覚えてないわ。
どんな相手でも、とりあえずはいくしかない……。
両親と婚約者をいっきになくしただけじゃなく、屋敷や土地もないんだから。
でも、そこにいってどうなるの?
おおきなため息があたり、釣書がカサカサと音を立てた。
わたしの見た目は悪くないのよ。たぶん、だけど。
でも、性格が悪いの。それもすっごく悪いの。
自分でもわかっている。
わたしは、家族にも使用人にも嫌われている。
ものを言わずに顎で指図する、高飛車な女……。
でも、そうするしかないの。
だから、たいていの人は「傲慢で高飛車な公爵令嬢」って思ってる。
そして、いつしか「氷の女」って呼ばれるようになっていた。
いいの。そう思われたって仕方がない。
いいえ。そう思われていたほうがいいんだから。
まともに話せないってことがバレるより、よっぽどマシよ。
はぁぁ……。
ため息って幸せが逃げるってきいたことがあるけど、この状況でため息がでないっていうほうがよっぽどおかしいわよね。
っていうか、ため息しかでないんですけど……。
はぁぁ……。
いやだわ。またため息。
つかれているのね。きっと、つかれもあるのよ。
お父様とお母様が事故で死んで以来、慌ただしすぎたし、いろんなことがありすぎたから。
とりあえず、もう寝ましょう。
明日の朝は、日の出とともに出発して、歩けるところまで歩いてみる。
それできまり。
かたい床の上に身を横たえると、体のあちこちが悲鳴をあげた。
それでも、ここに横になるしかない。寒い時期じゃなくってよかった。
でも、夜はやっぱりひんやりするわね。
丸まってみた。
「おやすみなさい」
声をだそうとしたけどやっぱりでない。
言葉にださないと、だれもなにもわからない。ということは、お互いにわかりあうことができない。
そんな当たり前のことが、わたしにはできない。
そんなことをかんがえていたら、いつの間にか深い眠りに落ちてしまっていた。
ご訪問いただいたばかりか第二話目をお読みいただき、誠にありがとうございます。
いたらぬ点が多々ございますが、三話目以降もご訪問いただけましたら幸いです。
あらためまして、心より感謝申し上げます。




