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2.変わりたくない。だけど ~音葉side~

「面倒くさいから嫌だ」

「でも、もうアイス食べてんじゃん」

「んー、やっぱ庶民の俺には高いのより普通のがいいわ。おっ、これ最新の! 借りますねー」


こいつ、本当に変わってない。


高級アイスまで提供し、さらにまだ未開封のソフトを開けて慣れたてつきで勝手に本体をテレビの下の引き出しから取り出している奏人かなとの頭に右手でグーを作り後ろからくらわした。


「いてぇな! 暴力反対! そうだなぁ。許してやるからアイスで喉渇いたので飲み物、できればコーラお願いしまーす」

「アンタ、いい度胸してんじゃないの!」

「まぁまぁ。怒ると身体に悪いですよー」


なんかどっと疲れた。もぉ、いい。ついでに自分のもいれよう。


「横、置いたから」

「ん。ども」


私は、奏人が座っているすぐ横にコーラのはいったグラスを置き、自分の分を持ちながらソファーに座った。そのままぼんやりと我が物顔でゲームをしている奏人の背中を眺めた。


ゲームって先に手をつけられるとやる気が半減していく気がするのは何故だろうか。


あれ? 中身は変わらないけど見た目は変わったかも。記憶していたよりも広く骨っぽい背中に指で一本線を上から引いてみた。


「うわっ、何すんだよ!」

「なんとなく」


奏人はいいところなのかコントローラーから手を離すことができないらしく身体をくねらせた。なんか身体のラインというか肉付き? も違うなぁ。肩から眺めていき実際に腕を触り次に手に触れてみる。


「おとっ! なんなんだよ。動かしづらい!」

「あっ、ごめん」


奏人の手を離し今度は彼の背中に自分の背を預けてみた。うーん、私より体温が高いのか、ぬくい。そして痩せているわりにこの安定感。


私は奏人によっかかりながら自分の腕をさすり手を眺めながら呟いた。


「ねー、なんで変わっちゃうんだろう?」

「はぁ?」

「こっからは独り言みたいなもんだから」


さらに体重を奏人にかけながらぽつぽつ話す。


「高校で仲良くなった二人に彼氏ができたの。すっごい楽しそうで、ちなみにやっぱり遊ぶ時間は減るじゃない?」

「めでたい事でいいじゃん」


わかってない。

グイグイ更に身体を傾けさせる。


「彼氏って、彼女っていると楽しいの? 皆、大半は欲しがるんだよ」


教室で皆の話しには合わせているけど、本心は別な時もある。


「まあ、夏とかいたほうが楽しいだろうな」


幼馴染よ。おきまりな回答をありがとう。そこで、はたと気がつき質問をしみた。


「奏人、彼女いる?」

「んー別れた。おっ、セーフ」


ゲームに集中している奏人はおざなりながらも返事をしてきて、その答えに少しショックを受けた。


なんか垢抜けているし……そうか。


「変わりたくない」

「あ?」

「だから、奏人とだっていつからか遊ばなくなったじゃん。力じゃ敵わなくなったり。テニスとかもさ。加減してたでしょ?」

「ソレはしょーがないだろ。むしろ優しさだっつうの」


以前は近くにあるテニスコートでよく打ち合いをした。互角だったはずが、いつの間にか手加減されはじめて、それに気がつき嫌になったのを今でも覚えている。


「身体つきとか変わるじゃん。アンタはガリガリ私はふよふよ。なんで変わるんだろう。あと彼氏とか彼女とか、友達と違うじゃない? 何が違うのかな。さっきも言ったけど彼氏ができちゃうと、そっち優先になるし」

「考えるとこか? そこ」


むー。なんかムカついてきた。

奏人のくせに。


「わっ!バカっあぶなっ」


寄りかかっていたのをやめて背中に抱きついてみた。もちろん全体重をかけて。よくあるじゃない、ドラマとかで。でも実際は腕を打ち痛いだけだった。


「離れろ」

「そんなに怒ること?」


支えられなかった奏人は私の下敷きになり、かなりご立腹のご様子。


顔や服をじっくり見てみれば、前より髪もお洒落になってシャツの着こなしや、ふんわりただよってくる、これは香水だろうか。


なんか、嫌だ。


「そんな顔すんなよ。なんか変だぞ」


うつむいていたために頭をぐしゃぐしゃ撫でられ、おっきなため息が聞こえてくる。


「分かった。付き合うか」

「誰が付き合う?」

「俺とおとに決まってんだろ? 今この部屋に他に誰がいるんだよ」


なんで急にこうなったんだっけ?


「あのなぁ。この俺でもこの状況は無理」

「えっ、あぁ。重たいってことね」


確かに足はフローリングについてるけど、苦しいか。そんな重くないはず…なんだけど。


「ちげー。こーゆう事」

「なっ!」


腹筋でいきなり起き上がってきた奏人に抱きつかれた。


香水と、何故か硬く気持ちよくないはずなのに、すごい安心感。けれど同時に落ち着かない。先に口をひらいたのは奏人だ。


「おとのくせに抱き心地いいし、なんかいい匂いがする」


くせにってなにさ。


「アンタみたく香水なんてもんはつけてない」

「だろうな。でもいい匂いがする。不思議」


落ち着かないほうが勝ってきた。


「ねぇ、そろそろ離し」

「バイト始めたんだ。だから週1か最長で2週間に1回会える」


本気なの?

私の顔を覗きこみ奏人はニヤリと笑った。


「付き合ってみればわかるかもよ? 彼氏がいる良さとか」


私と奏人が?

想像が全くつかない。


「ちょっと」


さっきより遠慮なくがっちり抱きしめられた。

密着がはんぱない!


「こうされんの嫌? 俺はおとが、ふよふよでむしろ、大歓迎なんだけど」


奏人のくせに。


「緊張と安心感。……何故か嫌悪感はない」


答えた瞬間両手首を掴まれ力業で立たされた。

身長差があるから見上げなければならない。

奴は満面の笑みだ。


「よし。じゃあ今から彼氏彼女な」

「まだ付き合うなんて…」

「おとが他の奴とじゃれてんの想像したら、なんかムカついたから。音葉なのに」


今度は不機嫌そうな顔をしている。

よく表情がかわるなぁ。


「なぁ、川で遊ぼうぜ」

「今から? 暑いよ」


なんでいきなり川?


「いいじゃん、どうせ親はうちもだけど仕事で帰ってくんの夕方だろ? 川で遊んで、アイス食いながら戻って、これ対戦しよう」


腕が肩にのかってきた。


「うん、手を繋ぐよりおとはこっちだ」

「重い!」

「まーまー。川とゲームならいいじゃん」


対等だって言いたいんだろう。

くー! 奏人のくせに!


「なあ」

「何よ」


やけ気味に返事をすれば。


「あらためてよろしく音葉」

「…おぅ」

「うん、裏切らない音葉らしい返事をアリガトウゴザイマス」


急に真面目な声にならないでよ。

苦手なんだよ。


「ほら、行こうぜ」


奏人は既に靴を履いてスタンバイしている。

相変わらず遊びに関しては早い。


「うん」

「ほら」


伸ばされた手に手を重ねた。

奏人のくせに握り方がやさしいじゃんか。


「じゃあ、とりあえず問題は解決したようだからアイス音葉もちな」

「なんでよ!」


私達は、まだ暑い外へとじゃれながら歩き出した。

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