38 標的は狩屋森斗
シルフィとジャックは細い路地で対峙する。
道幅は三メートルほどしかなくて、一対一の状況でも窮屈に感じる。左右にあるのは安っぽいシティホテルで、レンガ風のコンクリート壁で敷地と路地を仕切っていた。建物の裏手に当たるため、シティホテルの中から覗かれる心配もない。
シルフィの近くには二台しか入らない有料駐車場がある。現在は白いセダンが一台だけ駐車している。その脇には自動販売機があって、深夜の冷蔵庫のような不気味な重低音を鳴り響かせていた。
ジャックは彼女から十五メートルほど離れた場所にいる。蒸し暑い夜だというのに革製のジャケットを羽織っていた。ナイフを握る手にはトライバルタトゥーがくっきりと浮かび上がっている。ナイフの尖端からは血がぽたぽたと垂れていた。
彼のそばには電信柱が一本立っていて、怪しげな金融会社やテレクラの広告看板がくくりつけられている。そして、電信柱の根本には大型のポリバケツが置かれていて、そこから女性の足が突き出ていた。
シルフィはスクールバッグから、隠しておいたグルカナイフを抜いた。
両手に一本ずつ握って構える。
「……切り裂きジャック、ここでお前を殺してやる」
「いいね、やる気があって!」
ジャックがせせら笑った。
彼が折り畳みナイフを振るうと、コンクリートの地面に血糊が飛び散った。
赤色の瞳がシルフィをじぃっと見つめる。
「きみのことは知っている。東京支部の赤頭巾だよね? 人狼のハイブリッド。インペリアルにトドメを刺したのはきみだって、異端者たちの間では噂になっている。超越者協会と縁は切れているけれど、それくらいなら俺の耳に入ってくるんだ」
「異端者に知られたって何も嬉しくない」
シルフィは胸の辺りにモヤモヤしたものを感じた。
半分だけ異端者化しているからといって、仲間だと思われるよりはマシだろうか?
ジャックがニィッと唇の端を釣り上げる。
「正面から殺し合うのは男相手の方が楽しいんだけど、解体することに限っては女相手の方が楽しいんだ。男は解体されるときにみっともない声をあげる。鼻水を垂らしたり、小便を漏らしたり、ママのことを呼んだりする。でも、女はそんな無様なことはしない。最後まで歯を食いしばって、どれだけ残酷なことにも耐えようとする」
そして、ナイフの尖端をシルフィに向けた。
「赤頭巾、きみはとても強そうだ。きみなら全力で戦ったあとでも、じっくりと解体を楽しむことができる。インペリアルと戦った男のことだけじゃなくて、人狼のハイブリッドになった理由も、誰にも話せないような秘密も、全て話してもらおうか」
「……拷問に掛けるのは私の方だ!」
シルフィはジャックとの距離を詰めようと駆け出した。
十五メートル程度ならば、彼女にとっては一足飛びで十分である。
――が、すぐさま不穏な気配を察知して立ち止まった。
ジャックが突然、逆手に持ったナイフを電信柱に向かって振り下ろす。
電信柱はコンクリート製だ。ジャックは異端者化によって身体能力が飛躍的に向上しているが、武器が折り畳みナイフでは人間離れした筋力を生かすことができない。異端者の肉体に見合った武器はそれほど多くないのだ。
けれども、今回は事情が大きく違った。
ジャックの振り下ろしたナイフは吸い込まれるように電信柱に突き立てられる。
まるで半分溶けたバターのように抵抗がない。
彼はそのまま、ナイフを斜め下に向かって振り下ろした。
瞬間、電信柱に無数の亀裂が走る。
コンクリート製の柱が細切れになって、シルフィに向かって倒れてきた。千切れた電線からは電流が漏れだして火花を散らしている。電信柱から発生した亀裂は電線を通って、さらに隣の電信柱にまで及んでいた。
千切れた電線が前後から襲いかかってくる。
「くっ――」
シルフィはとっさにその場で跳び上がった。
電線の動きを見きって、空中で体をひねりながら回避する。感電すれば訓練を受けた狩人でもひとたまりない。だが、シルフィはわずかな隙間を縫うようにして、華麗な宙返りで降り注いでくる電線を避けきって見せた。
コンクリート片はいくらか被ったが、どうにか無傷で着地する。
シルフィは認識を改めた。
切り裂きジャックの属性は『解体』だ。ナイフを突き立て、切り払うことによって広範囲を解体することができる。そして、どうやら解体の対象は人間に限らないらしい。事実、彼は電信柱と電線を解体して見せた。
「流石だ、赤頭巾!」
着地の隙を狙って、ジャックが一気に距離を詰めてくる。
ジャックの身体能力は異端者化して強化されているが、彼の足運びはそれだけで片づけられるものではない。訓練を受けたはずでもないのに一流の暗殺者さながらだ。殺人鬼の中には殺人技術を自然と会得するものがいる。まさに殺人の才能だ。
「切り裂けッ!」
襲いかかるジャック。
シルフィはとっさにグルカナイフで攻撃を受けた。
その判断が誤りだった。
「――しまった!?」
ジャックのナイフを受け止めたことで、右手のグルカナイフが解体される。逆くの字に折れ曲がった刀身、太くて握りやすいグリップ、滑り止めに巻かれているテープがバラバラになって手から滑り落ちた。
千切れた電線に刀身が触れて、バチバチとまばゆい火花を放つ。
ジャックの返す刃をシルフィは大きく飛び退いて回避しようとする。
だが、ナイフの尖端がパーカーの裾に引っかかって、瞬時にして赤色のパーカーを無数の布きれに変えてしまった。
パーカーのポケットからシルフィの携帯電話が落っこちる。
そのまま勢いよく地面をすべって、ジャックの遥か後方に行ってしまった。
今はインカムを付けていないので、連絡手段は落とした携帯電話に限られている。だが、応援は勝手にやってくるはずだ。ジャックの手に渡ったとしても、データが自動消去されるから問題ない。回収は後回しである。
「あと一本!」
ジャックが足場の悪さを感じさせない猛攻を仕掛ける。
シルフィはとにかく回避に徹した。
相手は切り傷を付けるだけで、攻撃対象を切り裂くことができる。小さな傷が命取りだ。武器で受け止めることもできない。それに加えて、足下に千切れた電線がのたうっている状態では、ただひたすら避けているだけで精一杯だった。
「どうした、赤頭巾! 威勢が良かったのは最初だけかい?」
「まだまだぁ!」
シルフィはグルカナイフの背を使って、千切れた電線を跳ね上げる。
相手が動きを封じてくるなら、こちらは同じ手をやり返させてもらう。解体の能力があるとはいえ、ナイフで電線を切断したら感電するはずだ。当然、千切れた電線はジャックの動きを封じる壁にもなる。
ジャックが飛び退いたところを狙って、シルフィは横に向かって跳躍した。
レンガ風のコンクリート壁を蹴って、三角飛びの要領で回し蹴りを放つ。
「くらえっ!」
シルフィの蹴りはジャックの首筋にヒットした。
手応えはあったが、ジャックは一歩前に踏み出しただけに留まる。シルフィの体格で打撃を試みても、流石に異端者に大きなダメージは与えられない。だが、多少なりとも怯んだなら、その隙を有効活用するだけだ。
シルフィは身長差を逆手にとって、地面を舐めるような低姿勢で切り込んだ。
ジャックの攻撃をかいくぐって、彼の右膝をグルカナイフで切りつける。膝小僧に真一文字の傷が走って、コンクリートの地面にピッと血しぶきが飛んだ。だが、踏み込みが足らなかったせいで切断には至らない。
距離を取るジャック。
「おっと、危なかった!」
「チッ……」
シルフィは思わず舌打ちする。
銀でコーティングされたグルカナイフは、宗教的に忌み嫌われるタイプの異端者に大きな効果を発揮する。特に弱いものは黒い煙を噴き上げながら灰になるほどだ。だが、ジャックの傷口は血が流れるだけで特別な現象は起こっていない。
銀製の武器が通用しないなら、残る選択肢は主に三つである。
心臓を潰すか、脳を潰すか、全身を粉微塵にするか。
ジャックが楽しそうに笑った。
「きみ、そこらのベテラン狩人より強いよ!」
そんなことを言いながら、右膝からの出血はすでにピタリと止まっている。
回復能力は二重丸だ。
「それはどうも――」
シルフィが今一度攻撃を仕掛けようというときだった。
背後から、
「――ひっ、ひぃいいっ!?」
情けなさに溢れた男性の悲鳴が聞こえてくる。
シルフィは視線だけ動かして確認する。
有料駐車場に止めてあるセダンの影から、サラリーマン風の男が飛び出してきたのだ。
ずっと息をひそめて隠れていたらしい。どうせ隠れているなら、最後まで隠れていれば良かった。これだから戦場のことを何も知らない一般人は嫌いなのだ。今更になって、一般人になんて構っていられるか!
シルフィは攻撃に転じようとするが、一瞬、気になるあいつのことが脳裏をよぎる。
あいつは当たり前を守ろうとしている。
そして、自分はあいつの代わりとして戦場に立っている。
だったら、守ろうとしていたものを代わりに守るのも義務だ。
「あぁ、まったく!」
シルフィは男を逃がすため、その場に踏みとどまってグルカナイフを構えた。
自分の中途半端に真面目な部分が嫌になる。
……とはいえ、それでも勝利のチャンスを逃がしたわけではない。狩人である叔父から教わった技はジャックに通用している。応援も近づいているはずだから、このまま相手を逃がさなければ勝利は近い。
そう思った矢先のことである。
「ここは私に任せて、さっさと――」
何者かがシルフィを背後から羽交い締めにした。
シルフィはとっさに振りほどこうとする。
彼女を羽交い締めにしたのは、先ほど逃げ出したはずの男だった。
間近で目撃したことで、そいつの瞳が赤色に染まっていることに気づかされる。
男は逃げ出す機会を失って隠れていたわけではない。ジャックによってグール化された状態で、セダンの影に待機させられていたのだ。たった一人で戦いに来た狩人を仕留めるため、逃げ遅れた一般人を装って……。
「くそっ!」
シルフィは悪態をついて、グール化した男を振りほどいた。
グールが身体強化に特化していないのが幸いした。グールは異端者の属性によって、分け与えられる能力が大きく変化する。ジャックの『解体』がどのように影響を及ぼしているかは分からないが、少なくとも筋力が増しているわけではないらしい。
グルカナイフでグールを一刀両断にする。
グールの首がスパッと飛んで、即座に残された肉体が崩れ始めた。この男はジャックの下僕にされただけで、悪いやつではなかったかもしれない。だが、殺人鬼に目を付けられたのが運の尽きということで命は諦めてもらう。
くるりと反転するシルフィ。
だが、そのときすでに彼女の目前までジャックが迫っていた。
振り抜かれる折りたたみナイフ。
シルフィはどうにか回避しようとするが、右手の甲に鋭い痛みが走った。
まずい――と思ったときには、自分の視界を血しぶきが埋め尽くしている。
手の甲から右肩まで、一瞬にして無数の傷が走った。まるで片腕を丸ごとミキサーに掛けられたような激痛がシルフィに襲いかかる。痛みだけではない。事実、右腕は全く使い物にならないくらいに切り刻まれていた。
「うっ――」
「もう一度!」
鋭い切り返しが再びシルフィに襲いかかる。
胸を突かれたら間違いなく命はない。
シルフィはやむを得ずに、ジャックに向かって左腕を差し出した。
折りたたみナイフで左腕を切り払われる。
ほんの小さな傷から亀裂が広がって、シルフィの左腕も一瞬で切り裂かれてしまった。
スプレーのような血しぶき。
頼りのグルカナイフも取り落としてしまい、彼女は飛び退いて距離を取るしかない。
「……やってくれたな」
痛みと大量出血のせいで、シルフィの意識に霞が掛かった。
ジャックが放ったナイフの突きを彼女は半ば倒れるように回避する。すると、勢い余ってナイフの尖端が駐車場のセダンに突き刺さった。本来ならば反撃のチャンスだが、シルフィは意識を保っているだけでも精一杯だ。
解体の能力によって、セダンの車体が一突きでバラバラに崩れ落ちる。
まるで玩具の車を踏みつけてしまったような有様だ。
燃料タンクからガソリンが流れ出して、危険を感じたシルフィとジャックが同時に飛び退いた。その直後、電線から飛び散った火花がガソリンに引火する。炎はガソリンをさかのぼり、あっという間にセダンの残骸を包み込んでしまった。
電信柱が倒れて、火災まで発生したら、ホテル街の人間たちも流石に何か起こったと気づくはずだ。シティホテルから何人も飛び出してきたら、それだけで戦闘どころではない。シルフィとジャックに残された時間は少なかった。
そのはずだが、ジャックは随分と余裕そうにしている。
彼は自動販売機にナイフを突き立てて解体すると、転がり落ちてきたコーラを拾い上げて飲み始めた。
シルフィは両腕をだらりとさせたまま、相手の動きに注意を払うしかない。
ジャックが半分ほど飲んだコーラを投げ捨てた。
飛んできたアルミ缶を回避するシルフィ。
コーラの飛沫が頬に付着して苛立ちを煽られた。
「……で、人狼化するの?」
問いかけられた瞬間、シルフィの心臓が跳ねあがる。
思わず胸を押さえたくなったが、両腕がボロ雑巾のようになっているので無理だった。
心臓はこれほどまでふくれあがるのかと驚いた。今すぐにでも爆発してしまいそうだ。どれだけ自分が動揺しているのか、物理的な衝撃として伝わってくる。心拍数の上昇に伴って、体がビクビクと震えだしそうだ。
状況から考えれば、人狼化しない理由の方が見当たらない。
シルフィは人狼化することによって、本物の人狼と同等かそれ以上の回復力を得られる。両腕を切り刻まれてしまった今、瞬時に回復できればありがたいことこの上ない。身体能力も急激に増すため、武器を一本失ったディスアドバンテージもひっくり返せる。
だが、自発的な人狼化は一度も試したことがない。
人狼化ができたとして、自分は戻ってこれるのか?
シルフィの脳内で冷静さと臆病さが衝突する。
自力で成功させてみせると、森斗相手に大口を叩いたではないか。彼のおかげで、すでに二度も人狼化の解除は成功している。そのときの感覚を思い出せば、きっと自分一人だけでも成功させられるはずだ。
ドッドッドッドッ……。
心臓の鼓動が耳鳴りのように響いている。
冷たい汗が滝のように溢れ出た。
血が流れすぎて、体の芯が冷たくなってくる。
「……そうか、しないのか」
シルフィの返答を待たないで、ジャックは判断を下した。
否、答えられないのが答えのようなものである。
「きみ、心が折れてるね。随分と心が弱い女の子だ。これじゃあ、解体したところで面白くないよ。情報も聞き出したいけれど、はっきり言って気分が冷めた。とりあえず、これだけはもらっていくね」
ジャックが足下に落ちているシルフィの携帯電話を拾い上げた。
手元を離れてから数分が経過している。
彼がデータをチェックしようとした頃には、データは全て自動消去されているだろう。
「ま、待てっ!」
シルフィは必死にジャックを引き止める。
応援がもう少しで駆けつけのだ。せめて時間だけでも稼ぎたい。
ジャックはきびすを返して、一言だけ言ってくる。
「赤頭巾……きみ、獣臭いよ。気づいてる?」
彼は力強く跳び上がると、シティホテルの屋上を伝って逃げていった。
グリム機関は彼を追跡してくれるだろう。だが、シルフィにはジャックに発信器を取り付ける暇がなかった。彼はどこかしらで追跡から逃れるはずである。大都会東京とはいえ物理的、電波的な死角は無数に存在する。
追いかける気力も湧かずに、シルフィはその場に立ち尽した。
最悪の結果だ。
絶対にジャックを倒そうと意気込んでいたのに逃げられた。両腕が使い物にならなくなったので、すぐには戦場に立たせてもらえない。狩人が一人抜けるだけでも、忙しい最中のグリム機関には大きな痛手だ。
シルフィは猛烈な恥ずかしさに襲われる。
自分の実力を過信しすぎた。どうして、一人で勝てるだなんて思ってしまったのか。森斗のために一人だけで立ち向かおうとする自分に酔っていたのだ。恥ずかしすぎる。美希の電話を切ったあのときの自分を殴ってやりたい。
続いて、果てしない絶望感がやってくる。
ここで取り逃がしたせいで、森斗の出動禁止がさらに伸びてしまった。ジャックはまた念入りに姿を隠すだろう。彼が次に発見されるときは、新たに被害者が増えるときだ。自分が罪もない人間を殺しているようなものである。
底のない落とし穴に落とされたような気分だ。
安楽死のスイッチがあったら押してしまいたい。
だが、何よりも悔しかったのが人狼化に踏み切れなかったことだ。人狼化できていれば、少しはマシな状況になったはずだ。ジャックからわざわざチャンスを与えられたのに、森斗と約束をしたのに、自分は何もできなかった。
背後から複数の足音が聞こえてくる。
「――シルフィさん、無事ですか!?」
振り返ると、日本刀を携えたマリアが駆け寄ってきた。
彼女は移動中に着替えたのか、稀野学園の制服とは違ったセーラー服を着ている。
随伴してきた戦闘班の面々は、シルフィを守るようにして展開した。
仲間たちが来てくれたことに安堵して、シルフィの全身から力が抜ける。
「あっ、危ないっ!」
マリアが滑り込むようにして、どうにか彼女の体を抱き止めてくれた。
白地のセーラー服にシルフィの血が染み込んでいく。
出血の量だけでも、傷が相当に深いことは明らかだ。
だが、シルフィは嫌そうに体をよじる。
「……私のことはいいから、ジャックを追ってくれ」
「何を言っているんですか、シルフィさん!?」
マリアは彼女を逃がさないように力一杯抱きしめた。
生暖かい血液がセーラー服どころか、下着の辺りにまで染みてくる。
近くに待機している車両から、担架を担いだ医療班のメンバーたちが駆けつけた。
マリアが彼らと協力して、シルフィの体を担架に乗せる。
シルフィは弱々しくも必死な形相でマリアに訴えようとした。
「……なぁ、私のことなんてどうでもいいんだ。勝手に飛び出して、勝手に負けた。私なんかに構っている暇があったら、今すぐにジャックのことを追ってくれ。そうしなければ、罪もない人たちや森斗が、」
「――シルフィさん」
マリアが顔を覗き込んでくる。
彼女は鼻と鼻がぶつかりそうな距離で言った。
「……それ以上、余計な駄々をこねたら本気でひっぱたきますよ」
この距離でようやく気づいたが、彼女の目尻には大粒の涙が浮かんでいる。泣くのを必死に堪えようとして、体が小刻みに震えてすらいた。マリアがどれだけ心配してくれたのか、それがシルフィにも痛いほど伝わってくる。
「悪かった、マリア。私はどうかしているみたいだ……」
「この場は私たちに任せて、シルフィさんはゆっくり休んでくださいね」
力強く笑顔になってみせるマリア。
シルフィは担架に乗せられて、一般車に偽装されたグリム機関の車両に移される。
ドアが閉ざされると同時に彼女の意識は暗闇に落ちていった。




