第9話 聖女は大歓迎される
すみません、筆がすべってます。
なんじゃこりゃ?って感じです。
もうすぐそこまで足音の響きが聞こえてきます。
凶悪な顔をしたオーガは、足の裏が五〇センチもありそうです。
角の周りの強<こわ>そうな髪の一本一本まで見えるようです。
「ごわああああああ!」
突然の咆哮、騎士の放った矢が、右の一匹の目に刺さったようです。
ぶんぶんと振り回される丸太は、直径が二〇センチ余り、長さも三メートルはありましょうか。
その風が、ここまで届くようです。
ふわりと前髪が揺れました。
「ごわあああああああ!」
痛みに怒り狂い、騎士の盾をガンガンと鳴らします。
「うおおおお!」
騎士も、必死にそれに耐えています。
「アンヌマリー!もっと弓を!」
「はい!」
ティリスも魔力を練ります。
「おおおおおおおお!」
ティリスの目の前には、数十本のマジックアロー。
「くらいなさい!」
しゅば!
ががががががががががっががががががっががが!
ティリスの放ったマジックアローは、先頭左のオーガの顔をうがち、前面が骨になっています。
が、それでも、丸太を振り回し、まだ暴れています。
「しつこいわね!ミケ、アキレス腱切れますか?」
顔面骨のオーガを指さして、ティリスが聞きます。
「ガッテンしょうちにゃ!」
すたたと、低い姿勢で駆けだしたミケは、素早くオーガの後ろに回りました。
オーガが引き姿勢のミケを見失っているうちに、短剣でアキレス腱を突き刺しました。
痛みに足を持ち上げるオーガ。
ティリスはミケに叫びました。
「ナイフを離しなさい!」
「にゃっ!」
足を後ろに蹴りあげられて、ミケは咄嗟に後ろに跳びますが、ティリスからは良く見えません。
ごろごろと転がって、後ろの右手のないオーガの前にまろびでてしまいました。
「にゃにゃっ!」
手と足を使って、必死に駆けだすミケ。
いましがた、ミケの姿あった場所には、巨大な足形ができていました。
「ふ~!にゃにゃ!」
尻尾がますますふくらみます。
ミケは、手のないオーガから必死に離れて、多回りにティリスの後ろに戻りました。
「よくやりました!みけ!」
「はいにゃ!」
手のないオーガの持つ丸太が、その手を離れ、ものすごい勢いで飛んできました。
「うひゃああああ!」
騎士の盾の上を飛び越えて、ティリスに向かいます。
ティリスは慌てて飛びのきました。
がいん!
格子力バリヤーに当たって、跳ね返りました。
「ふう、よかった。あら?」
バリヤーの後ろから、必死になって魔力を注ぎ込むアンジェラ。
アンジェラは、なんと自分でバリヤーを強化しているのでした。
「偉いわね、その調子ですよ。」
ティリスは一瞬微笑んで、くるりと顔を回しました。
「な・に・し・て・く・れ・ん・の・よ~!!!!!」
ティリスは、地面に両手をついて、魔力を込めました。
がひょん!
地面から太い杭が飛び出して、手のないオーガは高々と持ち上がりました。
もちろんくし刺し状態で。
「ががが!」
かくんと、首が折れました。
母親の怒りとは…ミケは、冷や汗を流しました。
「こんのやろー!」
意外に役に立ったのは長男。
切れ味の良さそうな長剣を振りかざし、オーガの腕をめった切りにしています。
さすがに貴族の跡取り、いい剣ですね。
深く致命傷にはなっていませんが、そこそこの深さで切り込むので、オーガは手が上がらなくなっています。
手の表面はずたずたです。
「くらええええええ!」
がきい!
顔をかばったオーガの手首を狙って、長男の剣が振りおろされました。
ざしゅ!
オーガの手首は、あさっての方向に飛んでいきます。
ついでに、額に浅くない傷も残して行きました。
「ごわあああああああ!」
オーガの怒りは頂点に達していますが、両手が動かなくては文字通り手が出ません。
「そこ!」
アンヌマリーは、右横腹から左胸にかけて、一気に切り上げていました。
ぐぱっと腹が避けて、腹圧で内臓が飛び出してきました。
ぐえ~。
キモい!
いやまあ、作者の感想はどうでもいいとして。
がくりと体が折れて、膝をつくオーガ。
チャンス!
長男は、唐竹割りにオーガの眉間に切りつけます。
深々と食い込む長剣。
その横からは、アンヌマリーの剣がオーガの首に振りおろされます。
ごしゅ!
あ~あ、剣は首半ばで止まってますよ。
しかも、その衝撃でぽっきり折れている。
「ありゃ~?」
「アンヌマリー!」
すかさず、革袋から予備の剣を取り出して、アンヌマリーに放るティリス。
「かたじけない!」
ことキレたオーガはそのままに、最後の一匹に向き直るアンヌマリー。
最後の一匹は、ミケにアキレス腱を切られて、動けなくなっています。
そこを、騎士たちが盾で囲んで、動けないよう抑えています。
盾の隙間から、盛んに剣を突き立てて、足からの失血を誘います。
オーガも一匹くらいなら、騎士たちで囲めばなんとかなるんです。
集団は、かなり強敵ですが。
「盾ひけーい!」
長男の声に、正面の盾職が二名、左右に別れました。
「おりゃああ!」
またもや、眉間に向けて長男の必殺の一撃!
ざくりとささった長剣は、オーガの顎まで切り裂いていました。
「とどめ!」
アンヌマリーは、その横から心臓に向けて一閃。
柄まで突きとおった剣は、その命を奪いました。
全員、足ががくがくするほど疲れ、アンヌマリーは、その場から動けなくなっています。
「アンヌマリー!」
ティリスが駆けてくると、アンヌマリーは、情けない顔をして振りかえりました。
「お方さま~、手が、手が…」
「怪我したの?」
「手がはなれません~(泣)」
「ああ、そう…」
ティリスは、アンヌマリーの指を、一本ずつ剣からはがしてあげました。
「よく頑張りましたね。」
「はい、アンジェラさまは?」
「平気ですよ、自分でバリヤーを強化していましたから。」
格子力バリヤーに囲まれて、アンジェラとそのそばで短剣を構えるベンが見えました。
「みなさん、良く頑張りましたね。特に長男さんは、みごとなお働き。」
「恐縮です。」
「騎士の皆様も、すばらしい連携でした、よく訓練されていますね。」
「「「ははっ!」」」
「国の聖女として、たいへん頼もしく、好もしく思いました。」
「「「感激であります!」」」
いや、そこまでそろわなくてもねえ…
はるか先から、馬に乗った騎士たちが数十名駆けてきました。
「おーい!」
騎士たちは、サン=アマンド=モン=ロンド男爵の子飼いの騎士たちでした。
総勢三〇人余り。
一行の目前で馬を下りると、隊長が前に出ました。
「討伐の途中でオーガに逃げられてしまって、かたじけない。」
兜を脱ぐと、さっそく声をかけました。
「ブルージュ伯爵の長男でござる。」
「これは継嗣どの、まことにお手数でござった。」
隊長は、冷や汗をかきながら、頭を下げます。
「いや、聖女どのにも供の者にも怪我はござらん。」
「はあ~、それを聞いて安心しました、て?ええ!聖女どのでござるか!」
「左様、王国の第一聖女、ティリスさまでござる。」
騎士は慌ててその場で膝をつきました。
「このたびは、とんだ不調法でござった、申し訳なく。」
「ティリスでございます、あの、隊長どの、いったいどう言う始末だったのでしょう?」
「はは!村のものより、オーガが出たという知らせが入ったため、討伐に出たのですが隙を見て逃げ出されて、追いかけてきたものであります。」
「まあ!では、ほかの村人には被害が出ていないのですね。」
「ええまあ、骨が折れた程度でございます。」
「それはいけません!すぐに治療に参りましょう!どちらですか、ご案内ください。」
「は、ではこちらへ。」
「待て待て!、隊長どの、われらを忘れては困る。
長男は、隊長を引きとめました。
「継嗣どの、ここからはわれらサン=アマンド=モン=ロンド男爵家にて、警護つかまつりましょう。」
「いや、しかし…」
「長男どの、ここまで警護ありがとうございました。ここからは、男爵さまにお世話になりますので。」
「聖女どの。」
領地境ということもあり、長男はしぶしぶ後を託して帰って行きました。
もちろん、ティリスは騎士たちに回復魔法をかけたことは、言うまでもありません。
去ってゆく長男たちに向けて、ティリスは深く頭を下げたのでした。
「聖女どの…」
騎士隊長は、そんなティリスの様子にいたく感激したようで、口を開きました。
「なんと義に熱いお方でありましょうか、私感激いたしました。」
「なにをおっしゃいますやら、しかし、こんなにたくさんのオーガがなぜ暴れたりしたのですか?」
「さてもそこであります、我々もそれを調査していたのですが、その矢先に暴れまわっていると報告を受けたのです。」
「ふうん、なにやらきな臭いですわね。」
「はあ?」
「レジオの暴走のみぎり、ブルードラゴンが飛来して、それを恐れた魔物たちが暴走した事例がございます。」
「なるほど。」
「オーガの嫌う、なにかが住み着いたのではありませんか?」
「それは…恐ろしいことですな。」
「はい、できうますれば、そういうものには会いたくありませんね。」
「誠に。あ、立ち話が長引いてはいけません、ささ、領主の館にお越し下され。」
「はい、ありがとうございます。
戦闘は、これで終わりではなかったんです。