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第六章・凛子編 私の手を掴んでくれたのは

 いつもの放課後。

 いつもの生徒会準備室。

 部屋に居るのはいつものメンバー。

 私と甜瓜ちゃんとみのり。


 ――三人だけ。



 いつもと変わらないはずなのに最近は何故かずっと広く感じている。

 私はいつまで経っても慣れないこの広さに圧し潰されそうになる。

「……ん。……ちゃん? 凛ちゃんっ?」

 甜瓜ちゃんが私を呼んでいた。

「大丈夫? 急に黙り込んじゃったから……」

「りんこ、無理しています?」

 こんなだから甜瓜ちゃんとみのりに余計な心配を掛けてしまう。

 いけない、これからが大変だというのに。

「ごめんなさい、大丈夫よ、ちょっとぼーっとしちゃっただけだから」

 そうよ、今は天魔大戦のミーティングをしていたのに。

 しかも今回はいつもと訳が違う。

 今までにない深刻な状況を二人に伝えなくてはいけない。


「……続けるわね。一昨日の夜、つまり天魔大戦のあった日の夜に、次の日程が届いたわ」

 正式なゴールデンアップルズの隊員である二人にも、この通知は届いたはず。詳しい内容にも目を通しているだろう。

 それでも私は今の状況を改めて二人に伝える。

「今度の天魔大戦は特別な条件下での戦闘になるわ。その理由は今の私たちの状況――」

 ホワイトボードに手書きで六角形のマスを一つ描き、その周囲にさらに六つマスを描き繋げる。

 真ん中のマスにはゴールデンアップルズを示すGの文字を、周囲のマスには一つを除いた五つのマスに悪魔軍を示すDの文字を書いた。

「現在、私たちは周囲を悪魔軍に囲まれ孤立無援。唯一の逃げ道だけど、当然敵も把握しているから追撃は確実に受ける。その場合最大で五隊分の戦力と真正面――いいえ、全方位から集中砲火を浴びることになるわ」

「ど、どうしてこんな状況に……」

「私たちがゴールデンアップルズだとバレたから――、私たちを潰すために悪魔軍が用意周到に策略をめぐらしていたようね……ごめんなさい、私のミスよ。ほんと迂闊だったわ。私たちの事がバレてることも、敵の動きがおかしいことにも気づいていたのに、その先までは読めなかった」

「りんこのせいじゃありません。今まで悪魔が特定の部隊に狙いを定めるなんてありませんでしたし……」

「そうだよ。それに最近は色々あったし、うん仕方ないよ」

 二人はそう言ってくれても、私は自分を責めずにはいられなかった。

「ありがとう……甜瓜ちゃん、みのり。今回ばかりはさすがの私も絶対に勝てるなんて言えないけど、二人の命だけは絶対に守って見せるから」

「りんこ……」

 みのりが首を大きく横に振った。

 この子がこんなに分かり易く気持ちを表現するのは珍しかった。

「だめだよ凛ちゃん、三人みんなで生き残らなくっちゃ」

 甜瓜ちゃんが笑顔で私を窘めた。

 普段は年上だという事も忘れてしまいそうになる無邪気な彼女が、今は優しいお姉さんの顔になっていた。

「うん……そうだよねっ!」

 そんな二人に私は精一杯の笑顔で答えた。


 正直不安で押し潰されそうだったけど、笑うことで少しだけ気持ちが楽になった。

 二人に会えて本当に良かった。

 私一人じゃ、きっとここまで頑張れなかった。


 だから大和、私まだ頑張れるよ。

 あなたに守ってもらったみたいに、今度は私が甜瓜ちゃんとみのりの二人を守ってみせる。

 もちろん大和にもらったこの命も無駄になんかしないから、絶対に……。



 私にできるのは必死に考える事だけ。

 生き残るために最善の道を見つける、ただそれだけ。


 少しでも私たちに有利に働くよう籠城戦術を執るという名目で、地の利を生かせる天陵高校を戦場にしてもらった。

 後は考えるだけだ。

 私は戦術を考える時、相手が自分たちに対してどうのような戦術を執るかを考える。

 そして今度はその戦術に対して有効な戦術を探す。

 その繰り返しだ。

 考えうる全ての戦術を徹底的に潰していく。

 今までずっとそうして戦い、そして勝ってきた。


 私は知っている。

 私はそんなに強くない。

 そんな私がこれまで勝ってこられたのは、精一杯頭を使って、最善最良の道を必死で見つけてきたからに他ならない。

 私が自信を持って相手と張り合えるのは、この狡い頭だけ。

 私にはそれしか縋る物が無い。


 でも今回はその頭が私を裏切る。

 考えても考えても生き残る術が見つからなかった。


 そうして時間だけが無情に過ぎ去り、有効な戦術を見出せないまま私たちは天魔大戦の日を迎えた。



 目に映るのはいつも通りに設置された作戦室と大切な仲間たち。

 ただ違うと感じるのはここに漂う空気。

 不安という暗い感情が……違うわね。そう思ってしまうのは私自身が不安で仕方ないから。

 ほんと、私は臆病だ。


 私は久々に宝物を持ち出していた。

 いつものシンプルな髪止めではなく、今日は私の宝物を使うと決めていた。

 二つのリンゴの髪留めを使い、髪を高めで括って前髪も抑える。

 昔から変わらない、私のフェイバリットスタイル。


 天使たちもいつもと変わらない姿で整列している。

 私を守ってくれる私だけの騎士。

 軍曹だけは今回所用があるとかで一切姿を見せていない。

 見捨てられたのかと、そんなことをする仲間じゃないと知っていてもそう思ってしまう。

 私の心が弱っている証拠だ。


 ただ、そう自分を分析できる程度には落ち着いている。

 大丈夫、私はまだ諦めてなんかいない。


 私は胸に手を当てた。

 軍曹から教えてもらったあの時の王子様の正体。その男の子から貰った大切な贈り物の存在を確かめる。

 一度は手離してしまったこの鼓動を――私はもう決して手離さない。

 改めて私は今、ここにそう誓った。



 戦闘開始の時間が遂に迫ってきた。

 私は無理な虚勢張らずにありのままを話すことにした。

「まずは今回の状況について伝えるわ。私たちは敵部隊に因って包囲されている。その戦力差は約五倍、私たちの退路を断つために、一部隊ぐらいはこの戦場に現れないと予測していたけど……ごめんなさい、私の考えは完全に読まれていたわ」

 最悪を避けた為に最良の選択を早くも見誤ってしまった。

 とはいえ予測通りだったとしても、最悪すぎる状況に然したる変化は無かっただろう。

「それでも私たちが執る戦術に変わりはないわ。ここに籠城しひたすら耐える、それだけよ。幸いこんな状況でも制限時間は有効だから一時間耐えるだけでいいわ」

 そう言った自分がよく解っている、それがどれだけ難題であるかを。

「りんこ、敵包囲網を一点突破で破ることはできませんか?」

「そうだね、ただじっと耐えるよりもそっちの方がもしかしたら……」

「……無理ね。敵との戦力差があり過ぎて突破する前に増援が来て動けなくなるわ。それに今の私たちの突破力では打ち破ることすら困難よ」

 当然その作戦も考えた。

 でもどうしたって最前列を任せるアタッカーが必要不可欠だった。

 天使はある程度決まった能力しか持っていない。それをカバーするには人数を割く必要が出てしまい、今度は隊全体のバランスが悪くなる。

 かといって甜瓜ちゃんやみのりはもちろん、私が前に出たとしても要求される能力は満たせていない。

 もし――、

「もし――ううん、何でもないわ」

 本当に最悪だ、私。

 ここにいない人間を、自分で突き放した相手の力を今更頼ろうとするなんて。

「凛ちゃん……」

「……」

 大和はもうここに居ない――居てはいけない。


 大和はきっと自分の命を犠牲にしてでも私たちを守ろうとする。

 それが私にはどうしても許せなかった。

 私はもう誰か犠牲にしてまで生き残りたくない。

 二人には本当に申し訳ないけど、私のこの我が儘だけは絶対に譲ることができなかった。


 なにより大和には、それを実現してしまうだけの力があったから……。



 私たちがゴールデンアップルズだとバレてしまった直接の原因は、大和が敵を逃がしたから。

 でもその状況を作ったそもそもの原因は、私の判断ミスが元だった。


 あの時、大和が初めて天魔大戦に参加したあの日。

 私は大和を敵に遭わせるつもりはなかった。

 わざと遠回りで障害物も多い道を甜瓜ちゃんに誘導させ、間に合わないように仕向けたはずだった。

 でも大和の運動能力は予想以上で素人の高校生とは思えないレベルだった。

 障害物を物ともせず、目標まで驚くべき速さで到達してみせた。


 大和の能力の高さはその後も幾度となく発揮された。

 極めつけは大和が復帰した廃病院での戦闘。

 敵二人と正面から相対するという不利な状況でも大和はまったく引けを取らずに応戦してみせた。

 私はあそこで掠り傷の一つでも負えば、大和がこれから無理をしなくなるのではと思って、あえて無茶な命令をしていた。

 でも大和はそれを無傷で完璧に実行してしまった。


 大和がやられる主な原因は単独先行。

 でも大和はいつも私の命令に忠実だった。

 ただ周囲よりも早く行動できてしまったから、他との連携が取れずに孤立してしまう。


 そして何より大和は目が良過ぎた。

 敵を発見するのが早く、暗い戦場でも夜目が利き、なお且つ広い視野を誇り、それが結果として大和自身が焦ってしまう要因にもなっていた。

 相手に自分も見えているかもしれないという不安と、大和はずっと戦っていた。

 私が無理をさせないよう大事に扱えば扱うほど、大和は自身の長所故に追い込まれていく。

 逆に大和を活かそうとすればするほど、それは私たちではできない無理を大和一人に強いることに他ならない。


 だからこそ大和を私の傍には置いておけなかった。

 大和は自分の命を犠牲にしてでも誰かを守ろうとする人間だということを、私は誰よりもよく知っていたから……。



 私の気持ちに気づいている二人にこれ以上余計な心配は掛けさせたくなかった。

「校舎にはトラップをふんだんに配置してあるわ。それらを使って敵を叩く。むしろいつものゴールデンアップルズね。だからそんなに固くなることもないわ。いつも通り行きましょう」

 だから無理矢理に話を纏めて終わらせた。

 そんな私を二人は何も言わずに信じてくれる。

 でも私自身はいつも通りと言っておきながら、『勝つ』と言えない自分が情けなかった。



 まもなく開戦時刻になり天使たちは所定の位置に駆け出した。

 私は全員に通信を開き覚悟を決める。

「……さあ、りんごオペレーションの開始よ!」

 絶望的な状況のまま天魔大戦が開始された。

 それでも私は諦めない。

 僅かでも、ほんの小さな光の粒だとしても、希望があるのなら私はそれを掴むんだ。



 開戦してすぐ銃撃戦が始まった。


 一階の外と繋がるエリアにはバリケードを敷き詰めている。

 主な戦場は東西の生徒用の玄関口と南側の教員及び来賓用玄関口の三つ。

 私はその三つにアップル、メロン、グレープの各小隊を配置して事を構える。

「よし、ここまでは予定通り」

 戦力差がある私たちとしては戦線を無駄に広げるわけにはいかない。

 でもそれは悪魔も同じで、私たちの一点突破が怖い相手は敢えてこの戦術に付き合ってくれている。

 無理をする必要が無い相手にとって、この状況は特に悪いものでもないからだ。

 実際このまま進めば間違いなく、私たちは一時間も耐えることはできないだろう。


 そこで次の手を討つ。

「各スリー、フォーは敵を狙撃。相手は誰でもいい、狙える敵を片っ端から狙って」

 生き残るにはなるべく多くの敵を罠に嵌めて数を減らさなくてはいけなかった。

 そのためには敵を突いて、おびき出す必要がある。

 これは狙撃を嫌って校内に突撃を誘導させる為の作戦だ。

「りんこ、敵部隊に目立った動きありません」

「ちっ、そうそう上手くはいかないか」

 敵はこちらの誘いに乗ってこない。

 戦力差に物を言わせ二階と三階に弾幕を張られる。

 こちらの狙撃兵を黙らせる程度のことしかせず、堅実に数の有利を活かしてくる。

「ほんと私たちの事が好きでしょうがないのね、よく研究しているわ! 甜瓜ちゃん、スリーとフォーを各分隊に合流させて、それから各ファイブ、シックスには隙を見てグレネードをぶち込むように伝えて、一秒でもいいから時間を稼ぐように」

「りょ、了解!」

 皮肉もそこそこに次々と指示を替える。

 思うように戦況が動いてくれない。

 このままではジリ貧になる一方だ。


 それから間もなくして大きな爆発音が鳴り響いた。

「北側一階校舎のバリケードが破壊されました。箇所は東西の階段付近と中央の三箇所」

「このタイミングで!? くっそ、体育館や天陵館を無視してくるなんて玄関口に火線を集中し過ぎた、伏兵はいないって見抜かれたか……」

「凛ちゃん!」

「分かっているわ、メロン、グレープ分隊のBチームは階段前で応戦。アップルツーとセブンはそれぞれ東西の玄関口の援護に回って」

 事前に各分隊を二班構成に別けていたので片方を北側の教室棟防衛に回す。

 教室棟に私たちはいないけど、今回は少しでも時間を稼ぐためにも簡単に放棄するわけにはいかない。

 罠を駆使すれば少ない人数でも時間は稼げるはずだ。


 それよりも問題なのは伏兵を配置していないと完全に見破られた事。

 体育館等の北側施設を制圧もせずに無視してきたということは、こちらの兵力は実習棟もしくは教室棟だけにしかいないと読まれている。

 これからはより多くの戦力を、こちらの制圧に向けてくるだろう。

 いずれバレてしまう事ではあったけれど、予想よりもずっと早い。

 もしかして……。いや例えそうだとしても今の私たちには関係無い。

 ある仮説が頭を過ったけど、今はそれを振り払った。


「東西の玄関口が押し込まれています。このままでは……」

 薄くなった防衛網が休まることのない敵の砲火によって徐々に破られていった。

「一階は放棄っ! 教室棟二階に通じる階段は爆破する! みのり、敵の部隊の状況はっ?」

「包囲陣形を崩していません。特に戦力が集中しているような箇所はありません」

「甜瓜ちゃん、損害状況!」

「メロンツーは……戦闘続行不能。スリー、ファイブ、シックスは負傷したけど戦闘は可能。グレープ分隊はスリー、セブンが重傷、フォーも軽度の負傷あり、アップル分隊には目立った損害は無いよ」

「メロン、グレープのAチームはそれぞれのBチームに合流。アップル分隊はA、Bチームに分かれて実習棟側の階段の防衛に。それから一階にはスモークを張って各隊の移動を支援」

 設置していた煙幕弾を作動させ一時的に敵の視界を遮る。

 それを発動させないと移動もできないほど追い込まれていた。


「甜瓜ちゃん、みのり、三階の音楽室まで移動するわよ」

 これから二階は戦場になる。

 戦況が後手に回りっぱなしで以前のような余裕は無い。まだ安全なうちに三階まで後退するしかなかった。

 今回の私たちに逃げるという選択肢は初めから無い。

 この校舎を守り切らなければ元より生存の道は無いのだ。


 でも最後はその命令を出さなくてはいけなくなる。

 防衛が不可能になった場合、戦闘前に私が否定した突破作戦を実行せざるをえなくなる。

 その後は私に指揮する余裕など無い。

 私が前線に出てしまう以上、他の隊員には自己の判断で戦場からの脱出を任せる事になる。

 それは指揮官の指揮放棄と何も変わらない。

 私がこの隊を、ゴールデンアップルズを守れないと認める事。

 大切なみんなの命を見捨てるという最低の命令……。


 それは着実に私の目の前まで迫っていた。



 二階を主戦場に移してから数分が経ち、天使たちに戦死者が出始めた。

 一人、また一人と私の騎士が倒れていく。

「アップルツー、フォーが戦死! メロン分隊も負傷者多数、ファイブ、シックス、エイト、グレープワンも負傷、あぁ……メロンスリー、シックスの戦死も確認。グレープフォーも……」

「敵、教室棟二階を制圧。三階にも侵攻を開始。実習棟側ももう持ちません」

「教室棟は完全放棄、メロン、グレープ分隊はアップル分隊に合流して!」

「アップルエイト死亡! アップル、グレープのシックスも合流中に負傷しちゃったよぉ」

「西側にいる部隊は三階を通って東側の部隊に合流急いで! トラップを作動させて時間を稼ぐ。みのり作動タイミングをお願い」

「らじゃーです」

 私は天使たちを自分の目的のための道具として扱ったりしない。

 天使たちも私の大切な仲間だから、今までずっと死なせないように隊を動かしてきた。

 でも今はその仲間たちを、私のために死なせてしまっている。

 この戦場を切り抜けるために……盾にしている。


 目の奥が熱くなっていた。

 悔しくて、情けなくて、申し訳なくて……。

 辛くて、苦しくて、叫びたくて……。

 でもこの熱を流すなんて許されない。

 みんなはまだ戦っているのだから。


「階段前の廊下は死守して、そこを押さえられたら何もできなくなる」

「アップルシックス倒れました……グレープエイトも……」

「これで隊の半数が戦死、または負傷か……」

 戦っている――まだ戦っているのに……。

 私にはそんなみんなを守る術がもう無くなっていた。


 そうだ、今がついに迎えた最後の命令を出す時。


 これ以上はその命令の実行も危ぶまれる。

 今ならまだ奥の手を使用して校舎を脱出する事だけは可能だ。

 もう、決断するしかない。


「みんな、ごめんなさい。これから最後の命令を……」

「凛ちゃん……」

「……」


 甜瓜ちゃんの目はとても優しかった。

 不甲斐無い私を非難するどころか慰めてくれる。

 甜瓜ちゃんは私たちの中で一番優しい女の子。

 私はいつも彼女に救われている。


 みのりは手にした情報端末をじっと見たまま体だけはまっすぐ私に向けてくれていた。

 みのりはきっと諦めていない。

 自分にできることを今もずっと続けている。

 この子は私たちの中で一番強い女の子だった。


 二人に比べて私はなんて弱いのだろう。

 私はなんてずるいのだろう。

 結局は二人に助けられて、守られている。

 昔から誰かの力を借りないと私は立つ事もできない。


 そんな私だけど、せめて最後はゴールデンアップルズを指揮する者としての務めをしっかりと果たそう。

「今まで私なんかの命令に従ってきてくれてありがとう。でもこれが最後の命令。今からこの校舎を――」

「――っ? りんこ!」

 急にみのりが大声を上げて、私の最後の命令を遮った。

「この戦場に未確認の反応が――」

 みのりがそこまで言った後、何かが衝突したような激しい衝撃が遠くから響いた。

 敵の作戦とは思えない。

 まだ制限時間に余裕はある。

 特別な事をしなくてもこのままゆっくりと追い詰めていけばいいだけなのだから、こんなイレギュラーな物音が鳴り響く作戦を執るなんて考えられない。

「あれ……? あの凛ちゃん、ついさっきからだけど私たちに通信で呼び掛けてくる相手が……え? これって――凛ちゃんにも開くよ!」

 甜瓜ちゃんが信じられないといった表情で、だけど何故か嬉しそうにも聞こえた声で私と何かとの通信を繋いだ。


 そこから私の耳に聞こえてきた声は、私にも到底信じられない声だった。

 でも私がこの声を聞き間違えるなんてはずは絶対に無い。


 だって……だってこの声は――、


「あれ? ちゃんと繋がってんのか、これ。おーいっ、聞こえているか!」

「なん、で……」

「お、藤咲か? よかった、お前と繋がったか。なあ、とりあえず言いてえ事がある、言わなけりゃいけない事があるんだ。いいか、俺はお前を守る、絶対にお前を死なせねえ!」


 ――甜瓜ちゃんにも負けないぐらい優しい『ばか』の声だった。


「それから今度は絶対に俺も死なねえ! お前の命令を守るからじゃない。お前と友達になるために、お前とこれからもずっと一緒にいるために、俺からお前に誓うんだ」


 ――みのりにも負けないぐらい強い『ばか』の声だった。


「十年前の約束を、もう一度な」


 今までずっと必死に堪えていた感情が、私の頬をぼろぼろと伝っていた。



第六章・凛子編 ~ 私の手を掴んでくれたのは ~

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