15.
ニーナは足を破損したのか、腕だけで這ってタカシの方へ近づいていった。
ヘルメットが吹き飛び、路上に広がり続ける血の絨毯に頭を乗せたタカシは、仰向けになって投げ出された人形のように手足を広げ、目を閉じて身動き一つしない。
ニーナは、彼の頸動脈に右手を当て、消えゆく脈を測り始めた。
程なくして、左腕に着用していた腕時計がブルブルブルと鳴動する。この腕時計は無線通信機の役目も果たすようになっているのだが、震えるような呼び出し音が情け容赦なく彼女の応答を急かす。
いったん、右手で腕時計を操作したニーナは、その手を再びタカシの頸動脈に当て、おもむろに腕時計を口に近づける。そうして、目を彼の方へ向けたまま、小さく口を開いた。
「こちら、207817号。どうぞ」
彼女は、増えてきた野次馬に聞こえないよう小声で応答すると、腕時計から男の声が聞こえてきた。
『こちら、191562号。研究所裏手からの侵入に成功。207817号は、合流可能か? どうぞ』
彼女は、タカシの眠った顔をジッと見つめ、沈黙した。
『どうした、207817号、応答せよ』
「…………」
『応答せよ』
「バイクで移動中、事故に遭遇。合流不能。協力者は…………死亡。どうぞ」
『では、突入の許可を願う。どうぞ』




