始まりの始まり
『永遠に生きられたら永遠に生きるだろうか?』
最近どこかでこんな言葉を聞いた。
私は?私は?もしそんなことができたら永遠に生きる?
自分の問いに、ふっと溜息とも笑いともつかない吐息が出た。
私は永遠に生きるどころかあと一日生きられるか分からないのに…。
海の水が足元をすくう。
冷たい…。
「cinami、そんな格好で…風邪引くよ」
太陽がようやく登り始めた朝方。
砂浜のずっと向こうの陸に立っている一軒家から銀髪の老婆の声が響いた。
私の格好、白のキャミソールワンピースを着たその姿は今の季節では寒々しく映ることだろう。
「cinamiさま。部屋にお戻りください」
全く気配を感じさせず、一人の男がそこに私の後ろに立っていた。
腰までの金髪をなびかせて、上着を肩に掛けてくれた長身の男性。
「お体にさわられます。早く中へ」
深い青い瞳は氷のように冷たい。
言葉だけ聞くと私の体を大層心配しているようだが、彼が心配しているのは私の体ではない。
彼の名前はシアン。
私のお守り役…、いや、私の見張り役…。
この国ティアードは、四方八方海に囲まれた静かな国。
争いも無ければ、権力争いもない。
至って平和な国だが、それは海の神サレドとのある契約のもとに成り立っている。
千年に一度の契約、それさえ守ればこの国は守られる。
国民が飢饉にさらされることも国民たちが暴動を起こすことも全て無く平和な生活を約束される。
その契約とは、千年に一度貝殻のアザを持って産まれた生贄をサレドに引き渡すと言うものだ。
そんなバカみたいな神話誰が信じる?
そんな信じられない神話のために、命を捨てられる?
私は今日17の誕生日を迎える。
前回の契約から1000年経つ。
皮肉なことに私の左腕には貝殻のアザが生まれつきあった。
「さぁ、参りましょう、cinamiさま」
こんなこと信じられる?
私の手を取り、シアンは歩き出した。
逃げたい、この世界から消えたい、いつも思ってた。
このままじゃ私は死ぬ、殺される!
「さぁ、cinami早く儀式の用意を」
儀式って何?
私はまだ死にたくない。
国中の人が続々に集まってくる。
もし、この世に神がいるとするならば、今の私を救ってくれるかもしれない。
現実にはそんなのいない。
「cinami」
好奇心旺盛な人の群れの中に、男性にしては高い男の子の声がした。
小柄で華奢な男の子。
水色の髪をして水色の切れ長の瞳。
ユーリ。
優しさに溢れたその瞳。
いつも私の側で私を支えてくれて大切な男の子。
「逃げよう、cinami」
ああ、私はこの時をずっと待っていたのかもしれない。
周りの制御する声も聞こえない。
引き留めようとする腕を振り切り、彼の側にいく。
彼と手が触れあった瞬間、目映い光に包まれる。
何コレ…?
眩しくて目を開けていられない。
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「起きなさい、千波、いつまで眠ってるの?」
母親に布団を剥がされ目が覚めた。
思い切り剥がすものだから、ベッドから落ちて頭を打った。
「イッターい」
「いつまでも起きないあんたが悪い」
母親はイライラした感じで部屋を出ていった。
ここは私の部屋。
何だろう?目覚めが悪いな。
昨日ぐっすり眠ったはずなのに。
私、結城千波はもうじき17歳を迎える。