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プロローグ

「やっぱ『ガンガンいこうぜ』が1番だって、攻撃は最大の防御って言うだろ」


  小学生の頃、田中くんがそう言ってたのをよく覚えている。

  王道RPG、モンスターを育成し野生のモンスターと戦うそのゲームではモンスターの行動を大雑把に選択することが出来る。文字通り「ガンガンいこうぜ」だと、自分のモンスターは回復や防御を行うことなくひたすらに攻撃を続ける。

 

「でも、モンスターが死んじゃったら戦えないじゃん」


 そう言い返すと田中くんは鼻で笑った。


「だって、ゲームじゃんか。死んだら復活させればいいだけだし」


  そう、ゲームだからいくらでも復活する。

  ゲームのほとんどがそのシステムを採用しており、キャラクターが戦闘によって死亡しても、アイテムや施設で復活してしまう。

  小学生ながらに彼はそれが「死というものが薄れていく」様に感じ、何となく抵抗があった。

  福山 悠雅はそのような男である。


「いのちだいじに」


  モンスターへの指示はいつもそれを選ぶ。

  田中くんいつも「ガンガンいこうぜ」なので、先日好きな女の子のスカートにガンガンいった結果、校長室にガンガン行くことになっていたことを悠雅は知っている。


「田中くんもいのちだいじにね」

「何言ってんだよ悠雅。男だったら攻撃あるのみだぜ」


  多分、自身が1番かっこいいと思える表情を悠雅に向けた田中くんではあるが、ここは児童公園の、それもタコを模した遊具の上なのでイマイチ決まらない。


「ほら、田中くん負けちゃってるよ」


  悠雅は田中くんが持っていた携帯ゲーム機を指さした。

  悲壮感溢れる効果音が流れ、ゲーム画面にはGAME OVERと表示されている。


「あー、なんでだよ。レアなモンスターだしレベルも高いのになんで負けるんだよ」


  田中くんはゲームに向かって不満を顕にした。そんな行動は小学生だからこそ許されるのであって大人がしていたら後ろ指を指される事案である。


「だから、回復だってば。死ななければいつかは勝てるんだよ」


  悠雅はそう言って自分も持っていた携帯ゲーム機の画面を田中くんに見せつけた。

  田中くんはそのクリア画面を面白くなさそうに見て、悠雅に言い返す。


「いいんだよ、ゲームなんだから。セーブポイントで復活するし」





  しないんだよ田中くん。




  悠雅は記憶にいる10年前の田中くんにそう言った。当時6歳だった田中くんは今や高校野球の名門校でエースピッチャーとして活躍しているがそれはまた別の話。

  悠雅も16歳、高校1年生になっていた。


「復活しないからこそ熱くなるんだ」


  悠雅はパソコン画面を睨みつけ、そのゲームを操作する。


  もうひとつの世界で生きる。戦う。

  そんなキャッチコピーで配信されたオンラインゲーム「ディスティニー・ワールド」

  悠雅はそのゲームに夢中になっていた。

  いや悠雅だけではない、世界中のゲームファン達が熱狂しそのゲームをプレイしている。


  ディスティニー・ワールド

  プレイヤーはそのゲームの中に小さな領地を持ってゲームをスタートする。

  領地にはゲームマネー「ドルー」を消費することで家や畑、商店などの施設を建てることができる。

  領地が栄えると住人が増える。プレイヤーはその住人との信頼度を上げることで、住人を兵士にスカウト可能となる。

  その兵士を用いて、その他のプレイヤーの領地やモンスターが巣食うフィールドに進軍し勝つことで領地を広げることができる。



  ここまではありがちなオンラインゲームだが、このゲームが人気となったのはこのシステムである。


「死んだ者は復活しない」


  ディスティニー・ワールドの戦闘において、死亡したキャラクターはどれだけレベルアップさせていようが、どれだけ愛着があろうが復活させる術はない。


  領地を栄えさせれば、レア度が高く強力な兵士を得られるが、その兵士をどれだけレベルアップさせても1度死ねば全てが終了。再び会うことは叶わない。

 

  その命の価値を重んじるシステム、そのリアルさがこのゲームの売りであり、人気の秘密なのだろう。

  悠雅も例外なく、そのシステムにハマっていた。



  ドルーを使って領地を育成すれば潜在能力の高い、いわゆる高ランクの兵士が移住してくる。だが、ドルーを稼ぐためには戦わなければならない。

  しかし、戦えば育てた兵士が犠牲になる。


「あー、あっぶね。もったいないけど離脱するか」


  そう言って悠雅は「にげる」コマンドを選択した。

  画面上のドルーが0になったと同時に、プレイヤー「ユーガ」は自分の領地へとワープする。

  ドルーがなければ低ランクの兵士しか得られないので戦うしかないこのゲームにおいて、戦闘からの離脱は所持ドルーを全て消費してしまうという、最も愚かな行為とされていた。

  戦闘に負けてもその戦績によってドルーが獲得できる。また、その戦闘において兵士が全滅してもまた新たに兵士をスカウトすればいい。そんな戦い方が主流になっていた。

  復活しないシステムが作り出した「使い捨て」という思想である。


  だが、離脱にも唯一得られるものがある。

  兵士が得る経験値だ。

  だが、ドルーがなければ得られるのは5段階評価で最低である「D」ランク兵士。いくらレベルアップをしても、少ししか強くならないので、やはり離脱をするプレイヤーは少なかった。


 領地を育てて「S」ランク兵士を!


 それがこのゲームの必勝法であると誰もが信じていた。


 福山悠雅以外は。


「今日も積み重ねよう。レン、マーティー、オーガス」


 進行地【最果ての大地デーモンズロード】

 難易度【S級】

 他プレイヤークリア履歴【0】

 ユーガクリア履歴【999】

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