11.
タカシは、話に乗るか、考える振りをしてやり過ごすか、心の中で綱引きが始まった。
今のところ、先輩の顔が脳裏にちらつくのでやり過ごす案が優勢。作業を放置してまでやるべきことかと、もう一人の自分が語りかける。
だが、午前3時になると、その先に時計が進まない。
未来が来ないのだ。
徐々に、話に乗る案に心が傾く。
「早くしてください! あなたの未来も、人類の未来も来ないのです!」
その言葉に、僅差で綱引きが決着し、タカシは大きく頷いて胸をポンと叩いた。
「わかった。協力する。任せて」
それまで今か今かと真剣な面持ちで待っていたニーナが、笑顔になった。
「ありがとうございます!」
「協力するって、過去100回の中で初めてだよね?」
「もちろんです」
「100回目にして前進か……。決断できず、悪かったね」
「いいえ。とんでもありません」
タカシは、ニーナがその後に続く言葉を飲み込んだように思えた。きっと、「私の言い方に問題があったのでしょう」とかなんとかだろうと推測した。
「僕なんかの力で、この事態が解決するものかと思ったけど、何もしないんじゃ、時間が永遠にループするんだよね? 未来が来ないんだよね?」
「来ません」
「なら、大袈裟かも知れないけど、行動を変えて、時間を、歴史を動かそう!」
「はい!」
我ながら大胆なことを言ったと、タカシは恥ずかしそうに頬を染めた。
「善は急げだ。さあ、行くよ!」
「仕事は?」
体が固まる。先輩の顔が怖い。
「……いい! どうにかなるさ!」
ウインクするタカシは、作業着姿のままニーナを連れて直ぐさま部屋を飛び出し、廊下を駆け抜けた。首から下げている非接触型のカードで通用口のドアを開けて工場を飛び出し、駐車場へとひた走った。




