プロローグ
一つ聞きたいんだが幽霊って信じるか?
こんな質問をしてなんだが、俺は信じていない。
その理由としては――まず、そうだな……幽霊が存在するのに必要なものってなんだと思う?
俺は幽霊がこの世に存在するには未練ってのが必要なんだと思う。
魂を縛りつけるような何かが無いと、この世の理を無視したりはできないと思うんだ。
で、ここからが俺の信じない理由になるんだが……その前にもう一つ聞きたい。
何の未練も無く死んだ人間が、この世界でいったい何人いたと思う?
幼いうちに死んでしまった子供は、これからの人生をきっと夢見ていたと思う。
思春期の少年は、彼女もできないまま死ねるか! なんてことを思ったに違いない。
仕事に生きた大人も、密かな野望を抱いていたりしたんじゃないかな。
百年の歳月を生きたお年寄りだって、盆栽や畑の世話でやり残した事とか、もしかしたら「最後はメイドさんの膝枕で死にたかったのぉ……」なんて思いながら死んだクソジジイがいたかもしれない。
人間は簡単に死んでしまう生き物だ。
人間はゴキブリ以上にしぶとい。なんて言われたりもするが、それは飽く迄、種としての話だ。それが個の話となれば、人間は地球上のどの生き物よりも脆くて弱い存在だと俺は思う。
もし……もし、大きな災害が起きれば人間は容易くその命を散らしてしまうだろう。
小さな虫や動物たちは、危機を察知し逃げることができるだろう。急な環境の変化で例え一匹になったとしても、ある程度なら堪えることもできるだろう。
でも人間にはそれができない。
整えられた環境。
守られた世界。
そうでなければ生きてはいけない。
だから壊れてしまった世界では多くの命が失われる。
ロウソクの火が消えるように……。
命の灯が――、一瞬で。
だからさ、幽霊が存在するのだとしたら、それはこの世界に溢れかえって然るべきだと思んだ。
だが現実はどうだ?
そんじょそこらで幽霊を見かけることができるか?
――それが答え。
だから俺は幽霊なんてものは信じない。
きっと人間は死んだら、それでお終いなんだ。
もしくは死ぬことで、その事実をあっさりと受け入れることができる諦めのいい――良く言うなら柔軟な思考を持った種に違いない。
形だけでも高校生になった今も、俺はずっとそう思っていた。
――藤咲凛子に出会うまでは。