1話
「ねぇねぇねぇねぇねぇ!」
「ん、なに…?」
今は登校中。
私に興奮しながら話しかけてくる凪に少し鬱陶しさを感じながら返事をする。
「あの二人!さっきね!ペットボトル回し飲みしてた!」
と興奮しながら道路の向こう側にいる女子二人を指さしている。
「間接キスだよ!」
なんてキラキラした目で言っている。
「あーはいはいそうねー」
適当に返事をする。凪は上機嫌だ。
そうこいつは女子が間接キスをしているのを見るだけで興奮するぐらいの重度の百合好きだった。
まあ百合自体は私も嫌いではない。好きでもないけど。
そんなことを考えていると学校についてしまった。
校門を抜け、下駄箱まで歩く。そして教室についた。
ここまでほとんど男子としかすれ違わなかった。この学校は2年ほど前まで男子校だったらしいだから女子はクラスの三分の一位しかいない。
うちのクラスなら23人中7人が女子だ。
そして凪は…男子でも女子でもない。
いや、男子なんだが女装しているのだ。しかもめっちゃ可愛い。
別に女装癖という訳でもない。
ただ、ただ…女装して女子の百合を間近でみたい。というだけなのだ。
最初それを聞いた時「は?」となった。こいつどんだけ百合好きなんだ…と思った。一応クラス内では女子。この秘密を知っているのは私と他クラスの幼馴染みだけらしい。
ここまでして百合がみたい理由が分からない………。
「はぁ…」
何度目かの溜息をつく。
「どーしたの?」
急に聞こえた聞き慣れた声に顔を上げるとそこには幼馴染みの鈴が少し上目遣い気味に私の顔を覗いていた。
「あー鈴か」
「そうです。鈴ちゃんです!」
ちょっとふざけながらくるんっと回って目の辺りでピースをする。
「でー?なんで溜息ついてんの?」
そう聞かれ私の溜息の原因を探したがいつの間にかいなくなっていた。
「んーなんか、世の中には私じゃ考えつかないようなことを思い付いて成し遂げてる人もいるんだなーって」
「えーなにそれー?」
笑いながら鈴は言った。
そして時は過ぎホームルームの時間。
「えーともうそろそろ皆大好き体育祭の時期です。」
うちのクラスの委員長の佐藤 麗奈が告げた。
クラス中から「えー」とか「やだー」等の声が聞こえてくる。
私も嫌だ。
私は体育祭もとい体育があまり好きではない。というか今は5月なのに体育祭なんてやるのか…。
別に運動神経が悪い訳ではなくどちらかというと良い方だと思う、でも疲れるし面倒くさいから嫌い。
高校始めての体育祭。せっかくだから真面目にやろうかな。
「私だって体育祭なんてい……」
とまで委員長は言いかけ少し慌てながら咳払いをした。
「体育祭も大事な行事!嫌なんて言わないの!」
とビシッと指を立て言った。
「え、いや今絶対委員長体育祭なんて嫌って言いかけ…」
「い、いい言ってない!」
委員長はクラスの男子が全て言い切る前に否定の言葉を吐く。
クラス中から笑いが起きた。
委員長も相変わらずだなと思う。
「えーっと今日は個人種目について決めます。」
ザワザワとするクラスの雰囲気を制するように話しはじめた。
そして黒板に、借り物競走、綱引き、中距離走、リレーと書いていく。
「ねぇねぇ、羽月は個人種目何にする??」
斜め前の鈴が振り向き、話しかけてくる。
「んー借り物競走にしようかなー楽しそう。」
「へー私リレーにしよっかな」
なんて話していると。
「はぁー…」
と隣からうっとりするような声が聞こえてきた。
「え、なに凪…」
「え~?別に~?やっぱり二人が話してんの見てるのが楽しすぎる~!あ~やっぱり二人のカップリング最高!」
今の私は心底嫌そうな顔をしているだろう。
「??…なに言ってんの凪ちゃん?」
と鈴は私に問いを零す。
「えーっと…気にしないで?」
「はーい」
そう言って前にむき直した。
「はぁっ……」
溜息をつき、チラッと凪の方を見ると幸せそうな顔をしている。…多分。恐らく。言いたくは無いが、妄想をしているだろう。
「はぁ……」
もう一度溜息をつき前を向いた。
そしてぼーっとしていたらホームルームが終わってしまっていた。