回想1 誰のせいでもなかったんだ
天災ってのは本当に突然なものだ。
台風なんかはある程度予測できるけど、地震はもう最悪だ。起こるタイミングなんて判りやしない。
しかも我が日本は世界有数の地震多発地域ときている。
ほんと……どうしようもなかった。
あの日は父さんと二人だけで水族館に行った日だった。
本当は母さんと妹の二人も行くはずだったけれど、妹が急に熱を出して母さんは看病のため留守番になった。
その日は俺の誕生日でさ、妹も命に関わるような病気でもなかったから、俺だけでも楽しまないとってことで、父さんと二人で出掛けたんだ。
すぐにとんぼ返りをする羽目になったけどな。
父さんが急な仕事の都合で帰らなくてはいけなくなった。
子供心に不満もあったけれど、妹の事もあったし駄々を捏ねたりはしなかったと思う。
それに子供だった俺からしたら車でのドライブも、見慣れぬ世界へ冒険に行ったみたいでそれだけでも十分楽しかったんだ。
帰る前に水族館の売店で「何でも買ってやるぞ」と言われた俺は、大きなペンギンのぬいぐるみを選んだ。ペンギンが好きってのもあったけれど、来られなかった妹にこれを見せたら喜ぶんじゃないかって、お兄ちゃん風を吹かせてみたんだ。
妹はまだ一歳だったけどな。
――で、その帰り道に大地震に遭遇した。
休日ってこともあってか割と道路が混んでいて、制御を誤った一台から後続の車がいくつも巻き込まれて……、ぐちゃぐちゃになって……、父さんの車はそれを避けようとして道路脇の建物に突っ込んで……。
そして俺は、意識を失った。
この時に死んでしまった人たちは、何を想ってこの世を去っていったのだろうか?
残した家族や大切な相手の幸せを願った人。
やり残した事を思い出した人。
俺には理解できない事を思い浮かべながら旅立った人もいただろう。
ただ誰かに恨み辛みを残して死んだ人は、いなかったんじゃないかって思う。
まあ災害そのものに対して理不尽な怒りは覚えたかも知れないけど、そういうのは主に生き残った人たちが、死んでしまった人たちのことを思って、後から湧き上がる感情だよな。
少なくとも俺は意識が完全に無くなるその時になっても、誰かや何かを恨んだりはしていなかった。
回想1 ~ 誰のせいでもなかったんだ ~