恥じらい
どうしたんだろう……楽しい。
お囃しが少年との距離を縮める。
『あ……金魚』
青い水槽を舞う赤い金魚に目が止まる。
『欲しいの?』
ふるふると首を振った。 貰っても飼えない。 連れて逝くのは可哀相だから……。
ふと、心に夜が落ちる。
《 恋をしてはいけないよ 》
母様の言葉が甦る。 傷つきたくなくて心を夜に隠す。
『少し休もう』
2人は木の柵に軽く腰掛けた。 スッと雫が足を引く。 ワラジなのが恥ずかしい。 周りを見ると、女の子達は皆雫よりずっと綺麗な浴衣を着ていた。 否応なく意識してしまう。
少年の目に、私はどう映っているのかな……こんな……何で私……みすぼらしいの?
気付いたらその場に居れなくて、雫は立ち上がる。
その時、間の悪い事にワラジが切れた。
『――ッ』
『危ないッ』
すんでのところで再び支えられた。 しゃがみ込む少年の視線が、切れたワラジに止まる。 すげ替えるにもボロボロなソレを見られて、雫は恥ずかしさで真っ赤になった。
見ないで、見ないで、見ないで……。
『ちょっと大きいけど……』
そう言って少年は自分の履いていたゲタを雫に履かせた。
『や……いらな……』
惨めになる……優しくしないでよ……。
断ろうと顔を上げたら、少年の顔がすぐ前にあってまた息がとまる。
『明日……返してくれたらいいよ』
笑う少年に心臓がぎゅっとなる。
『ごめんなさい』
謝る雫に、少年は立ち上がり、少し離れると告げた。
『また……明日同じ時間に……』
繋いだままの手を引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられる。
これは恋じゃない。
頑張って言い聞かせているのに……。
抱きしめられたぬくもりを離したくないと思ってしまう。 心がざわついて五月蝿い。
じゃあ……と、手を振り少年は行ってしまった。