第11話 愛の行方
お待たせしました。
なかなか、話が降りてこなくて、苦労してます。
お見捨てなきよう、よろしくお願いいたします。
ティリスのかすんだ視界には、わが子アンジェラの前に立つグリフォンが映っていました。
「あ、あああ、アンジェラ!アンジェラ!」
わが子に向かって、肘で少しずつ進んで行きますが、目がかすみ前がよく見えません。
ずるずると進む蒼の姿は、何もかも奪われようとしているただの女。
「あなた、あなた、アンジェラを助けて…」
「お嬢様には指一本さわらせないにゃ!」
槍を構えたミケは、悲壮な顔をしてアンジェラの前に立ちました。
「ふむ、ネコよ、そのようなものが我にささると思うか?」
「たとえ、アリの一刺しであろうと、最後まであきらめないにゃ!」
「なるほど、たいした覚悟じゃ。後ほど食ろうてやろうほどに。」
「ぐほう!」
グリフォンの前足は、ミケを軽く払いのけました。
ミケはおかしな声を吐きだして、壁に叩きつけられました。
ずるずると壁に沿ってずり落ちるミケ。
地面には血だまりができています。
「ああ、お、おじょう…さま…」
「ふはははははは、弱い、よわいぞ!」
「みけー!」
アンジェラは、ミケに向かって手を伸ばします。
「ふむ。」
グリフォンは、その前足でアンジェラを抑えつけました。
「ふぎゃ!」
「まあ、逃げるでない、ひとのみにしてしんぜようほどに。」
グリフォンは、優しく声をかけました。
「まてい!」
そこに駆けてきたのは、アンヌマリー。
「なんだ?お主は。」
「姫様の騎士!アンヌマリー!」
「なんだ、肉の堅そうな女だな。」
がん!と、アンヌマリーは剣を捨てました。
かちゃかちゃと鎧を外す音がします。
がばっと胸をはだけて、グリフォンに懇願しました。
「たのむ!私を食べろ!それで、姫様を許してくれ!」
あまり大きくもない胸をさらして、アンヌマリーはグリフォンに歩み寄ります。
「まあ、それほど硬くもなさそうだが、勘違いするな。我が食いたいのは、この魔力を持った娘だ。」
「あ~!」
アンジェラは、押さえつけられて、悲鳴を上げます。
「そう言わず、私もまずくはないと思うぞ。」
上半身はだかのアンヌマリーは、そっと近寄ります。
「じゃまだ、来るな。」
「ぐふ!」
グリフォンの前足は、容赦なくアンヌマリーを弾き飛ばしました。
「あんぬまりー!」
アンジェラの悲鳴が上がります。
「くくく、まあ、のちほどくろうてやるわ。」
グリフォンは、気持ち良さそうに喉を鳴らしました。
「ああ、アンジェラ…」
ティリスは、まだ這いずっています。
「くくく、この魔力、うまそうではないか。」
グリフォンは、長い舌でアンジェラのほほを舐めあげました。
「うう…とうさま、モモちゃん、とうさま!モモちゃん!あああ~!」
アンジェラの全身が白い光を放ちます。
「な、なにごと!」
しゅっと音がして、グリフォンの前に一人の男が立っていました。
一瞬遅れて、銀色の毛並みも美しい、オオカミの姿。
「なにをしている…」
男は、グリフォンに向かって声をかけました。
地獄の底から聞こえてくるような、低い怒りの声です。
「ああ?我はこれから食事なのだ、だまってそこに控えておれ。」
「ほう、それは面白いな、そこにいるのは俺の娘ではないのか?」
「とうさま!」
「それみろ、それは俺の娘だ。」
「そうか?それがどうしたのだ?」
「グリフォンとやら、お前には敵の善し悪しもわからんようだな。」
瞬時にその距離を詰め、グリフォンの左顔面にこぶしがめり込みます。
「ごは!」
その硬いくちばしに、ひびが入るほどの一撃に、グリフォンの前足が浮き上がります。
カズマは、そっとアンジェラを抱き上げました。
「アンジェラ、痛いところはないか?」
「とうさま、かあさまが!」
アンジェラは、ティリスの方を向いて、声をあげました。
「そうか、もう大丈夫だ。」
そう言って、いったん後ろに下がります。
「モモ!待たせたな、そのおろかものを引き裂いてやれ!」
「ぐおう!」
心得たと言わんばかりに吼え、グリフォンの頭の上から、モモの一撃が振り下ろされます。
ごばあ!
グリフォンは、顎から石畳にめり込みました。
「ぐふ!な!なにが!」
慌てふためくグリフォン。
「アンジェラを泣かせた!」
モモの怒りは、すさまじいものがありました。
普段は温厚な鼻筋に、めいっぱいしわを寄せて威嚇します。
次には、胴体に強烈な頭突きが入りました。
「げはあ!」
右側のアバラが、すべて折れたようです。
グリフォンの口からは、大量の血が吐き出されました。
「泣かせた!」
右前足が、鋭い牙に食いちぎられます。
「ぎゃあああああああ!」
「ぺっ!まずい。」
ごろりと転がる、グリフォンの前足。
「双斬檄!」
モモの前足が振られると同時に、グリフォンのしっぽの蛇が細切れになって飛びました。
「うがあ!」
「な、なにものだ、この我にここまで攻撃を通すとは。」
「わからんのか、グリフォン。」
カズマは、笑って告げます。
「なに?」
「それは、フェンリルだ、お前などに勝ち目はない。」
「な、なんと!」
ばさりと、羽根をふるって空に逃げようとしますが、モモはすぐに羽根にかみつきました。
「は、はなせ!」
「泣かせた!」
「ぐわああああああ!」
モモの首の一振りで、グリフォンの羽根はむしり取られました。
たまらず、グリフォンは悲鳴を上げて地面に打ち付けられます。
石畳が割れて、四方に飛び散りました。
「モモ!トドメだ!」
「うおん!」
ばちばちばち!
モモの両肩から、電撃が走り、グリフォンを捕らえました。
「うぎゃあああああああ!」
電撃をもろに食らって、グリフォンは黒こげになって倒れました。
目や口から、黒煙が上がっています。
「よし、よくやったぞ、モモ。」
「くうん。」
「アンジェラに怪我はない、たのむぞモモ。」
「くうん。」
モモは、アンジェラを包むように丸くなりました。
「しっかりしろ、ティリス。」
「ああ、あなた…」
「よくがんばったな。」
そう言って、カズマはティリスに治癒魔法をかけました。
光に包まれて、ティリスの怪我は治って行きます。
「ミケも、良く頑張ったな。」
「お、お屋形さま…」
「アンヌマリーは、素敵なかっこうだな。」
アンヌマリーは、真っ赤になっていますが動けませんので、隠すこともできませんでした。
「しょうがないなあ。」
カズマは、自分のシャツをぬいで、アンヌマリーにかけました。
「か、かたじけない。」
カズマは、二人にもヒールをかけて治療をし、アンジェラのもとに向かいました。
「おや?」
アンジェラは、モモのおなかの上ですやすやと眠っていました。
「まあ、これだけの大魔法を使ったんだ、眠くもなるか。」
「どうしたんですか?」
「ああ、俺とモモを、強引に引き寄せたんだ。」
「引き寄せた?」
「ああ、転移魔法を無理やり発動させて、二〇〇キロ離れた俺と、一〇〇〇キロ離れたモモを、同時に呼び寄せたんだ。」
「なんとまあ。」
「まったく、黎明の魔女じゃあるまいし、どれだけ強力な魔法を使うのか…」
「当分、封印ですね。」
「ああ、それがいい。」
「黎明の魔女プルミエにお願いしましょう。」
「ああ。」
アンジェラは、どうやら両親の魔力を受け継いだ、超魔女っ子だったようですね。




