6.
(今初めて言ったのに100回目とは……。さてはこのアンドロイド、壊れているな)
タカシは苦笑した。
そんな彼を睨んだアンドロイドは、急に立ち上がって彼を見下ろし、「私をQ科学研究所に連れて行ってください」と強めの口調で一歩前に出る。アンドロイドの足と自分の膝がぶつかった彼は、後ろへ逃げるように手をばたつかせて尻を滑らせた。
「……もしかして、元のご主人様にキチンとお別れを言わなかったのかな?」
「そう言うのは、55回目です」
頭に疑問符がたくさん浮かぶ彼は、興味が湧いてきたので、話に乗っかってみた。
「じゃあ、あと残りは?」
「『もしかして、元のご主人様にちゃんとお別れを言わなかったのかな?』が45回です」
なんだ、ほとんど同じじゃないかと思った彼が失笑すると、またアンドロイドが睨んできた。
(そろそろ、怒りを買いそうだな)
アンドロイドの中には感情豊かなのがいて、そうチューニングされているのだが、人間の言葉に気分を害したかのような反応をすることがある。
力が強いので、暴れ出すと厄介だ。
(早く解体しないと訳のわからないことをまくし立てて、仕舞いには暴れそうだな)
タカシはそう警戒し、アンドロイド――彼女の電源をいったん切るため立ち上がった。
すると、彼女は彼の手から逃げるようにズンズンと奥の扉の方へ歩んでいき、ドアノブをガチャガチャと回そうとするので、彼は眉尻を下げて言った。
「開かないよ、鍵かけたから。解体始めるとエスケープしようとする奴が時々いるんでね」
それは、一度経験したコマンド投入漏れのアンドロイドのことだ。「時々」はもちろん大袈裟に言っている。
これで諦めるかと思いきや、彼女は「やっぱり、また開かない」と経験済みかのように嘆き、ドアノブを握ったまま振り返って叫んだ。
「急がないと! 午前3時が来てしまいます!」
タカシは肩をすくめて「何、焦ってるの?」と白い歯を見せる。
すると、彼女は恐ろしいことを口にした。
「この世界は、午前3時になると24時間前に戻るのです!」