ボロアパート・スケルツォ
木造築三十年、家賃二万円のボロアパートの二階の一室に二人の男女が住んでいた。殺風景な部屋である。そこで男女が向かい合って、頭を抱えながら座っていた。物もほとんどないーー目の前に三億円がある以外は.......
突然、女性の方が机を両手でダンっと叩いた。
「どうして! 銀行強盗がこんなに上手くいってしまったの!?」
男性の方も唸るように言う。
「まさかここまで問題なく事が運ぶとは」
「そうね、それは私も意外だったわ。でもどうして三億円も要求するのよ!」
「それくらい要求しておけば途中で時間切れになって、一千万円くらいでいい感じになると思ったんだよ!? そしたら銀行員の奴ら、びっくりするくらいに手際が良くて。それにお前だってノリノリで人質を取っていたじゃないか!」
「あんなマッチョ人質にしてもうまい具合に抵抗してくれると思うじゃない! あんなに大人しくしてくれるなんて思わなかったわ」
「おかげで逃走車もちゃんと用意してくれて、無事強盗成功だ。凶悪犯の仲間入りだよ。まさかお金がなさ過ぎて刑務所でしばらくご飯を食べるためにこんなことをしたっていえるわけもなし」
「ええ、そうね。誤算だったわ。でもどうするのよ、こんなに。三億円の使い道なんてないわよ」
「車を買うとか?」
「一千万くらいの買っても、大分残ってしまうわ。却下」
「じゃあ家を買うとか?」
「三億円の家を買っても私たちじゃ維持することが出来ないわ。私たち二人ともぷーなのよ? はちみつ舐めてろよ」
「え~と、世界一周旅行とか?」
「意外と百万から二百万円で済むらしいわよあれ? 却下」
「じゃあ指輪を買う!」
「どんなバカでかいもの買う気よ? 大体そんなもの買っても使い道がないでしょ?」
「いや、あるよ? 君に使う」
「え?」
男は女に近づいて、ポケットからそっと小さな指輪を取り出した。
「アルバイト三か月して、飲まず食わずで買った指輪だ。あまり大きくないけどね」
「これを私に?(トゥクンッ)」
「ああ、今言う事じゃないかもしれないけど、僕と結婚してくれないか?」
「うそ、私ぷーよ?」
「俺もぷーさ。二人で蜂蜜をなめよう」
「嬉しい!」
二人は抱き合って、互いの愛を確かめた。そして扉の前では警察が飛び込みづらそうにしていた。
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