4.
床に転がっているのが人間ではないのに、心を注いでしまう。「あれは機械だ」と自分に言い聞かせても、脳が人間に相対する時のように反応する。まるでそこに女性が倒れているかのような錯覚を抱かせるのだ。
この状態から脱却するには、気を紛らすしかない。
タカシはスマホで友達とチャットをし、これを観ろと送られてきたオモシロ動画を鑑賞し、ケラケラと笑う。缶ジュースも空になり、時が経つのも忘れて、床に転がっている女性へも意識が向かなくなった。
そうして、そろそろかなと時計をのぞくと、
「ヤバっ! 時間過ぎた!」
時刻は2時40分。予定より10分遅刻だ。
まだ肩や腕が痛いし、握力も完全に戻っていないので10分の遅れは大きい。
そうはいうものの作業は開始しないといけない。タカシは大慌てで椅子から立ち上がり、女性のアンドロイドの横に駆けつけてしゃがみ込んだ。
「うわぁ……間近で見ると、超美人」
思わず、心の声が漏れる。
二十代後半で西洋人の顔立ち。栗色の髪がショートヘアで、ターコイズブルーの双眸がキラキラと輝き、陶器のように艶々とした肌。店頭でマネキンの代役をさせても、十分に人目を引く。解体するのがもったいないほどだ。
服はピンク色でケーシー型の――丈が短くタートルネックになっているナースウェア。看護師だったのだろうか。
「こんなの廃棄するなよ……」
嘆息するタカシだったが、アンドロイドに同情を寄せている暇はない。
彼はアンドロイドの頭脳に入っているデータを消去するため、女性の首の後ろに手を回し、スイッチを探してから電源を投入した。
微かに、ブーンと音がしてアンドロイドの起動が始まった。