9.
ニーナは、困惑の表情で腕組みをした。
「それは、私を設計した人物に聞いてください。私は知りません。タカシが人間の脳を理解していないように、私も自分の頭脳を理解していないのです」
そう言って自分のこめかみを右手の人差し指でトントンと叩くニーナを見て、『うまいこと逃げたな』とタカシは思った。彼女は、そんな彼の表情をジト目で見る。
「タカシは、まだ私を信じていませんね?」
彼は肩をすくめて、首を左右に振った。
「悪いけど、信じられないね。……たぶん、そう言うのも100回目だと思うけど」
「はい。残念ながら正解です」
「……あっそ。一字一句同じことを言っているんだ」
「いえ。遡れば、100回目が99回目、98回目と変化していますが」
タカシは「そりゃそうだな」とつぶやいた。
「まあ、人間ってのは、自分が理解できないことは、すぐには信じられないのさ。それは仕方ないことだよ」
「では、今から、私が全ての時間を記憶していることを証明して見せましょう。それには、未来に起こることを予知してみせます。時間がループしているのですから、正確には予知ではありませんが」
ニーナの大胆な提案に、タカシは腕組みをして彼女の方へ体の正面を向け、笑みを浮かべた。
「いいよ。未来に起こることを示してみせて」
彼女は、壁に掛けられた丸時計を見た。
「……今は2時45分ですね。直近の3つの出来事を言います」
「どうぞ」
「46分に、この上空にヘリコプターが通過します。48分に、守衛さんがそこのドアをマスターキーで開けて部屋の中を見ます。50分に、救急車が通過する音が聞こえてきます。これらの出来事が起こりますから、待っていてください」
「おいおい、僕は解体作業があるんだよ。仕事をさせてくれよ」
「じゃあ、待っている間に他のアンドロイドを解体してください」
「このやりとりも100回目?」
「はい」
タカシは、プッと吹き出してしゃがみこみ、近くに転がっていた男のアンドロイドの解体作業を開始した。