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グリム機関の赤頭巾  作者: 兎月竜之介
グリム機関の赤頭巾
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09

 十分ほど歩いたところで、四人は目的地のゲームセンター前に到着した。

 駅前通りのビルに入っている店舗で、一階から三階までがゲームセンターで、四階から上はカフェや囲碁教室など別の店が入っている。一階の通りに面した部分はガラス張りで、UFOキャッチャーや大型筐体で遊んでいる学生の姿が見えた。稀野学園だけではなく、周辺の中学高校から集まっているようだ。


「……カルチャーゲームズ三号店」


 シルフィがポップな字体の看板を読み上げる。

 看板にはデフォルメされた赤色のティラノサウルスが描かれていた。おそらくはマスコットキャラクターなのだろう。


「近所に住んでいるはずなのに全然知らなかった……」


 やたらと明るい色調のビルを見上げる森斗。


「興味のないものってのは目に映らないからな」


 はっはっは、春臣が笑い声を上げた。


「ここは大型の体感ゲームなんかが中心で、みんなでワイワイと楽しむのに向いているゲーセンだ。俺みたいな格闘ゲームのプレイヤーだと、もっと別のゲーセンに行ったりするけどな。そっちにもあとで行ってみるか」

「それより、まずはどのゲームをやりますか? クレーンですか? 音ゲにしますか? みんなで初ゲーセンの記念にプリクラでも撮っておきますか?」


 先陣を切って、マリアがゲームセンターの自動ドアをくぐる。

 途端、森斗たちを日常生活ではなかなか感じないような大音量が襲いかかってきた。


 一階フロアには所狭しとゲーム筐体が並べられている。遊ぶためだけの機械にこれほどバリエーションがあるのかと、森斗は素直に感心していた。どれもこれも見たことがないので、思わず目移りしてしまう。

 彼の隣では、シルフィがぽかーんと口を開けて突っ立っていた。

 体を斜めにして、マリアが彼女の顔を覗き込む。


「もしや、シルフィさんもゲームセンターは初めてですか?」

「な、なんだ……初めてだったら悪いのか?」


 ツンケンとした態度に動揺が表れるシルフィ。

 マリアがにんまりと満足そうに微笑んだ。


「いいえー。都会派の女の子だってイメージがあったんですけど、意外と遊び下手な感じなんですね。そのギャップがまた可愛いなーだなんて」

「わ、私に勝手なイメージを持つな! 私がどんな人間でもいいだろ!」

「まあまあ、そんなことで喧嘩してるなよ」


 春臣が女子二人の間に介入する。


「せっかくだから、まずはゲーセン初体験の二人に遊ぶゲームを選んでもらおうぜ。あまり深く考えないで、やりたいゲームを直感で選ぶんだ。やり方は遊びながら覚えていけばいい。どれも面白いからな」


 言われて、森斗とシルフィは改めて一階フロアを見回した。

 やり方は遊びながら覚えればいいと言われても、やっぱり少しくらいは実生活に馴染みのあるゲームの方がやりやすいだろう。森斗はそんなことを考えながら、ふと目に止まった大型筐体ゲームを指さした。


「じゃあ、これで」

「私はこれがいい」


 選んだのは同時である。

 それに加えて、二人は同じ大型筐体ゲームを指さしていた。


 二人が選んだものは『アサルトライン・サードインパクト』というタイトルで、体感型のガンシューティングゲームである。プレイヤーは特殊部隊の一員として、生物兵器を悪用する秘密組織の打倒を目指す。巨大な液晶画面の前には、二人プレイができるようにアサルトライフル型のコントローラーが設置されていた。


「二人とも、本当に仕事熱心ですよね……」


 あきれ顔のマリア。

 ゲーム経験者である春臣が遊び方を軽く説明する。


「コントローラーのトリガーを引いて、出てくる敵を片っ端から撃っていけばいい。怪しげな場所を壊すとアイテムが出てきたりする。銃弾が切れたら、コントローラーの狙いを画面から外してリロード。敵に組み付かれたら、足下にあるフットペダルを蹴ればいい。やることは簡単だろ?」

「春臣、このアサルトライフルはどこの銃なんだ? いまいち見たことがない型だ。どことなくAKに似たデザインなんだけど……」


 コントローラーを食い入るように観察する森斗。

 いやいや、と春臣が手を振った。


「そこまで細かくはデザインされてないだろ、ゲームなんだから。細かいスペックとかは気にするなよ。それとも、お前って結構なミリタリーオタクだったのか?」

「銃なんて使えればいいだろう」


 二人の問答を聞いていたシルフィが、ふんすと鼻を鳴らしている。


「それよりも、早くゲームをやろうじゃないか。私たちがこうしている間にも、生物兵器が人々を襲っているかもしれない。グズグズしていたら手遅れになるぞ。一般市民を一人でも多く救うことが私たちの任務だ」

「シルフィちゃん、世界観にのめり込むの早いね……」


 二人プレイなので百円玉を二枚投入。

 1プレイヤーが森斗、2プレイヤーがシルフィである。

 ちょうど、1プレイヤーのキャラクターが男性兵士、2プレイヤーのキャラクターが女性兵士になっていた。ただ、男性兵士はヒゲ面のナイスガイ、女性兵士はハリウッド女優のようなナイスバディである。


 画面はオートスクロールで進んでいく。森斗とシルフィは画面が自動で動くのに任せて、コントローラーを構えて敵勢力の襲撃に備えた。高画質で表示されている廃ビルと、前後左右から聞こえてくる3Dサウンドが雰囲気を盛り上げる。


「二人とも、来るぞ!」


 春臣の忠告と同時に、瓦礫の陰からゾンビ兵士が突撃してきた。

 ゾンビ兵士は銃剣付きのライフルで武装しており、銃弾をばらまきながらこちらに接近してくる。森斗とシルフィはコントローラーのトリガーを引いて、沈着冷静にゾンビ兵士の頭を撃ち抜いていく。


「いきなりヘッドショットとは、二人ともなかなか上手いじゃねーか!」


 感心している春臣。

 森斗とシルフィは次々とゾンビ兵を撃破していく。まだ第一ステージということもあって、敵キャラの動きはあまり俊敏ではない。この程度ならば、戦い慣れている二人にとってダメージを受ける要素はなかった。


 第二ステージに進んだところで、二倍ほどの体格を持つ巨大ゾンビ兵士が登場する。巨大ゾンビ兵士はさらに多数のゾンビ兵士、ゾンビ犬を引き連れていた。第一ステージとは比較にならない物量攻撃である。

 これにはシルフィも顔をしかめた。


「手榴弾を投げ込め、森斗! まとめて吹っ飛ばせ!」

「そんなものないからっ……いや、もしかしたら――」


 森斗はふと春臣の忠告を思い出す。

 画面上部に表示されている廃ビルの天井が、なぜだか不自然にグラグラと揺れている。彼はそこに銃口を向けると、コントローラーのトリガーを引いた。その瞬間、廃ビルの天井が崩壊して、巨大な瓦礫がゾンビ兵士たちを押しつぶしてしまう。

 マリアが小さく拍手を送る。


「森斗さん、ゲーム的な脳が働いてきましたね。グッジョブです!」


 そのとき、1プレイヤー側に表示されている数字カウントが一気に増えた。

 春臣が「ほほう……」とあごをさする。


「さっきの同時撃破によって、森斗に大量のポイントが入ったみたいだな。今のところ、ポイントでは森斗がシルフィちゃんに勝っている感じか……」

「か、勝ってるってどういうことだ!?」


 激しい攻防の中で、シルフィが春臣に質問を浴びせた。


「勝敗は秘密組織を潰せるか否かで判定されるんじゃないのか!?」


 彼はからからと笑いながら答える。


「ゲームクリアも勝敗の一つだけど、二人プレイっていったら、どっちがポイントを稼げるかで勝負するもんだぜ?」

「な、なるほどな……そういえば、これ、ゲームだったな……」


 それから、森斗とシルフィは次々と生物兵器を撃破していく。空から襲いかかってくる昆虫型モンスター、運河ステージで飛びかかってくる殺人ピラニア、生体強化されたバイオ忍者など、そのバリエーションは多岐にわたる。


 森斗は始終沈黙を貫いていたが、その一方でシルフィは「うあっ!」だとか「ぐぬぅ!」だとか「あわわ……」だとか、感情が声になって漏れだしていた。そんな彼女のことを眺めていたマリアもまた、「いやぁ、可愛いですねー」とよだれを垂れ流していた。


「――って、マリアちゃん! よだれが垂れてる!」

「あっ、すみません。興奮すると、口が開きっぱなしになっちゃって……」


 ハンカチで口元を拭いて鑑賞再開。

 森斗とシルフィの初心者とは思えない華麗なプレイングによって、二人の撃破スコアは完全にハイスコアコースに乗っていた。見たこともないハイスコアと、銀髪美少女がふんふん言いながら必死にプレイするという光景が、ゲームセンターを訪れた学生たちの注目を集めて、すでに人だかりができ始めている。


 ゲームは最終ステージに突入。

 画面は市街地に切り替わって、巨大な触手状のモンスターが一般市民を襲っている。プレイヤーたちが銃口を向けると、捕まえた一般市民で弱点のコアをガードするという狡猾さまで持ち合わせていた。


「しゃらくさい! 死ね!」


 シルフィが容赦なく一般市民に銃弾をぶち込む。


「えぇええええっ!?」


 これには黙々とプレイしていた森斗も驚いた。


「一般市民を撃ったらポイント下がっちゃうよ、シルフィ!?」

「主要都市が襲われているんだぞ! もはや、一般市民の一人や二人を悠長に守っていられるか! 戦いに犠牲はつきものなんだ! というか、どうして今まで隠密作戦に従事してきたのに、最終決戦が都市部にまでもつれ込んでしまうんだ!」


 そりゃあゲームだから、という春臣の言葉はシルフィに届かない。

 ただ、彼女のポイント減少もためらわない戦法はむしろ効果的だった。一般市民の安否を気にして銃撃をためらうよりも、多少のポイント減少を覚悟して撃ちまくったことで、短時間かつダメージを最小限に抑えることができたのである。


 これはもしかしたら、初プレイでハイスコア獲得ができるかもしれない。

 マリアと春臣、そしてギャラリーの学生たちが手に汗握る。

 ラスボスまであと少し。


 そして、シルフィがリロードするために銃口を画面から外した瞬間だった。

 巨大モンスターの触手が伸びてきて、シルフィが担当する女性キャラクターが捕まってしまったのである。


「くそぅ、鉛玉を喰らわせてや……あ、あれっ? 銃が撃てないぞ!」


 シルフィはトリガーを引くが、カチカチと乾いた音が鳴るばかりだ。

 森斗が焦る彼女にアドバイスを送る。


「キックだ、シルフィ!」

「そ、そうだったな。分かったぞ!」


 モンスターに組み付かれてしたら、足下のキックペダルに蹴りを入れる。

 森斗はそう伝えたつもりだったのだが、シルフィは何を思ったのか、いきなり両手で抱えていたアサルトライフル型のコントローラーを投げ出してしまう。

 そして、


「これでもくらえっ!!」


 彼女は高画質の巨大スクリーンに、全力のドロップキックをぶちかました。

 その場にいる学生たちが、シルフィを覗いて度肝を抜かれたのは間違いない。森斗もあっけにとられて、完全に攻撃の手が止まってしまっていた。ギャラリーの中には、本当に戦闘に巻き込まれたかのように悲鳴を上げたものまでいる。


「どうだ、効いたか!」


 しなやかに着地して、したり顔でスクリーンを見上げるシルフィ。

 だが、巨大スクリーンは暗転して、もはやゲーム画面を映し出すことはなくなっていた。それに加えて、警報機じみたビビビビビーッという電子音がゲームの筐体から鳴り響いている。機械に問題が生じているのは火を見るより明らかだった。


「こんなの弁償できるかよ! みんな、ダッシュだ!」


 自動ドアが開くのを待って、春臣がいの一番に全力で駆け出す。


「ここは逃げるが勝ちですよ、二人とも!」


 彼に続いて、マリアもギャラリーを抜けて走り出した。

 森斗は一階フロアの奥の方に振り返る。

 すると、ゲームセンターの店員たち数名が、こちらに向かって走ってくるのが見えた。


「ここは撤退しよう、シルフィ!」

「え、でも、あいつをやっつけないと街が……」

「いいから、早くして!」

「え、いや、ちょっと――」


 森斗は一秒も待ってられないと、思い切ってシルフィの体を肩に担ぎ上げる。

 非武装状態ということもあるが、彼女の体はとても軽くて簡単に担ぐことができた。


 シルフィを担いだまま、自動ドアを抜けて駅前通りに飛び出す。彼女が肩の上で大暴れしていたけれど、しっかりと胴に腕を回していたので落としてしまうことはなかった。担ぐのがマリアだったらこうはいかないだろうな……などと森斗は思ったが、それは口に出さないで胸の内に秘めておいた。

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