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恋雫  作者: 藍蜜 紗成
3/9

恥じらい

 どうしたんだろう……楽しい。

 お(はや)しが少年との距離を縮める。


『あ……金魚』


 青い水槽を舞う赤い金魚に目が止まる。


『欲しいの?』


 ふるふると首を振った。 (もら)っても飼えない。 連れて()くのは可哀相だから……。

 ふと、心に夜が落ちる。


 《 恋をしてはいけないよ 》


 母様の言葉が甦る。 傷つきたくなくて心を夜に隠す。


『少し休もう』


 2人は木の柵に軽く腰掛けた。 スッと雫が足を引く。 ワラジなのが恥ずかしい。 周りを見ると、女の子達は皆雫よりずっと綺麗な浴衣を着ていた。 否応なく意識してしまう。


 少年の目に、私はどう映っているのかな……こんな……何で私……みすぼらしいの?


 気付いたらその場に居れなくて、雫は立ち上がる。

 その時、間の悪い事にワラジが切れた。


『――ッ』


『危ないッ』


 すんでのところで再び支えられた。 しゃがみ込む少年の視線が、切れたワラジに止まる。 すげ替えるにもボロボロなソレを見られて、雫は恥ずかしさで真っ赤になった。


 見ないで、見ないで、見ないで……。


『ちょっと大きいけど……』


 そう言って少年は自分の()いていたゲタを雫に()かせた。


『や……いらな……』


 惨めになる……優しくしないでよ……。

 断ろうと顔を上げたら、少年の顔がすぐ前にあってまた息がとまる。


『明日……返してくれたらいいよ』


 笑う少年に心臓がぎゅっとなる。


『ごめんなさい』


 謝る雫に、少年は立ち上がり、少し離れると告げた。


『また……明日同じ時間に……』


 (つな)いだままの手を引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられる。


 これは恋じゃない。


 頑張って言い聞かせているのに……。

 抱きしめられたぬくもりを離したくないと思ってしまう。 心がざわついて五月蝿(うるさ)い。


 じゃあ……と、手を振り少年は行ってしまった。

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