2話
「あ、サヤちゃん…!」
「ヴァインヘイム・オンライン」にログインすると、すぐに彼女を見つけることができた。
ハンドルネーム「サヤ」は、長い黒髪にスタイルのいい長身、胸やお尻も大きく腰は括れていて、露出も比較的高めの水着のような格好をしていて…
かつ種族はサキュバス、男を魅了するための種族…ではあるけれど、
今となっては俺だけの事を愛してくれている存在だ。
「あ、ユウ君、こんにちは~♥なんかこの時間にインするの珍しくない?」
と、彼女の方も俺を見つけて近付いてくれば、艶やかな流し目を向けてくれる…。そう、この「ヴァインヘイム・オンライン」の中では俺の唯一とも言ってもいい友人兼恋人…でもあるのだ。
「うん…えっとぉ…実はそのぉ…仕事、またクビになっちゃって…」
抱き着いてくるサヤに情けなさそうに職場を解雇されたことをおずおずと伝えれば…
「あはっ♥またぁ…?もう、ユウ君仕事クビになるのこれで何度目~?」
とあっけらかんといった様子で笑われてしまい…しかし彼女のそういった明るい様子が自分にとってはある種の救いでもあり、こんな態度でいてくれる彼女だからこそこんな風に正直に伝えられるのでもあって。
「えーっと…今年に入って5回目…かなぁ…」
「5回目?すっごいねぇ、殆ど3か月もってないじゃん。でも今回のって確か清掃業とか言ってなかった?それでクビになっちゃうなんてユウ君ってよっぽどそういう仕事向いてないんだね~」
「う~そう言わないでって…自分でも気にしてるんだから…」
言葉の通り自分でもクビになる度に思いっきり落ち込んで、しばらく身体を動かせないくらいにはなるのだけれど、こうしてサヤに笑い飛ばしてもらえるとまだまだ頑張れるかな、と思える自分もいるのだった。
「まぁ人には向き不向きがあるって言うし、仕方ないんじゃない?ね、それよりぃ…今日も…するよね…?せっかく会えたんだしぃ…♥」
「あ…う、うん…したいよ、勿論…」
サヤが一方的に話を切り上げるようにすると、身体を近付けてきて…耳元で甘い吐息を吹きかけてくる…それはいつもの「合図」だ。
その「合図」を聞くと俺もどこかしおらしい様子になって…彼女の言う通りに従いたくなってしまう。
「良かった…♥それじゃあ今日は、どうする…?私、今日はいっぱい可愛がってもらいたい気分なんだけど…♥」
「そっか、それじゃあ…今日は、家のベッドで思いっきり…とかどう?」
「うん、いいよ…♥今日もたっぷり、お願いね…♥」
「分かったよ、じゃ、ベッドの上で…ね…?」
…なんて、まるでこれからイヤらしいことをするかのような話をしているが。
「ヴァインヘイム・オンライン」は健全なVRゲームであり、所謂R18の行為は全く許可されていない。男女間の触れ合いはアイテムの受け渡しのみ許可されているし、PVPも所定の場所でしか許可されていない。性行為ができるようなプログラムも全く実装されていない。
…それならばどうするかというと
19XX年代から伝わってきたと言われる古の性行為を伝える手法…
「チャットH」・所謂「チャH」である。
「チャH」とはつまり、文章のみでお互いの心情や描写を繰り返し、
お互いが気分を高め合うための行為…である。
俺はこの「ヴァインヘイム・オンライン」にログインすることになって、初めてこの行為を知ったのだが…サヤとの相性が良いのか、それともこういう行為が向いていたのか何なのか分からないが、
もうサヤとのこの「チャH」をもう5年ほど続けている。
「んっ、んっ…はぁ、はぁ…♥ユウ君、今日も素敵…♥こんなに濃厚なの、ユウ君だけなんだからぁ…♥」
VRゲームであるから、勿論サヤの声は聞こえてはいる…けれど俺のしていることは、キーボードに文字を打ち込み、サヤの弱いところや感じるところなどを描写しているだけだ…。それなのにサヤは俺の事をよほど気に入ってくれているのか、今のような甘い声を時折漏らし、現実以上に感じたような声を聞かせてくれる。
「はぁ、はぁっ…♥ユウ君今日もすっごい…♥私の事、こんなに愛してくれるの、ユウ君だけ…♥」
自分のレスがそんなにもサヤに気に入って貰えていると思うと、思わず熱が入り…サヤの弱いところを何度も何度も責め立て…もっともっとサヤの甘い声を聞きたい、蕩けた声を出させたい、と思ってしまって…
「んっ、んっ…♥ダメ、ダメだってぇ…♥そんな風にされたら、すぐにイっちゃうっ…♥んっ…♥ユウ君、もう、イくっ…♥んっ…♥」
サヤの蕩けた声と感じる描写を見聞きしながら、今日もサヤが絶頂に達するところを見届けつつ、今日の行為はひとまず終わりとすることにしたのだった