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後悔
恋なんてしていない……たった一瞬なのに……どうして私の全てを奪ってしまうの?
先のない思いに、泣きたくなる。
とぼとぼと社に戻ると、大きなゲタを履いた雫を母様は抱きしめてくれた。
『しょうのない子ね』
雫の心を感じ、痛みを思う。 力の入らない白い腕に、雫は謝った。
『母様、ごめんなさい』
こんな状態だったのに……浴衣も……ワラジも……恥ずかしいなんて……一瞬でも思った自分を悔やむ。
『ごめんなさい』
恋をしてしまったの。 ごめんなさい。
謝り続ける雫の背中を、ぽんぽんと母様は軽く叩いた。
ごめんね、と聞こえない程小さく謝る声に、雫は泣いた。
明日……ゲタだけ返そう……。
名前も知らない少年が、頭の中でそっと笑っていた。