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追って

いつもと同じに見えていつもと違う1日。

チキューに産まれた『ワタシ』は今日ここで17歳を迎える。


「千波、駅前にできたバーガーショップに行こう」


放課後、親友の麻子が私の席に駆け寄った。

クルクルとした髪の毛から甘い香りが漂う。

6月8日。学期末テストを10日前に控えた普通であり普通じゃない1日。


「ねぇ、行こう?」


「わ!本当?うん!行こう!」


私、結城千波は大きく首を縦に振った。

この10日を乗り切ればきっと大丈夫。

それさえ乗り越えられればもう二度とあんな辛い思いをしなくて済むはず。

そう思っていても左腕のアザの痛みが消えない。

今朝目覚めた時からずっと痛む。

痛みが現実を思い出させる。

もう少しで私は17歳を迎える。

ここでこんな風に他の人と変わらない毎日を送っていれば私は生き延びられる。


「今日も暑いねー、今年は異常気象らしいよ、梅雨なのに雨が一度も降らないんだって!」


夕暮れ時のバーガーショップの店内は学校の延長かと思うぐらいうちの学校の制服で溢れていた。

確かに、今年は全く雨が降らない。

どんよりとした雲からは今すぐにでも雨を落としそうなのに。


「席に行ってるね!」


先に注文を終えた麻子がトレイをしっかり握りしめ私に声を掛けた。

麻子の視線の先はカウンターから一番遠くの席だった。

こくんと、頷き提供されたセットを運ぼうとした時、隣にいた金髪の男の子とぶつかった。


「あ、ごめんなさい」


深い青色の瞳に吸い込まれそうになる。目が合った瞬間、脳裏にあの記憶がよみがえった。

『ワタシ』のせいで今まで暮らしていた国が失くなる。

『ワタシ』の裏切りのせいで。


「chinami、会いたかった」


私はこのコを知ってる。


「ユ、ユーリ?どうして貴方がここに?」


聞かなくてもそんな事分かっているのに。

きっと、私を呼び戻すためにここに、この(ここ)まできたのでしょう?


「chinami、キミのお婆さんもキミの帰りを待ってる…」


ワタシを育ててくれたお婆さん。

優しくて優しくて怒った姿を見たことのないお婆さん。

でも、あの優しさも嘘だったのではないかと?

全ては国のため。生け贄のワタシを育てる事がお婆さんの役目だったから。

それでも、私に向けてくれていたあの眼差しが全て嘘だとは思えない。


「だけど…私は帰らない…」


「…キミの命と引き替えにティアードが救われたところでボクにとっては本末転倒だよ」


「ユーリ?」


「ボクはキミを救いたい。そのために何を犠牲にしてもボクはキミを救いたい」


ああ…ユーリは変わらない…。

いつもそう。いつも私の事を第一に考えてくれてる。


「あのね、ユーリ」


私がもう一度口を開いた時彼はもうそこにはいなかった。








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