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祭り
町へ下りると、そこは華やかな色で溢れていた。 赤い提灯が夏の夜に踊り、艶やかな色浴衣が道を泳ぐ。 風が揺らす囃し太鼓に、屋台の風車が回った。
祭りの中に入ろうとした時、トンッと人にぶつかった。
『あ、ごめん』
告げられ、よろけた身を支えられ、見上げた顔に息をのんだ。
『……大丈夫?』
青い着物を着た少年。 年は15より上だろうか……。 優しく聞かれて、頷く。
『あ……』
ありがとうと、言おうと思うのに、息が止まる。
何だろう、胸が痛い。 味わったコトのない気持ちに雫は戸惑う。
『お祭りは初めてなんだね』
答えられずにいると、怒るでもなく少年は手を差し出した。 黒い目が静かに笑う。
『一緒に回ろう』
誘われて、夏の熱さに溺れる。 雫の胸の前で重ねた手を取り、少年は「行こう」と笑った。
手がおっきい。 顔があっつい。
風車が背中を押す。
少年は風のように人波を駆け抜けた。 目に写るはふわふわな綿飴。 色鮮やかなお面。 雫は浮き足立った。