1.
タカシ……スクラップ工場で解体作業のバイトをしている大学二年生
ニーナ……介護用アンドロイド
20XX年12月。大学二年生のタカシは、アルバイト先のスクラップ工場の更衣室から重い足取りで出てきてスマホに目を落とした。
この工場は、アンドロイドの解体作業を一手に引き受けている数少ない半官半民の施設。
濃い水色の作業着に身を包む中肉中背の彼は、インドア派で色白。面長で切れ長の目にやや高い鼻、形の良い唇。エッジマッシュの髪型に少し寝癖が残っていて、指輪をはめた手でさっきから撫でたり梳いたりしているが、うまくまとまらない。
今は22時少し前。工場は三交代制で、今日の彼は22時から翌朝6時までの深夜勤務当番だ。
タカシが暖房の効いていない作業部屋に入ると、入れ違いに三人の先輩たちが「よぉ」と声をかけて出て行くところだった。
先輩たちの背中を見送って扉がバタンと閉まった直後、作業部屋は独り残されたタカシの盛大なため息がこだました。
このところ、老人の人口が減って介護用アンドロイドが余り、廃棄処分のため、この工場へ大量に持ち込まれる。今日も数十体が持ち込まれ、先輩たちが残していった10体が床に転がっている。
この介護用アンドロイドはいろいろな顔をした男と女があり、皆若く、利用者は好みの顔を選べる。
その表情は、リアルなマネキン人形よりも人間のそれに近いが、頭のてっぺんからつま先まで人間と同じとまでは、さすがにいかない。町中でこれが歩いているところに遭遇すると、若干動きに滑らかさがないし、肌がツルツルでテカっているので、ああアンドロイドかと気づくことが出来る。
でも、会話は完璧。感情が豊かで、冗談もうまく、人と会話していると錯覚するほどだ。
声質まで人間そっくりなので、人体を義体化したサイボーグ、と本気で考える人がたくさんいる。人間と思い込んで、遺産を相続するとまで申し出た身寄りのない老人がいたほどだ。
それだけ人間っぽいアンドロイドが、目を開けて床に転がっているのだから、実に不気味である。
あいにく、二人の同僚が風邪だとか体調不良だとかで欠勤し、今日はタカシ一人。彼は、アンドロイドたちに目を落とすと、室内の寒さも手伝って、思わず身震いした。