1話
山城雄哉、30歳、童貞
そして…2034年4月1日。
「山城君、君、明日からもう来なくていいから。お疲れ様」
…無職
本日、俺の経歴に更に全く輝くないその経歴が付け加えられたのだった。
「…はぁ………」
金もない、友達もいない、ロクな仕事経験もない俺にとってそれなりに上手くいっていると思っていた今の仕事を上司から解雇され…確かに色々とミスを…清掃用の溶解液をあちこちにぶちまけたり、ワックスを塗りすぎて床が滑りすぎるくらいになったことはあって、それを何度も繰り返してはいたけれど、いきなりクビにされるほどか…?と自問自答しても、何が悪いのか全く分からず、呆然としていたところに、とぼとぼと家に帰り…。ポストに入っていた明細を見返し、貯金の残高が今月の家賃を払えば尽きてしまう事に気付き、さぁ…と顔を青ざめる。
「うっそだろ…今月そんな課金してないのに…!」
実家を追い出された俺にとって、生命線となるのは今まで働いていた清掃会社の給料のみで、もしそれがなくなってしまえば…家賃、そして…命の次とも言えるオンラインゲーム「ヴァインヘイム・オンライン」への課金が尽きてしまう事を意味する。
「ヴァインヘイム・オンライン」は、現代にとって良くあるVR型のオンラインゲームで、月額課金制+アイテム課金制を取っている。俺は所謂重課金プレイヤーと呼ばれるタイプで、月額課金に加えてそれなりにガチャにも投資しているタイプで、トップ層って程ではないが上級~中級くらいに位置するプレイヤーだと思っている。
「くううう…あ…せ、先月の分か…そ、そういえばラナちゃん全然出なかったもんなぁ…」
思い返してみれば先月に熱くなって酒を飲みながら予算以上の金額を投入したことを思い出し…更に顔を青ざめさせると同時に、このままでは来月の家賃が払えずアパートを追い出されてしまうかもしれないと
思い立ち、どうしたものかと慌てふためき部屋の中で地団駄を踏んでもうどうしたものかと頭を抱えて
「…はは、こういうときは現実逃避に限るなぁ…サヤちゃん、いるかなぁ…」
と、部屋に転がっていたVRスコープを頭に被り、「ヴァインヘイム・オンライン」へのログインを開始することにしたのだった